閑話4.三老
帝都の中の、帝城に程近い、とある高級な飲食店。
高級なこの店の中でも、最も格の高い個室に、わし達は集まっている。
今年で90歳となるわし、ルイ・トマス。
我らが帝国の皇帝である、初老の男性、ハミディムラ・アダルバート・パラルベント。
帝国騎士団の先代団長である、壮年の男性、ブラキウム・トレローナス。
帝国の重鎮だらけで、一見堅苦しそうに見えてしまうが、その実、わし達は古くからの仲であり、この三人で集まる時だけは、肩書を抜きにして話す事にしている。
まあ流石に、相手は仕える対象なので、わしもブラキウムも敬語は怠らない。
「それで?一人だけ帝都を離れて、随分と楽しそうな所に首を突っ込んだらしいじゃないか?ん?」
ワインの入ったグラス片手にダル絡みを仕掛けてくるのは、ブラキウム。
コイツは騎士団長を継いだ子の面倒を見る為、帝都を離れる事が出来ないので、今回帝都から離れてイェヘラに行ったわしを羨ましがっているのじゃろう。
「楽しそうな所とはな、はて……」
「とぼけるなよ。神話にも出てくるアグマ・ネタルの討伐、これほどに楽しそうな事は無いだろう!」
戦闘狂め……。
戦いに興奮するのは一部の戦闘狂だけじゃぞ!まったく。
「アグマ・ネタルの討伐以外にも、建物の建築とかしたがの……久々に雑用をさせられたわい」
「建築なんて、お前の魔術に掛かればちょちょいのちょいだろうが!ですよねぇ、陛下!」
「それには同意するな」
「時間的には短いかもしれんが、あれで結構疲れるんじゃよ……」
ブラキウムがハミディムラまでも味方に付けて攻撃してくるので、わしは肩を竦めながらそう言うしかない。
『独りで城を建てる程の魔術を扱える』という意味で『独城の魔術師』と呼ばれているが、実際のところ、単独で築城をするのはかなりの魔力を消費し、更に疲れる行為なのじゃ。
まあ、その気になれば、城の一つや二つぐらい建ててみせるのじゃが……。
「他に何か面白い話は無かったのかよ!他の冒険者とか、お前の弟子とか」
「む……?アルは、そういえば練習しておった短機関銃を使っておったな……」
「たんきかん……?なんだそれは?」
困惑するブラキウムと、興味深げにしているハミディムラに、短機関銃についての説明をしてやる。とはいっても、わしも元はただの日本の中学生、銃に関する知識は深くない。あくまでゲームに毛が生えたぐらいの知識でしかない。
二人には既に銃という概念を教えた後なので、短機関銃についてもすぐに理解してくれた。
「他の冒険者というと……見どころがありそうだったのは、『炎剣』のサールデ殿に、『闇の力』リーダーのファイス殿、それとアルとパーティーを組んでおったエルナト嬢ぐらいかの……」
「『炎剣』というと……イェヘラのギルドマスターだったか。後の二人は知らんな」
武人に関しては知識欲のあるブラキウムは、元Bランク冒険者であるサールデ殿の存在を認知している様じゃ。
後者二人は新鋭なので、まだ認知の外らしい。
「ファイス殿は闇魔剣士じゃな。未熟な所もあるにはあるのじゃが、魔術の腕前が高水準な上に、剣に対しても真摯……。そうじゃな、王国の魔導騎士に近いと言ってもいい」
「魔導騎士か……なるほどな」
ルーベット王国独自の戦力、魔導騎士。
数こそおよそ100と少ないものの、魔術と剣術、馬術と弓術の全てを高水準で操る彼らは、王国においての最高戦力と言ってもいい。
争った事が無いので確かな事は言えないが、恐らく宮廷魔術師の半分以上は対面戦闘で勝利する事は叶わないだろう。
「エルナト嬢は、テイマーじゃ」
「「テイマー?」」
テイマーという単語に、二人は揃って首を傾げた。
闇魔術で魔物を調教する、という発想自体はわしも前々から持っていたが、実際の成功例を見たのは初めてじゃ。
そもそも闇魔術師は精神系の魔術をあまり使いたがらない傾向にあるので、実験例も少ない上に、魔物を調教させる事は難しい。一度宮廷魔術師の一人に頼んで実験をした事があるが、その時は成功出来なかった。
エルナト嬢に才能があるのか、たまたまあの狼と絆を結べたのか。どちらなのかは分からないが、珍しい例である事に違いは無い。
「テイマーとは、魔物を従えて共に戦う者の事じゃよ」
「なるほど、魔物を……。ルイが以前実用化しようと苦戦していた、アレだな?」
「アレか。だが結局、不可能という事で結論が出たんじゃなかったのか?」
「そうだと思っていたのじゃがな……。実例を目の前で見せつけられたのでな、考えを変えん訳にはいかんわい」
エルナト嬢。
彼女はまだCランクらしいが、これからランクを上げて、BやA……もしかすると、わしと同じSに届くやもしれん。
若人の成長は、見ていて楽しいものじゃな……。
わしは老人らしい感慨を抱きながら、ワインの瓶を傾けた。
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