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60.エルナト

 ショートケーキを食べ終えた僕達は、二人でエルナトの泊まっている宿屋に来た。


 エルナトは馬小屋にルプスを預けると、宿屋に入っていく。

 え、預ける必要あったかなぁ……。


 エルナトは食堂として扱われているらしき一階を素通りし、部屋のある二階へと上がった。僕もそれを追う。


「ここよ。入って」


 エルナトは部屋の一つの扉を開けてそう言った。

 僕はエルナトに付いて部屋に入り、後ろ手で扉を閉める。


 数週間以上使っている宿屋らしいが、部屋の内装は至って普通だ。荷物も大して置かれていない。


「さ、座って」


 エルナトは自身のベッドに腰掛けながら、その隣をポンポンと叩いた。

 椅子とかあるけど隣なの……?


「う、うん……」


 ドギマギしつつ、エルナトの隣に座った。

 エルナトは香水も何も付けていない筈なのに、なんだか花の様な良い香りがしてくる気がする。

 部屋もただの宿屋の一室の筈なのに、使い古された女の子の部屋の様に見えてきた。おかしい。


 これ以上すると何故だか変な気持ちになってきそうなので、早めに用件を訊くとしよう。


「ね、ねぇ、なんで僕を呼んだの……?」


 僕がゆっくりとそう訊くと、エルナトはベッドに倒れ込みながら言った。


「アルティーノ。……私と一緒に、サーカットに行く気は無い?」


「……はい?」


 あまりにも予想外の言葉に、僕は戸惑った。

 聞き間違い……ではない。

 サーカット。確かにそう言った。

 サーカットと言えば……高難度の迷宮がある所だ。


「えーと……どういう事か詳しく訊いても……?」


 取り敢えず、事情を聴こう。話はそれからだ。


 ベッドに寝転がるエルナトの方に体を向け、事情を訊く。


「んーとね……私、そもそも、理由というか目的があって冒険者になったのよ」


「目的?」


「そう、目的」


 僕の鸚鵡返しに首肯すると、エルナトはその目的とやらを話し始めた。


「私ね、孤児院出身なの。赤ちゃんの時に、名前が書かれた紙と一緒に毛布に包まれて、孤児院の門前に捨てられたらしいわ。だから、物心付いた時には孤児院に居て、親の顔も名前も、一切覚えてない」


「…………」


 突然の重い生い立ち話に、僕は気の利いた言葉を見付ける事が出来ない。

 僕が押し黙っている間にも、エルナトの話は続いていく。


「親がどんな人か探そうとしたけど……手掛かりも何も無いからね。孤児院の先生達には諦めろって言われた……でも、私は思い付いたの。冒険者になって名を売れば、もしかしたら見つけてもらえるかも、って」


「だから、より有名になれるサーカットに?」


 僕が続きを予想して訊くと、エルナトは再び首肯した。


「そ。Aランクとかになれば、他の国に居てもそれなりに名が通るかなぁ、って……。アルティーノとは一緒にパーティー組んでて楽しかったから、一緒にどうかなって思ったんだけど……サーカットに行く為のお金も貯まったし」


 お金も貯めてたのか……いやまあ、最初からそれが目的だったなら当然か。


 でも――。


「……ごめん、僕は一緒に行けない」


「……そうだよねー。やっぱりそんな気はしてたけど」


 苦笑いしながらそう言うエルナトの顔を見ていると、なんだか心が痛んだ。


「貴族なんでしょ?しかも、長男。家を継がなきゃいけないんだよね」


「うん、まあ」


「……いいなぁ」


 ポツリ、と呟いたその言葉は、恐らく無意識の独り言だったのだろう。


「親が居て、家族が居て、家があって。……捨てられた私とは、大違いだ」


 エルナトはそこまで言った後、ハッとした様に口を噤んだ。無意識に言葉に出てしまい、思わずといった感じだ。

 エルナトは慌てて体を起こすと、取り繕う様に早口で誤魔化そうとした。


「ご、ごめん、そんなつもりじゃ――」


「……僕も、気持ちは少し分かるよ」


「――え?」


 なんだか、エルナトだけが生い立ちを語るのは不公平な気がして、思わず僕も、その先を言ってしまった。


「僕もね、親に捨てられたんだよ。まあ、エルナトみたいに赤ん坊の頃って訳じゃないけど……。師匠は僕の養父なんだよ。僕はたまたま拾ってくれる相手が居ただけの、運が良いだけの……」


「……そう。じゃあ私達、似た者同士だね」


 エルナトは、はにかみ笑いをしながらそう言った。

 僕も、そうだね、と微笑しながら、エルナトの言葉に頷いた。


 エルナトはその微笑みに安心した様に息を吐くと、再びベッドに倒れる。


「そっかぁ……。ねえ、家に帰るのはいつなの?」


「えーと……まだ四、五か月ぐらいあるかな?」


「四、五か月か……」


 エルナトは少し考えると、うん、と元気良く頷いた。


「じゃあ、アルティーノが家に帰るまでは、私もイェヘラに居ようかな」


「え、いいの?」


「勿論。どうせなら、ここでBランクまで頑張るのも良いかもだし……。アルティーノだけ残してパーティー解散、っていうのもアレだしね」


「そっか。じゃあ、残りの間もよろしくね?」


 終わりの無いものは無い。

 でも、明確に終わりを分からされてしまうと、なんだか悲しくなってくる。


 僕達はその悲しみを互いに押し隠す様にして、固い握手を交わした。

 少しでも面白いな、と思って頂けたら、感想・評価・ブックマーク等して下さると非常に嬉しいです!今後の活動のモチベーションになります!

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