57.師匠
「「「…………」」」
「どれ、終わった様じゃの」
僕達が感嘆で沈黙する中、師匠は呑気な声音でそう言うと、アグマ・ネタルを捕らえていた檻を消し去った。
同時に、手錠や氷の蔓も消え去る。
それを見て、ようやく師匠以外の面々は我に返った。
「……それで、師匠は何故ここに?どうしてこんな早く?」
「何故、とはなんじゃ……お主らが援軍要請を出したのじゃろうが。早く来る事が出来たのは、かなりの無理をしてきたからじゃな」
「無理?」
「ここまでの移動には、自身の体を軟らかいスライムの様な水で包み、それで飛翔するという、わしのオリジナルの魔術を使った。水飛翔と名付けたものじゃな。これは結構な魔力量を消費するのじゃが……それを補う為に、魔力回復ポーションをそれなりの数服用したのじゃよ。だから、ちょっと気分が悪いわい」
「なるほど……」
魔力回復ポーションは、連続して何度も使用すると、体調不良を引き起こす事がある。
それに耐えてまでここにやって来たのだろう。
「……あれ?でも、ここに飛んできたヤツは違う魔術ですよね?」
師匠が屋根上に来た時には、軟らかい水など纏っていなかった。
確か、細かい水が一瞬見えたのは覚えている。
「ああ、あれは、高圧の水を噴射して飛んだだけじゃよ。魔術としては、さっき使った高圧水噴射と同じ物じゃな」
「はあ、なるほど……」
使い分けるのにはそれなりの理由があるのだろうが、水魔術に詳しくない僕にはいまいちピンとこなかった。
僕が頷いた丁度その時、ガタッ、という音がした。
振り向くと、サールデさん達が屋根上に上って来たところだった。
「おい、そっちのヤ――方は、誰なんだ?」
サールデさんが僕に対して問うた。
僕はそれに答えようとしたが、その前に師匠が口を開いた。
「それを説明するのは、彼らが来てからでも遅くは無かろう」
「「「「「彼ら??」」」」」
師匠の言葉に、僕達は異口同音で声を上げ、首を傾げた。
師匠は体の向きを変え、野営地の方向を杖で指した。
そちらの方向に目を凝らしてみると――遠くに、こちらに向かって駆けてくるアメリアさん達が見えた。
「よく分かりましたね……」
「索敵の魔術じゃ。前にも見せたじゃろう?」
「あー……」
そういえば、訓練場に行った時に、ギーアロスさんの接近にいち早く気が付いていた様な……。
僕がその事を思い出していると、アメリアさん達が歩みを止めた。
恐らく、倒れているアグマ・ネタルを発見して、驚いているのだろう。
「さて、彼らの元に行くとしようかの。話はそれからにしようぞ」
「あ、ああ……」
サールデさんは師匠の言葉に戸惑いつつ頷いた。
師匠は一つ頷くと、高圧水噴射の魔術でアメリアさん達の元に飛んでいった。
「……流石師匠だなぁ」
「――ちょっと待って、本当にあの人がアルティーノの師匠なの?」
僕がしみじみと独り言を呟くと、エルナトがそれに反応した。
僕はエルナトの質問に首肯してみせる。
「驚いたわ……Sランクの冒険者が、師匠だなんて……」
「Sランクに驚くのは分かるけど、そこまで凄い事なの?」
僕がそう訊くと、エルナトは呆れた様に溜め息を吐いた。
いや、実際呆れているのだろう。
「知らないの?Sランク冒険者っていうのはね、今は一人しか居ないのよ?」
「え、そうなの?」
「そうよ。歴代のSランクの人も、『光闇の聖女』とか『炎氷剣』とかの、歴史に名を残す様な人物だけなのよ」
後者は聞き覚えが無いが、前者は何かの本で見た様な記憶がある。
そうか、師匠はそんな偉人達と肩を並べるランクなのか……。
僕はなんだか少し誇らしい気持ちになりつつ、アメリアさん達と合流すべく屋根上から飛び降りた。
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