56.討伐戦(4) 唐突な援軍
僕達はギリギリの戦いを演じつつ、戦いは二日目の夕方に突入しようとしていた。
ルプスが一度負傷した以外にも、サミナさんが左腕を折られるという事態が発生したが、その際は上手く全員でカバーし合い、無事乗り切る事が出来た。
二班の方は話が出来ないので詳しい事は分からないが、どうやら一人も負傷していないらしい。
そして、共有事項として、本気の攻撃を試みてもすぐに光魔術で再生される為、無理な攻撃はしない方がいい、という情報がアメリアさんからもたらされた。
元々遅滞戦闘が主目的だったので方針に大きな変更は無いが、大事な情報である事に変わりはない。
「……二日目ともなると、疲労も溜まって来るものだな」
傍らに立つギデンスさんのそんな呟きを聞いて、地上を見下ろしてみる。
確かに、サールデさん達の動きに、初日程のキレが無い……気がする。
一応、八時間ごとに睡眠や食事の休憩を取ってはいるが、それでも疲労は溜まっていく。
疲労が溜まって動きが鈍れば、それだけ攻撃を喰らうリスクも増える。
魔術師も、疲労で思考力が低下すれば、魔術の発動に手間取る。
それらの積み重ねが、作戦の崩壊の引き金を引く可能性だってあるのだ。
だがしかし、僕達に出来る事は、援軍が来るまで耐える事だけ。
それ以外に出来る事は無い。ただひたすら、その時を待つだけ――。
不意に、雨が降った。
「日照雨というヤツか?」
「さあ……」
僕もギデンスさんもエルナトも、揃って首を傾げた。
日の入りが近いので雲が若干見えにくいが、辺りは晴れている筈だ。何故雨が?
しかし、その答えはすぐに判明した。
シューッ……という音が、微かに僕らの耳に届いた。
「――なんだ?」
ギデンスさんがそう呟いた直後。
僕らの前に、陽光を反射した水が煌めいた。
「ふぅ……無事の様で何よりじゃ」
およそ一か月ぶりに聞く、慣れた親しんだ声が、僕の真横から発せられた。
「し、師匠!?」
「そうじゃ、わしじゃよ。……はぁ、アグマ・ネタルが出現したと聞いて、肝が冷えたわい。まったく、全速力を出したのはいつ振りか……」
突然僕の隣に現れた師匠は、手を頭に当てながらやれやれと首を振った。
ギデンスさんとエルナトは、突然現れた師匠の存在に驚いて口をあんぐりと開けている。
「あ、あの、その人は……?」
「ん?ああ、僕の師匠だよ」
驚きから回復したエルナトに、師匠を紹介しようとした。
が、師匠は手を出してそれを制止した。
「今は悠長に挨拶をしている場合では無かろうて」
「それもそうですね」
師匠は杖で屋根を叩くと――普段持っている杖よりも数倍大きい――、深く息を吸った。
「冒険者達よ!待ちに待った援軍が訪れたぞ!喜べぃ、Sランク冒険者が来てやったぞ!」
「「「「「え、Sランク!?」」」」」
傍らに居る僕達だけでなく、戦闘中の地上からも驚きの声が上がった。
師匠は驚きの声を気にする事無く、アグマ・ネタルに杖を向けた。
直後、地面から巨大な檻が現れ、アグマ・ネタルを包み込む。檻の素材は土の筈だが、不思議と金属の様な光沢がある。
「今の内に離れよ!!」
師匠がそう叫ぶと、サールデさん達は戸惑いつつも、檻に囚われたアグマ・ネタルから距離を取り始める。
師匠はそれを見てうんうんと頷くと、檻を壊そうともがくアグマ・ネタルに再び杖を向ける。
すると、檻の中に手錠が現れ、アグマ・ネタルの四肢を拘束した。
それだけでなく、透明な氷の蔓の様な物も現れ、アグマ・ネタルの様々な関節を極めた。
「グ、ググ……!」
アグマ・ネタルは呻き声を上げながら拘束を解こうとするが、師匠製の手錠と蔓はビクともしない。
「まだそこまで強い個体では無い様じゃな。神話級の個体とも戦ってみたかったが、流石にそれ程まで成長するにはしばらく掛かるか」
師匠は、まるでモルモットを分析する様にそう呟いた。
その目はもう倒すべき敵を見る目では無く、捕らえた実験生物を見るかの様な目をしていた。
師匠はしばらく何かブツブツ呟いた後、構えた杖を振り下ろした。
その動作と同時に、一瞬にして大量の水の線が生まれる。確か、高圧水噴射という名前の魔術だった筈だ。
1000を超える高圧水噴射は、拘束されて動けないアグマ・ネタルの体を切り刻む。
しかし、すぐにアグマ・ネタルの体が発光し、次から次へと空けられる傷を塞いでいく。
「む?光魔術か?」
「最初に戦った冒険者が食べられた様で……」
「なるほどな。では、継続ダメージで殺すとしようかの」
師匠はそう言うと、杖に魔力を籠め始めた。
何が行われているのかと目を凝らしてみると、氷の蔓の表面が茨の様に棘まみれになっている。
なるほど、アレで常に刺し続けて、流血を促すのか……。
更に恐るべき事に、師匠は蔓の加工を行いながら、高圧水噴射の噴射も継続している。
二つの魔術を同時に扱っているのだ。
普通の魔術師は、二つ以上の異なる魔術を並行して発動させる事は出来ない。
魔術とは頭の中で想像した物を具現化する行為だ。二つ以上の現象を正確に並列して想像するという事は、至難の業である。
一応、それを可能にする方法はある。
それは、詠唱をする事だ。
詠唱は人によって違う事も多いが、体に染みついた詠唱を行えば、それだけで魔術が発動される。
詠唱を完全に暗記してしまえば、他の魔術を使いながら詠唱を行い、同時に二つの魔術を扱う事が出来るのだ。
しかし、師匠はその方法を使わず、無詠唱で二つの魔術を操っている。
これが、魔術師としての完成形なのだろう。
「……凄まじい」
隣に立つ闇魔術師のギデンスさんも、その事に気付いたのだろう。
自らの杖を握り締めながら、ただただ感嘆の息を吐いていた。
数秒後。
アグマ・ネタルの首と心臓が音も無く破壊され、巨大な檻の中で、巨人はその命を落とした。
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