表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/65

56.討伐戦(4) 唐突な援軍

 僕達はギリギリの戦いを演じつつ、戦いは二日目の夕方に突入しようとしていた。


 ルプスが一度負傷した以外にも、サミナさんが左腕を折られるという事態が発生したが、その際は上手く全員でカバーし合い、無事乗り切る事が出来た。


 二班の方は話が出来ないので詳しい事は分からないが、どうやら一人も負傷していないらしい。


 そして、共有事項として、本気の攻撃を試みてもすぐに光魔術で再生される為、無理な攻撃はしない方がいい、という情報がアメリアさんからもたらされた。

 元々遅滞戦闘が主目的だったので方針に大きな変更は無いが、大事な情報である事に変わりはない。


「……二日目ともなると、疲労も溜まって来るものだな」


 傍らに立つギデンスさんのそんな呟きを聞いて、地上を見下ろしてみる。

 確かに、サールデさん達の動きに、初日程のキレが無い……気がする。


 一応、八時間ごとに睡眠や食事の休憩を取ってはいるが、それでも疲労は溜まっていく。


 疲労が溜まって動きが鈍れば、それだけ攻撃を喰らうリスクも増える。

 魔術師も、疲労で思考力が低下すれば、魔術の発動に手間取る。

 それらの積み重ねが、作戦の崩壊の引き金を引く可能性だってあるのだ。


 だがしかし、僕達に出来る事は、援軍が来るまで耐える事だけ。

 それ以外に出来る事は無い。ただひたすら、その時を待つだけ――。


 不意に、雨が降った。


「日照雨というヤツか?」


「さあ……」


 僕もギデンスさんもエルナトも、揃って首を傾げた。


 日の入りが近いので雲が若干見えにくいが、辺りは晴れている筈だ。何故雨が?


 しかし、その答えはすぐに判明した。

 シューッ……という音が、微かに僕らの耳に届いた。


「――なんだ?」


 ギデンスさんがそう呟いた直後。

 僕らの前に、陽光を反射した水が煌めいた。


「ふぅ……無事の様で何よりじゃ」


 およそ一か月ぶりに聞く、慣れた親しんだ声が、僕の真横から発せられた。


「し、師匠!?」


「そうじゃ、わしじゃよ。……はぁ、アグマ・ネタルが出現したと聞いて、肝が冷えたわい。まったく、全速力を出したのはいつ振りか……」


 突然僕の隣に現れた師匠は、手を頭に当てながらやれやれと首を振った。


 ギデンスさんとエルナトは、突然現れた師匠の存在に驚いて口をあんぐりと開けている。


「あ、あの、その人は……?」


「ん?ああ、僕の師匠だよ」


 驚きから回復したエルナトに、師匠を紹介しようとした。

 が、師匠は手を出してそれを制止した。


「今は悠長に挨拶をしている場合では無かろうて」


「それもそうですね」


 師匠は杖で屋根を叩くと――普段持っている杖よりも数倍大きい――、深く息を吸った。


「冒険者達よ!待ちに待った援軍が訪れたぞ!喜べぃ、Sランク冒険者が来てやったぞ!」


「「「「「え、Sランク!?」」」」」


 傍らに居る僕達だけでなく、戦闘中の地上からも驚きの声が上がった。


 師匠は驚きの声を気にする事無く、アグマ・ネタルに杖を向けた。

 直後、地面から巨大な檻が現れ、アグマ・ネタルを包み込む。檻の素材は土の筈だが、不思議と金属の様な光沢がある。


「今の内に離れよ!!」


 師匠がそう叫ぶと、サールデさん達は戸惑いつつも、檻に囚われたアグマ・ネタルから距離を取り始める。


 師匠はそれを見てうんうんと頷くと、檻を壊そうともがくアグマ・ネタルに再び杖を向ける。


 すると、檻の中に手錠が現れ、アグマ・ネタルの四肢を拘束した。

 それだけでなく、透明な氷の蔓の様な物も現れ、アグマ・ネタルの様々な関節を極めた。


「グ、ググ……!」


 アグマ・ネタルは呻き声を上げながら拘束を解こうとするが、師匠製の手錠と蔓はビクともしない。


「まだそこまで強い個体では無い様じゃな。神話級の個体とも戦ってみたかったが、流石にそれ程まで成長するにはしばらく掛かるか」


 師匠は、まるでモルモットを分析する様にそう呟いた。

 その目はもう倒すべき敵を見る目では無く、捕らえた実験生物を見るかの様な目をしていた。


 師匠はしばらく何かブツブツ呟いた後、構えた杖を振り下ろした。

 その動作と同時に、一瞬にして大量の水の線が生まれる。確か、高圧水噴射(ウォータージェット)という名前の魔術だった筈だ。


 1000を超える高圧水噴射(ウォータージェット)は、拘束されて動けないアグマ・ネタルの体を切り刻む。

 しかし、すぐにアグマ・ネタルの体が発光し、次から次へと空けられる傷を塞いでいく。


「む?光魔術か?」


「最初に戦った冒険者が食べられた様で……」


「なるほどな。では、継続ダメージで殺すとしようかの」


 師匠はそう言うと、杖に魔力を籠め始めた。

 何が行われているのかと目を凝らしてみると、氷の蔓の表面が茨の様に棘まみれになっている。

 なるほど、アレで常に刺し続けて、流血を促すのか……。


 更に恐るべき事に、師匠は蔓の加工を行いながら、高圧水噴射(ウォータージェット)の噴射も継続している。

 二つの魔術を同時に扱っているのだ。

 普通の魔術師は、二つ以上の異なる魔術を並行して発動させる事は出来ない。

 魔術とは頭の中で想像した物を具現化する行為だ。二つ以上の現象を正確に並列して想像するという事は、至難の業である。


 一応、それを可能にする方法はある。

 それは、詠唱をする事だ。

 詠唱は人によって違う事も多いが、体に染みついた詠唱を行えば、それだけで魔術が発動される。

 詠唱を完全に暗記してしまえば、他の魔術を使いながら詠唱を行い、同時に二つの魔術を扱う事が出来るのだ。


 しかし、師匠はその方法を使わず、無詠唱で二つの魔術を操っている。

 これが、魔術師としての完成形なのだろう。


「……凄まじい」


 隣に立つ闇魔術師のギデンスさんも、その事に気付いたのだろう。

 自らの杖を握り締めながら、ただただ感嘆の息を吐いていた。



 数秒後。

 アグマ・ネタルの首と心臓が音も無く破壊され、巨大な檻の中で、巨人はその命を落とした。

 少しでも面白いな、と思って頂けたら、感想・評価・ブックマーク等して下さると非常に嬉しいです!今後の活動のモチベーションになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓こちらの作品もどうぞ!↓
対極の二人が交わるまで
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ