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54.討伐戦(2) 一班の戦闘

 戦況は拮抗状態だ。

 まあこちらの勝利条件は約三日間の足止めなので、拮抗状態はある意味こちらが優勢なのかもしれない。


 ともかく、二時間が経過した現在、未だ前衛陣は負傷する気配は無い。

 万が一前衛陣の誰かが負傷したら、レイさんが回収する手筈になっているが、今の所レイさんは手持無沙汰の状態だ。


 同じく手持無沙汰なのはエルナト。

 この数日でギデンスさんに闇魔術を少し習ったらしいが、元々の魔力量が少ない為、迂闊に魔術を使う訳にはいかないのだろう。

 ルプスの支配状態が解けない様にする事ぐらいしか、今の彼女の仕事は無い。



 さて。

 後衛である僕とギデンスさんの仕事は、地上で戦うサールデさん達の補助だ。

 アグマ・ネタルの上半身から繰り出される攻撃を阻害する事と、サミナさんが防御に失敗した時のカバーが主な役目だ。


「奴の攻撃の阻害は私がやる。お前は地上の補助に努めろ」


 ギデンスさんはその言葉通り、上半身が少しでも動いた時は、的確に闇魔術で妨害を行っていた。

 宮廷魔術師のサーズンさん程では無いが、かなりの腕前である。流石Cランクの冒険者。


 そもそも僕の攻撃――銃弾はほぼほぼダメージにならないので、やはり結界を張るぐらいしか主な仕事が無いのだ。

 なので、僕はその役目に注力する。


 サミナさんを悪く言うつもりは無いが、しかしDランク故に、足元が覚束無くなる事が幾度かあった。

 僕はその度に、結界で防御の補助をした。

 こればかりは仕方の無い事だ。同じDランクのレイさんも待機以外に仕事が無いし、サミナさんが悪い訳ではない。


 というより、二時間も前線で継戦出来ている事自体が、僕は凄いと思う。

 僕も師匠に言われて体力作りは怠っていないが、とはいえ同じ事をやれと言われたら今頃ばててしまっているだろう。

 あと六時間も耐えられるだろうか……?







 最初の綻びは、あれから一時間後だった。


 アグマ・ネタルに突っ込んでいったルプスが、アグマ・ネタルの背後で踵落としを喰らってしまった。

 視界外故に、僕の結界も届かなかった。


「ルプスーーーー!!!」


 エルナトの絶叫が聞こえた。

 僕も絶叫したい気分だった。

 ルプスは大丈夫なのか?血飛沫しか見えなかった。あの巨体の足に踏み潰されて、果たして無事で居られるのか――?


 素早く動いたのは、これまで後方待機のみだったレイさんだった。

 彼は血飛沫が上がったのが見えた直後、俊敏な動作で地上に飛び出していった。


 エルナトはそれを見て我に返ると、懐を探った。

 取り出したのは、黄色の珠玉――閃光玉だった。


「アルティーノ!目を瞑って!」


 僕は言われるまでも無く、両目を閉じていた。


 直後、エルナトの手から放たれた閃光玉が、眩いばかりの光を発した。

 瞼を透過して、光が網膜を刺激した。


 ゆっくりと目を開ける。


 どうやら、地上組は閃光弾の影響を受けなかった様だ。

 対して、アグマ・ネタルは、その大きな両手で目を覆っている。明らかに、今が好機。


 再び地上に目を凝らす。


 レイさんがルプスを抱えて走っているのが見えた。

 両の前足が千切れかけているが、負傷はそれだけの様だ。完全に切断されていないのならば、まだギリギリポーションでどうにか出来る筈だ。


 それを確認した僕とエルナトは揃って安堵の息を吐き、すぐに気を引き締める。

 今ここでルプスを抱えたレイさんが踏み潰されでもしたら、全ておしまいだ。


 視力を奪われて半狂乱状態になっているアグマ・ネタルは、地団太を踏み始めた。


 僕はレイさんの方に注意を向けて、頭上に足が来る度に、結界を展開した。


 ガキン!ガキン!と足と結界が衝突する度に盛大な音が鳴り響くが、まだ魔力量は大丈夫そうだ。

 このペースで消費していけば一時間もしない内に尽きるのだろうが、レイさんが戻って来るまでの辛抱だ。


 そうこうしている内にレイさんは建物までの道を走り抜け、建物の壁と壁を使って、屋根上に戻って来る。


「出血は酷いが、まだギリギリ足は切断されていない……ポーションはあるか?」


「勿論」


 回復ポーションを握り締めて待機していたエルナトは、レイさんからルプスを受け取ると、すぐにポーションを半分足にかけ、残りの半分はルプスに飲ませた。


 ポーションはすぐに恐ろしいまでの治癒力を発揮し、ルプスの千切れかけの足は完全に再生した。


「ふぅ……よかった」


 安堵の息を吐くエルナトを横目で見つつ、レイさんに質問をする。


「失った血が回復するまでしばらく掛かります。その間、ルプスの代わりをお願い出来ますか?」


「そうしたいのは山々だが、さっき少し試した時、俺の短剣は歯が立たなかった……俺では足手纏いになってしまう」


「そうですか……」


 レイさんの短剣でも駄目か。

 筋力の問題か素材の問題か……サールデさんの魔剣は普通に斬れる様だし、ロマーンさんの弓矢も刺さっていた。

 僕の銃は……もう少し火力が高ければ通りそう、というぐらいだ。


 もう少し――。

 もう少しなら、近距離で短機関銃を撃てば、ギリギリ通るんじゃないか……?


 今使っているのは拳銃だ。短機関銃に火力は劣る。

 それに、銃は発射された直後が一番速度が速く、パワーも強い。

 やってみる価値はある。


「レイさん、これを」


 僕は異空間収納から短機関銃を取り出し、レイさんに手渡す。

 レイさんは訝し気な表情でそれを受け取った。


「これは……?」


「そこの突起――引き金を引くと、先端の方から弾が発射されます。それを至近距離で撃てば、あるいはダメージになるかと……」


「なるほど……?」


「あ、撃つと反動で怪我をするかもしれないので、そこだけ注意して下さい」


 それから屋根上で、少しレイさんに反動の逃がし方などを説明した。

 感覚でやっているところも多かったので上手く伝えられるか不安だったが、レイさんは十五分もすると大分慣れた様だった。


 最後に装填の仕方を教え、予備の弾倉をいくつか渡し、レイさんを送り出した。


 これで上手くいくといいけど……。







 約五時間後。


 約束の時間まで、残すところあと数分。


 現在は回復したルプスが入り、前衛は四人が激しく動き回っている。

 体力が尽きないのが本当に不思議になるほどだ。


 ギデンスさんは何度か魔力切れ寸前になっており、定期的に瞑想で魔力を回復させていた。なんでも、体勢や精神状態によって、回復速度は上下するらしい。

 ちなみに、その間の魔術攻撃はエルナトが代わりに担当していた。


 僕は前衛陣が増えた事によってある程度安定した為、魔力の消費量はかなり減った。

 あと三、四十分もあれば底を尽きてもおかしくないが、まだ大丈夫だ。


 そんな事を考えていた直後――野営地の方角から、走って来る人影が見えた。アメリアさん達だ。


「サールデさん!!!二班が来ました!!!」


 僕はその事をすぐに叫んで伝えた。


 僕の報告を聞いたサールデさんはチラッとアメリアさん達を見ると、アグマ・ネタルに対して渾身の一撃をお見舞いした。

 その瞬間、アグマ・ネタルに僅かな隙が生まれる。


 前衛陣はその隙を逃さず、急いでアグマ・ネタルの足元から離れる。


 入れ替わる様に、二班のファイスさんが闇魔術を発射しながら、アグマ・ネタルの足元に滑り込んだ。

 その後ろから、立て続けにアメリアさんの火魔術も放たれる。


 交代の時間だ。

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