53.討伐戦(1) 様子見
「ぐおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
見上げる程の高さにあるアグマ・ネタルの口から、咆哮が放たれた。
空気がバリバリと揺れているのが分かる。
反射的に耳を押さえそうになるが、今は銃を構えているので、そういう訳にもいかない。
眼下の地上では、サールデさんとルプスがアグマ・ネタルの足元に到達したところだった。
「ハァァァアアアァァァ!!!」
サールデさんの気合の雄叫びが聞こえてくる。
サールデさんの魔剣は炎を纏いながら、凄まじい速度でアグマ・ネタルの足を斬った。サールデさんの攻撃は、上手く通っている様だ。
「ガウッ!!」
ルプスの鳴き声も聞こえてくる。
爪での攻撃はあまり通用しない様だが、噛み付きは有効打になり得るのか、ルプスは頻繁に足を噛んでいる。
時折もう片方の足が動いてルプスを踏み潰そうと画策しているが、それはサールデさんが弾いていた。
途轍も無く大きい足を弾ける怪力は見事なものだ。
さて、いつまでも地上の様子を見ている場合にはいかない。
顔を上げて、拳銃をアグマ・ネタルの顔面に向ける。
横のロマーンさんも、丁度弓矢を放ったところだった。
ロマーンさんの放った鋼の矢は、アグマ・ネタルの頬に突き刺さった。
アグマ・ネタルは煩わしそうにしながら、その矢を引き抜く。
左の方では、アメリアさんやラマイさん、ギデンスさんが魔術で攻撃を行っているのが見えた。
火、風、闇が宙を舞い、アグマ・ネタルの上半身を主に傷付けていく。
僕も負けてはいられない。
アグマ・ネタルの胸に標準を合わせ、引き金を引く。
パン、と乾いた音が鳴り、弾丸は狙い違わず命中した。しかし、まるで鋼鉄の鉄板に撃ち込んだかの様に、弾は弾かれた。
「なんでだ……?」
疑問に思っている間にも、隣のロマーンさんは弓を撃つ。
その矢は二本に一本は弾かれているが、弾かれなかった矢は深々と突き刺さっているのが見える。
どう考えても、弓よりも拳銃の方が威力は上の筈だ。
矢に使われている素材はただの鋼だし、弓もCランクらしい高級品ではあるが、錬金道具とかそういうのではない。
素材的には弾より矢の方が硬いだろうが、拳銃から放たれる弾丸は速度の面で優っているし、弾丸は貫通性に優れた造りの筈だ。
なのに何故……?
分からない。
分からないが、今は悠長に思考をしている場合では無い。
ならばこの状況で僕に出来る事は何か?
銃では有効打を与える事が出来ない。
僕には攻撃の魔術は扱えない。
それならば、やるべき事は自ずと理解出来る。
僕は銃を異空間収納に仕舞うと、地上で戦うサールデさん達に目を向けた。
上手く攻撃を凌いでいる様だが、戦士が居ない為、いつ破綻してもおかしくない。
丁度その時、アグマ・ネタルはサッカーボールでも蹴るかの様に、足を動かした。
そして、サールデさんを蹴ろうと、足を振った。
僕はその攻撃に勢いが乗る前に、結界を展開してアグマ・ネタルの足を止めた。
アグマ・ネタルの足は結界によって阻まれ、サールデさんに攻撃は届かない。
よし。
かなり硬めの結界を張らなければ壊されてしまうが、取り敢えず防げる事は分かった。
これならまだ、師匠の攻撃の方が重い。
結界が充分に通用する事を確認した僕は、アグマ・ネタルの攻撃を見切る事に集中し始めた。
それから数十分が経った。
未だ戦況はあまり動いていない。
ただひたすら、地上では攻撃と防御が繰り返されているだけだ。
アグマ・ネタルは上半身を使って家の屋根上に居る僕達を攻撃しようとしてくるが、その際にはサールデさんが飛び上がって腹を刺したり、アメリアさんが火魔術で攻撃をしたりして、毎回妨害に成功している。
そろそろ様子見の時間が終わるな……と僕が思ったその時、地上のサールデさんが大声を上げた。
「偵察戦は終了!!繰り返す、偵察戦は終了!!!当初の予定の三班戦闘は困難と判断し、これより二班編成での戦闘へと切り替える!!班分けは事前に決めた通り、アルティーノとサミナは一班へ、他の三人は二班へ入れ!!二班は野営地まで戻り休息を取れ!!一班はここで足止めをするぞ!!!」
アグマ・ネタルの足による攻撃を防ぎながら、サールデさんは指示を出し切った。
これにより、当初の予定の三班による八時間交代では無く、二班による八時間交代に変わった。
僕とサミナさんは屋根上を飛び移り、一班の人達が居る場所に合流する。
他の三人は二班と共に、野営地まで撤退した様だ。
一班の後衛組は、ギデンスさん、レイさん、エルナト、そして僕。
レイさんは戦闘職では無く斥候なので、どう動けばいいか図りかねている様だ。
サミナさんは、既に地上に移動し、タンクとして戦闘を始めている。
こうして、本格的なアグマ・ネタル討伐戦が始まった。
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