52.巨人の登場
一日間の戦闘訓練、一日間の準備活動を終えて、今日、アグマ・ネタルの到達予想日となった。
前日充分に睡眠を取った僕達は、朝からギルドの付近の家屋の屋根上で待機していた。
アグマ・ネタルがどれ程巨大になっているか不明な為、ある程度距離は取っている。
ギルドは崩壊前提で行動する事になっている。惜しいが、建物はいくら壊れても建て直せばいいだけだ。人命には代えられない。
ちなみに、町から少し離れた所には、僕が用意したテントで野営する町民達が居る。
万が一僕達が敗北しそうになった場合、遠くから監視を行っているギルド職員達が、更なる避難勧告を行う予定だ。
ここで、僕達の装備を再確認しておこう。
まず、錬金道具の閃光玉。
これは閃光弾の様な物で、スイッチを入れてから三秒後に閃光を放つ、という物だ。対人・対魔物どちらにも効果を発揮する優れ物であり、値はそこそこだが携帯する冒険者は多いという。
次に、同じく錬金道具の土壁玉。
これは投げた場所にドーム状の土壁を展開するという物だ。緊急時の防御や、負傷した者を保護する為の道具である。
アグマ・ネタルの巨体に対して防御として通用するかは分からないが、光魔術での攻撃には対抗出来る、筈だ。
そして最後に、回復用のポーションと、魔力回復用のポーション。
当初は回復用のポーションが二瓶ずつという話だったが、ギルド金庫を空にする勢いで支出されたギルド資金と、アメリアさんと僕の私財により追加で二瓶ずつ、そしてショートケーキによって機嫌が良くなったリエント子爵から魔力回復用のポーションが一瓶ずつ、それぞれ購入された。
どうやらリエント子爵は最近妻と不仲気味だったらしく、ショートケーキによって妻の機嫌が少し回復したと嬉しそうに語っていた。
やはり、甘味は人と人との繋がりに欠かせない物である。
これだけの資金を投じて準備をしたのだから、絶対に勝ちたいものだ。
援軍要請の早馬は、既に帝都に到達した頃だろう、とサールデさんが言っていた。
ちなみに、魔通装置などという便利な物があるのに、何故それを使って連絡しないのか、気になったので訊いてみた。
すると、「そこまで長距離の魔通を行うのには、それなりのサイズの魔力結晶が必要で、それを購入すると戦闘用の錬金道具が買えなくなるから」という回答が返って来た。
緊急用に魔力結晶を常備しておけばいいのに……と僕は思った訳である。もし僕が将来どこかに領地を貰ったら、必ず緊急用の魔力結晶を常備しておこうと、胸に誓う事になった。
援軍には恐らく、宮廷魔術師や騎士団が来るだろうとの事だった。
緊急事態なので数が少ない方が好都合だから、精鋭が来るそうだ。
もしかすると、師匠や騎士団長、それか異能部隊隊長辺りが来てくれるかもしれないが、それは高望みだと言われてしまった。
僕としては、それ以外であればサーズンさんやギーアロスさんに来てもらいたい。顔馴染みの方が助かるから。
まあ、僕がいくら望んだ所で、決めるのは僕ではない。仕方が無いのだ。
そんな事を考えていると、ドシン、ドシンという重い音が響いてきた。ギルドの方角からだ。
「これは……」
「来たみたいだね……」
暗殺者のセーアさんと、弓士のロマーンさんが一早く気付いた。クラス柄、耳が良いのかもしれない。
他の班もその音に気付いた様で、臨戦態勢を取り始めている。
とはいっても、最初は様子見で全班参加するとはいえ、主に戦うのは一班だ。二班と僕らは、援護射撃程度が役目。
なので、遠距離攻撃が出来る僕とロマーンさんは、それぞれの武器を構えた。
そうしている内に、足音がゆっくりと近付いて来る。
ドシン、ドシン……足音が止まった。
「来るぞ!」
誰かがそう叫んだ。ファイスさんだっただろうか、サールデさんだっただろうか。
ともかく、その発言を合図としたかの様に、迷宮の扉が吹き飛ばされ、ギルドの扉に穴を開けた。
しかし、肝心のアグマ・ネタルの姿が見えない。迷宮の入り口が狭くて詰まっているのか?
「――待て!」
一班の方から叫び声が聞こえて、そちらに意識を向けてみると、斥候のレイさんの首根っこをサールデさんが抑えている所だった。
恐らく、偵察に行こうとしたのを反射的に止めたのだろう。
そして、その判断は正解だった。
数秒後、ミシミシ、という音が聞こえたと思った瞬間、ギルドが跡形も無く崩壊し、大量の土煙が上がった。
「ラマイイイイィィィィィ!!!」
サールデさんの絶叫が聞こえた。
名前を呼ばれた風魔術師のラマイさんは、自分の仕事を果たした様だ。
土煙の奥から、緑色の魔石の輝きが見えたかと思うと、暴風が吹き荒れ、土煙が吹き飛ばされた。
咳き込みながら、ギルドのあった方角を見る。
そこには、サイズを大きくし続ける、漆黒の巨人の姿があった。
「肥大化する巨人……どうやら、自身の大きさは、自由自在の様だな」
ファイスさんの呟きが背後から聞こえた。
その呟きが終わった直後、アグマ・ネタルの肥大化が止まった。
その大きさは、ゆうに十五、六メートルはあるだろう。
あまりの大きさに圧倒されていると、左に居る一班の方から、人が飛び降りる音が聞こえて来た。
「一班前衛、行くぞ!!!後衛は援護!!!」
「「「「「了解!!!!」」」」」
サールデさんの指示に、全班の後衛が反応した。
呆けていた僕は慌てて銃を構え直す。
地上では、アグマ・ネタルの足元に駆けていくサールデさんとルプスの姿が見えた。
さあ、巨人狩りだ!




