49.領主館へ
一時間程度の話し合いが終わり、解散を宣言したその直後。ファイスさんが、僕に話し掛けてきた。
「長よ」
独特過ぎる呼び方のせいで、一瞬誰を呼んでいるのか分からなかったが、最初にそんな感じの呼び方をしていたなと思い出し、僕は振り向いた。
「はい、なんでしょう?」
僕が返事をすると、ファイスさんは大袈裟なポーズを取りながら喋る。
「この命預けたと初めに言ったが、いいか、敗北した時は、その責任は全員で負う!我らは運命を鎖で繋がれし共同体!あまり気負うな!」
「……は、はい!」
言い回しはちょっとアレだったが、ファイスさんなりの励ましなのだろう。
そう思うと、ちょっと胸が熱くなった。
「それだけだ。それでは、さらばだ!」
恥ずかしくなったのか、ファイスさんは早口でそう言うと、マントをバサリと翻して足早に去って行った。
……恥ずかしいなら、最初っから普通の言い回しすればいいのに……。
そう思いながら僕も部屋を出ようとすると、今度は違う人に呼び掛けられた。
「アルティーノ、ちょっとお時間を頂いてもよろしいかしら?」
振り向くと、そこにはアメリアさんが居た。
「なんでしょう?」
「いえ、貴方さえよろしければ、領主様を訪ねるのに付いてきて欲しいと思いまして……」
「あー……」
そういえば、会議の初めの方に、サールデさんがアメリアさんにそんな事を頼んでいた様な気がする。
でも、アメリアさん一人じゃ駄目なのだろうか?
疑問に思ったので、訊いてみる事に。
「一人で行くのは駄目なんですか?」
「駄目という事はありませんが……貴族の慣習的に、女性は下に見られやすいでしょう?ですから、トマス子爵家の跡取りである貴方が居れば、多少交渉がやりやすくなるのでは、と思いましたの」
「あー、なるほど……」
確かに、女性は帝位継承権を持てない、みたいな事を勉強した記憶はあるし、爵位の世襲も、普通は男系だった筈だ。
女性の爵位持ち貴族は、一般的に騎士爵ぐらいしか居ないと聞いた覚えがある。
それならばそんなものか……。
「分かりました、いいですよ」
「ああ、助かりましたわ……感謝致しますわ」
「いえ、大丈夫ですよ。……それで、今からすぐに行くんですか?」
「ええ、住民の避難誘導は早めに行わなくてはいけませんわ……もしもアグマ・ネタルが想定より早く上がってきた場合、対処が間に合わなくなりますもの」
「なるほど、それはそうですね」
アメリアさん曰く、事前にサールデさんがアポを取ってあるらしいので、今すぐにでも行けるそうだ。
彼女の言う通りなるべく早く行動するべき事案なので、今から領主館に向かうとしよう。
「それでは、行きますわよ」
そう言って会議室を出たアメリアさんを、僕は追い掛けた。
イェヘラの町を歩き回り、迷宮のある冒険者ギルドからほぼ真反対に位置する領主館にやって来た。
アメリアさんは迷いの無い動作で門に近寄ると、門衛さんにメダリオンの様な物を見せた。
「ギルドマスターの名代で参りましたわ」
門衛さんは素早くメダリオンを確認すると、ビシッと敬礼をして、槍を地面に突いた。
「どうぞ、お通り下さい!」
アメリアさんは優雅な動作でメダリオンを懐に仕舞うと、僕を呼んでから館の中に歩いていく。
「アルティーノ、行きますわよ」
「あ、はい!」
アメリアさんに呼ばれ、駆け足で追い掛ける。
門衛さんの横を通り抜ける時に、「お仕事ご苦労様です」と言っておいた。
「……変ですわね」
「はい?」
「いえ、なんでもありませんわ。行きましょう」
それを見たアメリアさんが何事か呟いた様に感じたが、気のせいみたいだ。
領主館を訪れた事が過去にあるのか、アメリアさんは迷いの無い動作でスタスタと歩いていく。
少し不安だが、アメリアさんからは緊張が微塵も感じられないし、多分なんとかなるだろう。
そう思った僕は、アメリアさんに置いて行かれない様に、その後を付いて行った。
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