44.作戦会議(1) 呼び出し
「Dランクパーティー『空狼』のエルナトさん、ですよね?」
朝、アルティーノと一緒にギルドの食堂で朝食を食べていると、ギルド職員の一人に問い掛けられた。
口の中に入っている食べ物を急いで飲み込み、質問に答える。
「ごくん……はい、そうです」
「ギルドからの緊急依頼です!至急、マスタールームに来て下さい!」
「わ、分かりました!」
私がその言葉に頷くと、ギルド職員は足早に去って行った。
緊急依頼?Dランクの私達に?この町には、CランクもBランクも居る筈なのに?
「ご飯とルプスは見ておくから、行っておいで」
私がうんうん唸っていると、対面に座るアルティーノからそう言われた。
「え、食べてからじゃダメ?」
「駄目だよ。こういうのは、呼ばれたらすぐ行かなきゃ。至急って言ってたし」
「んー……」
育ちの良さそうなアルティーノの言う事だ。一理ある。
仕方無いか。アルティーノの空間魔術なら、確か食事も冷めない筈だし。
「じゃ、ルプスをお願いね」
「うん。行ってらっしゃい」
微笑みを浮かべて手を振るアルティーノの声を背中で受け、私はマスタールームへと向かった。
コンコンコン、とマスタールームの扉をノックする。
これは昔、先生がやっているのを見た事があるから、真似してやっているだけだ。
「入れ」
「失礼します」
確か先生はこんな感じでやっていたな、と思い出しながら部屋に入る。
部屋の中には、ギルドマスターであるサールデしか居ない。
「早かったな。まあ座って待ってろ」
「はい」
至急でって言われたから早く来たのに……とは口に出さず、私は黙って向かい合うソファーの片方に座る。
数分後、二人の男がノックも無しに部屋に入って来た。
「ギルマス、用件は――って、魔物使いのガキ……」
「魔物を従えし乙女……」
私の姿を見て、整った顔を歪ませた男と、片目を黒髪で隠した男だ。
「用件は全員が揃ってから話す。後は『清き乙女』の――」
マスターがそう言いかけた直後、部屋の扉がノックされた。
「入れ」
「失礼しますわ」
入って来たのは、どこかの貴族のお嬢様だと言われても信じられる美貌を持った、所作の丁寧な金髪の女性だった。
「よし、全員揃ったな。一先ず座ってくれ」
マスターがそう言うと、男達は私の対面に、女性は私の隣に座った。
私を含むソファーに座った四人は、マスターの方を見詰める。
「……第十二階層に潜っていたBランクパーティー『さざめきの並木』が、そこのボスに敗北した」
「んなっ……」
「屈強な戦士達を屠りし魔物……強者、か」
マスターの言葉に、男達は大袈裟なリアクションを見せる。
私と隣の女性もそれなりに驚いたが、話の続きを聞く為に黙っておく事にした。
「ボスは、肥大化する巨人。奴は『並木』を壊滅させた後、ボス部屋を脱走し、第九階層まで上っている事が確認された」
「つまりは……」
「巨人の……」
「討伐……」
「という事、ですわね……」
「そうだ」
流石は緊急依頼か。
それを聞かされた私達は、揃って押し黙った。
「今現在ここに集まっているのは、『ハンサムズ』『闇の力』『清き乙女』そして『空狼』のそれぞれのリーダーだ。Cランク三組、Dランク一組に、元Bランクである俺が加わる。それが現状の最高戦力だ」
「ちょっと待ってくれ、ギルマス。『闇』と『乙女』はともかく、何故Dランクであるコイツが参戦する?」
現状集めっているメンツの説明をしたマスターに対し、『ハンサムズ』のリーダーと思しき男が吠えた。
それに対し、マスターは冷静に答える。
「そりゃ、『空狼』が在籍期間不足のDランクだからだ」
「ッ……そうか、じゃあ、この場においてはCランクとして扱うと?」
「そういう事になる」
「…………了解した」
『ハンサムズ』リーダーは不服そうな顔をしつつも、マスターの言葉に頷いた。
それを確認すると、マスターは話を続ける。
「恐らく、アグマ・ネタルは更に階層を上がって来るだろう。そしてここまで上ってきているという事は、迷宮内で相手をするのが難しい程に巨大化している筈だ」
「――ちょっと待ってくれ、ギルマス」
「なんだ?」
マスターの話に、再び『ハンサムズ』リーダーが口を挟む。
「魔物にボス部屋の扉を開ける知能があると言うのか?」
「巨人は喰らった生命の力を奪う……有り得ぬ話では無い」
「ファイスの言った通りだ。そもそも、『並木』が扉を開けっ放しにするなどというミスを犯すとは思えん……そう見るべきだ」
「……了解した」
その男ファイスっていう名前なんだ……という場違いな感想を抱きつつ、マスターの言に納得した。
正直私も同じ様な事を思っていたが、なるほど、そんな能力を持つ魔物ならば、有り得ない話でも無いか。
「なので、迷宮内での対処は諦め、地上での戦闘を敢行する方針だ。異論はあるか?」
「地上の被害は計り知れないが、領主は納得しているのか?」
「そうですわねぇ。領主様が頷くとは思えませんわ」
「我は長の言葉に従おう」
「私も、地上が相当な被害になると思います」
マスターの問いに対し、四人がそれぞれの意見を述べる。
納得意見はファイスの一つだけだ。
「領主は納得させてみせる。代替わりしたばかりの子爵だが、最悪力尽くでも頷かせる」
「……了解した」
「あまり手荒な真似はしない方が良いと思いますが……もしもの時は、わたくしが穏便に済ませましょうか?」
「そうだな、頼るかもしれん」
それでだ、とマスターは話を元に戻す。
「住民の避難は後で済ませるとして、俺達のやるべき事は、近隣からの増援が来るまでの時間を稼ぐ事だ。俺達だけで奴を討伐出来るとは思っていないからな」
「まあ、そうだな。『並木』が勝てなかった相手に勝てるとは思えん」
「その通りだ。とはいえ、近隣に大きな都市は無く、強い冒険者も居ない筈だ。だから、帝都から来てもらう事になる。早馬で駆けても片道二、三日掛かる筈だ。アグマ・ネタルが上って来る時間を考えて、俺達が戦う時間は三日といったところだ」
「つまり、そこを耐えれば……」
「わたくし達の勝利、という訳ですわね」
そうだ、とマスターは深く頷いた。
三日……。
第十二階層のボスを相手に、三日も耐久戦をしなければならないのか。
「冒険者や住民への声掛けは、他の職員に任せてある。俺達が今ここでやるべき事は、その三日間を最大限有効活用する為の作戦会議だ。普段は顔を突き合わせねえ奴も居るだろうが、今は町の為に協力してくれ」
「了解した」
「愚問だ。当然だろう」
「勿論ですわ」
「はい」
四人それぞれの返事に、マスターは満足気に頷いた。
神話にも現れる様な魔物は恐ろしいが、ここを乗り越えれば目的に大きく近付く筈だ。
私は深呼吸をすると、アグマ・ネタルと戦う覚悟を決めた。
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