36.帰還
「ん……」
ガヤガヤとした雰囲気と、焚き火の音、そして光によって、私の意識は刺激された。
ゆっくりと目を開いている間にも、体が動いているのを感じる。
「あれ?」
慌てて目を開けて周囲を見回すと、そこは迷宮に潜る際に見慣れた広場だった。
冒険者達はザワザワしながら、私の方を見ている様に感じる。まあそれはいつも通りの事なのだが……。
「あ、起きた?」
そんな声と同時に、ひょっこりと顔を近付けてくる少年。アルティーノだ。
「あれ?今、どういう状況?」
「えーっと……魔力結晶を回収したら、エルナトが魔力切れで気絶しちゃって……仕方無いから、ルプスに運んでもらってるんだよ」
「え……」
そう言われて下を見ると、確かにルプスの姿が見えた。
いつまでもルプスの上に乗っているのは悪いので、慌てて降りようとすると、アルティーノから止められた。
「まだ目が覚めたばかりでしょ?フラッとするかもしれないから、地上に上がるまでは横になってて」
「う、うん……」
それもそうなので、厚意に甘えておく事にする。
……ルプスが私を運んできたという事は、ここまでの道中、戦闘は全てアルティーノが担当したという事だろうか?
防御の魔術がかなり優秀なのはスケルトンとの戦闘で理解していたが、攻撃面も優秀だとは思っていなかった。
アルティーノが居れば、私の目的も達成に近付くかもしれない……。それに、私が倒れても怪我一つ負わせずにここまで運んでくれたのだから、信用も出来る。
そう考えている間にも広場を通り抜け、ギルドへの階段に辿り着いた。
「流石に上り道をこのまま行くのは厳しいかな……ここからは僕が運ぶよ。もう魔物も出ないし」
「え、あの――」
私が何か言う前に、アルティーノはひょいと私をお姫様抱っこで持ち上げる。
私より年下の筈なのに、意外と力がある。いや、私が軽いだけか?
恥ずかしいやら感心やらでアワアワしている内に、アルティーノはどんどん階段を上っていき、地上に辿り着いた。
アルティーノは私で手が塞がっているので、ルプスが扉を開ける。
入って来た光に目を細めながら、アルティーノに運ばれて受付のカウンターに向かう。
「そ、そろそろ降ろしてちょうだい……」
「え?ああ、分かったけど……ふらついたら無理せず言ってね?」
流石にギルド内でまでこの格好は、正直恥ずかしい。
アルティーノが素直に降ろしてくれた事に、心の中で少し安堵した。
「よっ……と……」
魔力もある程度回復してきている様なので、大丈夫そうだ。
それにしても、私の魔力があれだけ少ないとは……普段魔術を使わないからか?もう少し魔術を使う頻度を増やしてもみてもいいかもしれない。
「大丈夫そうだね?よし、行こう」
私が特になんともないのを確認すると、アルティーノは受付に歩いて行った。
私はルプスを引き連れてそれを追う。いつの間にか、アルティーノがリーダーみたいになってしまっているが、まあいいだろう。
「すみませーん、素材の買い取りをお願いしたいんですけどー」
「はーい!」
まだ冒険者達が帰って来る時間よりは若干早いからか、受付は比較的空いている様だ。
呼ばれてやって来た受付嬢に、アルティーノが素材を手渡していく。
「はい、スケルトンの骨ですね……」
アルティーノの空間魔術は腰の辺りの高さにあるので、受付嬢は気が付いていない様だ。
「以上でしょうか?」
アルティーノがスケルトンの骨を全て出し終えると、受付嬢は確認を取る。
アルティーノは首を振ってそれを否定すると、空間魔術の中から魔力結晶を取り出した。
「おお、魔力結晶ですね!この大きさですと……骨と合わせて、三十六万アロードとなります!」
受付嬢は買い取りの値段を告げると、カウンターの下から大金貨三枚と金貨六枚を取り出し、アルティーノに手渡した。
「ありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ、毎度ありがとうございます」
アルティーノと受付嬢は礼の言い合いをすると、にこやかに別れた。
冒険者の中には礼の一つも言わずに、なんなら必要最小限の事以外は喋らない人達も居るのに、不思議な事だ。初対面の時は敬語だったし、育ちが良いのかもしれない。
アルティーノは手に金貨を握ったままこちらに来ると、困った様な顔をした。
「これじゃあ等分出来ないなぁ……あ、ルプスの分をエルナトにも渡せば……」
「いやいや、流石にそれは無いわよ。ちゃんと等分しましょ」
「うーんと、じゃあ……」
アルティーノはそう言うと、空間魔術から財布の様な物を取り出して、その中身を覗き込む。
数秒すると、一つ頷き、中から幾つかの金貨を取り出す。
「よし、これで等分になるね」
「計算が速いわね……」
素早く両替計算を行ったアルティーノに驚きつつ、差し出された金貨を受け取る。
たった数時間の探索で十八万……魔力結晶が手に入ったのは運が良かった。
「それじゃ、今日はお開き?」
「そうね……明日の朝にまたここで集合しましょう。流石に宿は違うでしょうし」
「う~ん……面倒だし、今の宿の日数が切れたら、エルナトの泊まってる所に泊まろうかなぁ……今度場所教えてくれる?」
「分かったわ」
短く会話を交わすと、私達は手を振って別れた。
「……不思議ね」
「がうっ?」
思わず漏れ出た言葉に、ルプスが首を傾げて反応した。
「ううん、なんでもないわ」
その首を撫でてやると、ルプスは嬉しそうに目を細めて鳴き声を上げる。
まあ、これなら、数か月で目標が達成出来るだろう。
その事が嬉しくなった私は、足取り軽く宿屋に帰った。
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