3.これからのこと
アルティーノが初めて林檎の召喚に成功したあの日から、しばらく経った。
あれからも毎日オフィーリアと村の外れで落ち合い、一緒に過ごす日々が続いた。
これまではオフィーリアも村の色々な所に出掛けていたが、アルティーノの事を優先してくれたのだ。その事が、アルティーノにとっては非常に嬉しかった。
とはいえ、オフィーリアも何もアルティーノと過ごす為だけに一緒に居たのではない。
その食欲に忠実に行動していた、というのもあった。
「う~ん、美味しい!」
あの日から正確に言うとどれぐらい経っただろうか?
分からないが、三、四週間は経ったと思う。
それだけの期間練習したアルティーノの異能は、スポンジケーキぐらいの物なら召喚できるようになっていた。
今、アルティーノの目の前では、オフィーリアがスポンジケーキを頬張っている。
食器や風呂敷なんかも一緒に召喚したので、流石に手掴みでは無いが。
「どうしたの?アル、食べないの?」
「ん、ああ……食べるよ、食べるから僕の分は取らないでね」
「ちぇー」
アルティーノに対する心配と、自身の食欲の二つの理由から訊いた言葉である事は、アルティーノには分かっていた。
スポンジケーキを食べる手を止めてまで考えていたのは、オフィーリアの底無しの食欲――では無い。
このままの生活をどれぐらい続けなければいけないのか、だ。
(今はリアは一緒に居てくれるけど、その内こんな生活飽きて、僕から離れていくかもしれないし……それに、結局どれだけ強くなったところで、この村の人達が僕を見る目は変わらないんじゃないか?なら、いっそ――)
「――むぐぅっ!?」
「アル、暗い顔してるわよ」
アルティーノが真剣にこれからの事を考えていると、それを見て心配したオフィーリアが、アルティーノの口にスポンジケーキを突っ込んだ。
悲鳴を上げつつ、口の中に入ったスポンジケーキを咀嚼する。
「ふぅ……びっくりしたじゃん!」
「ご、ごめん……でもなんか、悩んでそうだったから……。ねえ、何かあるなら話して?」
「で……でも……」
(リアが離れていったらどうしよう、なんて本人に言えないよ~……!)
そんなの、まるで求婚ではないか。
実際にはちょっと違う気がしなくも無いが……ともかく、アルティーノはそう考えた。
故に、当の本人のオフィーリアにそれを告げる事は、少し恥ずかしかった。
「私って……そんなに頼りない?それとも、私の事信じれない?だから相談できないの?」
「うっ……」
うるうる潤ませた瞳で、アルティーノにしなだれかかるようにしながら、上目遣いでそんな事を言うオフィーリア。
普段はオフィーリアの方が目線が高いだけに、見慣れないオフィーリアの上目遣いは、アルティーノに大ダメージを与えた。
「そ、その……リアが、僕の事嫌いになったり飽きたりして、離れたらどうしようかな、って……」
「なんだ、そんな事」
「そんな事って……」
アルティーノにしてみればかなり重大な問題だったのだが、オフィーリアには些細な事だったらしい。軽い言葉で片付けられてしまった。
オフィーリアはアルティーノにしなだれかかったまま、あのね、とアルティーノの胸をつっつく。
「信じられないなら何回も言うわ。私は、ずっとアルの味方だよ」
「……ん、わか……った……」
鼻と鼻がくっつきそうな程の距離に顔を赤くしながらも、頷くアルティーノ。
ならいいのよ、とアルティーノの気も知らず、オフィーリアは離れる。
(びっくりした……キス、されるのかと……)
アルティーノはオフィーリアから顔を背け、口を押さえて心の中で呟いた。
一方、一見余裕そうな態度のオフィーリアも、同じ様な行動をしていた。
(あれ、今私……めっちゃ大胆な事したんじゃ!?も、もうちょっとで、キス……)
顔を赤くして口に手を当て、自分はなんて事をしたんだろう、と悶えるオフィーリア。
(でも……アルならあり、かも……?)
そんな事を考えてしまい、体をくねくねさせるオフィーリア。
幸い、アルティーノも顔を背けていた為、オフィーリアの奇行に気付く事は無かった。
「「…………」」
恥ずかしさがようやく消え、顔を合わせると、今度は気まずさが押し寄せてくる。
互いに無言で、目が合うとサッと逸らす。
そんな気まずい沈黙をどうにかしようと先に口を開いたのは、オフィーリアだった。
「え、えっと、その……何か、他に悩みは無いの?」
「……もう少し大きくなったら、村を出ようかなって」
オフィーリアが気まずさを無くそうとしているのに気付き、アルティーノも素直に話に乗る。
「うーん、村を出る、かぁ……寂しいけど、しょうがないのかもね」
一人っ子のオフィーリアにとって、アルティーノは弟の様な存在で、村で一番仲の良い子供――大人を含んでもそうだが――だ。
そんな存在が居なくなってしまうと、寂しいし悲しい。
でも、アルティーノが村でずっと嫌われたまま過ごすよりは、そっちの方が良い……そう思った。
「だ、だから、その……その時は、リアも一緒に来ない?」
一世一代の告白でもするかの様な、実際それぐらいアルティーノの心臓はドキドキと鳴り響いていた。
断られたらどうしよう、そんな事を思いながら。
アルティーノの必死の誘いを受けたオフィーリアは、「う~ん」と可愛らしく首を傾げた後、微笑みながら言った。
「……ごめん、すぐは決めれないや。返事は、また今度でもいい?」
「う、うん、分かった……」
生まれてから今まで、まだ二桁にも届かない九年という年数だが、暮らしてきた村だ。
そんな簡単に村を出る事はできない。
だが同時に、アルティーノと一緒なら良いかも……という気持ちも、確かにオフィーリアの中に存在していた。
保留と言われたアルティーノは、無理そうかな……と若干悲しくなっていたが、オフィーリアはそんな事には気付く様子も無かった。
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