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34.初迷宮

 諸事情により、次話から一人称視点に変更します。

「それでは、D級パーティー『空狼』で登録致しますね」


「お願いします!」


 受付嬢の言葉に元気良く頷くエルナト。


 パーティー名は、二人で話し合って決めた結果である。

 エルナトとルプスの要素である『狼』と、アルティーノの要素である『空間』の『空』を取った物だ。


「それでは、お二人の冒険者カードを頂けますか?」


「「はい」」


「ありがとうございます。少々お待ち下さい」


 受付嬢にカードを手渡して数分後、返ってきた二人のカードには、『パーティー名:空狼』と記されていた。


「こちら、どうぞ。解散やメンバーの追加を行う際は、随時お伝え下さい」


「はい、分かりました」


 エルナトが代表して頷き、パーティー結成の申請は完了した。


「さて、それじゃあ早速潜りましょうか?」


「え、もう潜るの?何か準備とか……」


 迷宮の入り口に向かって歩き出そうとしたエルナトに向かって、アルティーノが問い掛ける。


 武器防具はともかく、食料や飲料水、罠などの準備は不要なのだろうか?


 アルティーノはそう思ったのだが、エルナトはひらひらと手を振って歩みを止めない。


「それは数日間潜る時の話よ。今日は、貴方に迷宮を慣れさせる為だから、数時間だけ潜ったら帰るわ」


「な、なるほど……うん、分かった」


 エルナトの説明に納得したアルティーノは、頷いてエルナトに付いて行く。


 こうして、二人と一匹は迷宮の中に入って行った。







 扉を開き、それなりに長い階段を下りて行くと、そこはもう迷宮である。

 といっても、階段を下りてすぐの場所は広場の様な場所になっており、休憩中の冒険者が複数人居る。


 冒険者達は、アルティーノとエルナトと一緒に入って来たルプスを見て、一瞬警戒した様にそれぞれの武器に手を掛けたが、エルナトの姿を見てそれを中断した。


「チッ、なんだ、ビビッて損したぜ……」


「魔物使いのガキかよ……」


「獣臭えな……さっさとどっか行けよ……」


 そんな風に悪態を吐いて、焚き火の方向に向き直っていった。


(雰囲気が悪いな……冒険者仲間相手に、そんな事を言うんだ……)


 アルティーノは何か言い返そうかとも思ったが、エルナトが意に介していないので、無言でその傍を通り過ぎた。


 意に介していないとは言っても、流石にこの空気の中留まるのは嫌な様で、階段から見て右側の通路に向かって進む。

 無言で進むエルナト、冒険者達の様子を窺いながら歩くアルティーノ、冒険者達を威嚇するルプス。

 三者三様の様子で、通路に向かって歩いた。


 通路に入って少しすると、エルナトは安堵した様に長い息を吐いた。


「全く、やっぱりあそこは嫌いだわ」


「……だろうね」


「がうっ」


 エルナトの愚痴に、アルティーノとルプスは頷いた。

 誰だって、自分達を悪く言われて良い気にはならない。


 ともかく、ここは迷宮である。いつまでも冒険者の愚痴を言ってはいられない。


「さ、気を取り直して、取り敢えず適当な魔物を狩って慣れましょう。索敵はルプスがやってくれるわ」


「うん、分かった。僕は何をすればいい?」


「基本的には私とルプスを守ってくれればいいわ。余裕があれば、ルプスと一緒に攻撃をお願い」


「了解」


 短く方針を決定し、ルプスを先頭にして通路を進む。

 時折曲がり角があったが、それらは無視して、真っ直ぐ進む事にした。


 黙って歩いていると、否が応にも周囲の音が聞こえてくる。

 突然、キンキンという、剣を打ち合う様な金属音がアルティーノ達の耳に入って来た。


「あっ、あっちの方……」


 音に釣られてそちらの方に歩いて行こうとしたアルティーノの首根っこを、エルナトが引っ掴んで止めた。


「やめなさい」


「どうして?戦ってるんだよ?」


「直接ピンチを見でもしない限り、基本的に近付かない方が良いわ。盗賊とかの可能性もあるし、近寄って特に得も無いしね。……それと、仮に目の前で戦闘が行われていても、窮地でも無い限りは無視するわよ。窮地に見えたら、こっちの所属と名前を言って、助力許可が出たら助力する。いい?」


「あ、そっか、別に迷宮にも盗賊は居るのか……」


「そうよ。特に冒険者のフリをした盗賊が厄介なんだから」


「なるほどね……」


 エルナトの説明に納得したアルティーノは、戦闘音を無視する事にした。


 確かに、迷宮の中では周囲の全てを警戒しなければならないのだ。

 冒険者仲間の様に見えても、相手が盗賊の可能性だってある。

 知り合い以外は、油断した姿を見せてはいけないのだ。


 それを理解したアルティーノは、それ以後戦闘音が聞こえても、特に反応する事は無くなった。



 数分後、通路の先に光が見えて来た。そして、僅かながら風も流れ込んでくる。

 その時、ルプスが低く唸った。


「敵よ。この先の空間に居るっぽいわね」


「ん、分かった」


 ルプスが攻撃担当という事だが、念の為アルティーノは異空間収納から拳銃を取り出し、懐に仕舞っておいた。


 その動作の間にもずんずんと進んで行き、すぐに広間に辿り着いた。


 広間の中央には、人の形をした骨だけの生命体――スケルトンが四体。

 弓を持った個体が二体、剣を持った個体が一体、無手の個体が一体だ。


「ルプス、手前の二体を先に処理して。アルティーノ、アーチャーの攻撃を防げる?」


「がうっ!」「うん、勿論!」


「じゃあ、行くわよ!」


 エルナトのその言葉で、ルプスは前方に疾走を始めた。

 その動きに気付いたスケルトン達は、それぞれの武器を構えてルプスの方を向く。

 ルプスが剣を持った個体――ソードマンに噛みつこうとした直前、アーチャーが弓矢を放つ。


「結界!」


 アルティーノは前方に掌を向け、一瞬だけ矢を防ぐ為の結界を展開する。

 矢はカキンと結界に弾かれ、地面に落ちる。


「がぁぅっ!」


 弾かれた矢に臆する事無く、ルプスはソードマンに向かって噛みつく。

 足の骨を噛み砕かれたソードマンは、倒れながらルプスに向かって剣を振るうが、ルプスは俊敏な動作でそれを回避すると、隣に居たただのスケルトンに噛みつく。

 スケルトンは倒れながら攻撃しようと腕を振るが、低姿勢のルプスには届かず、地面に倒される。

 地面に倒れたスケルトンにルプスは馬乗りになり、首に噛みつく。


 そんなルプスに向かって、再度アーチャーから弓矢が放たれる。


「結界!」


 しかし、またも矢は弾かれる。


 その間にもルプスがスケルトンの首を噛み続けた結果、スケルトンの首の骨が砕け、体を形作っていた骨達はカランカランと音を立てて地面に落ちていった。

 そのルプスの背に、ソードマンの剣が迫る。


「結界!」


 しかし、アルティーノの展開した結界に弾かれ、剣は届かない。

 ルプスは素早くスケルトンの死骸の上から飛び降り、結界の横を通って片足立ちのソードマンを押し倒す。


 ソードマンは倒れた状態のまま剣を振るおうとしたが、それよりも先にルプスがソードマンの肩を噛み砕く。


「がぁぁ!!」


 続けてルプスはソードマンの首に噛みつく。

 首は少し硬いのか、噛み砕くのに少し時間が掛かる。

 ルプスが首を噛み砕こうと悪戦苦闘している間に、その背に矢が放たれる。


「結界!」


 しかし、三度矢は弾かれる。


 その間にルプスはソードマンの首を噛み砕き、ルプスは素早くアーチャー二体の方へと走る。


 アーチャーは矢を装填し直しもう一度放とうとするが、ルプスの動きはそれよりも早かった。

 ルプスは左のアーチャーを爪で切り裂き、右のアーチャーに噛みついた。

 一瞬で体勢を崩された二体は起き上がろうともがくが、ルプスは的確に両足を使い、アーチャー達の足を砕く。


 続けて一体ずつ首を噛み砕いていき、戦闘は終了した。

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