33.勧誘
「全くどうして……」
宿屋から出たアルティーノは、溜め息を吐きながら歩いた。
何故か?
イェヘラの町に来てからの四日間、毎日人攫いらしき男達に襲われているからだ。
いくらアルティーノが貴族の様な格好をしているからと言って、あまりに酷い。
(だけど……今日からは、そんな事は無い筈!)
つい昨日、アルティーノは新しく服と短剣を購入した。
なるべく安っぽい見た目の服を選んだので、これで襲われる事も無い筈だ。
アルティーノは喜びを露わにしながら、冒険者ギルドに入った。
一昨日からアルティーノは依頼を受け始めている。
といっても、Fランクで受けられる依頼はそう多くない。
薬草採取や飼い猫探しといった依頼ばかりだったが、依頼主から感謝されるのは気分が良くなるし、ギルドへの貢献度も溜まるので、今の所気持ち良く依頼を受諾出来ている。
(依頼、依頼……)
朝食は宿屋付属の食堂で食べて来たので、ギルドに来る目的は完全に依頼のみだ。
依頼が貼り出されたクエストボードの前に立ち、アルティーノは受諾可能な依頼を確認する。
「見つけたわ!」
(う~ん、まだ薬草採取が残ってるな……もう一回受けようかな?)
何やら声が聞こえてくるが、アルティーノにはまだ話をするような知り合いは居ないし、関係の無い話。
耳を素通りさせて、依頼を見ていく。
(報酬も他のより良いし、これでいいかな)
薬草採取の依頼を受けると決めて、手を伸ばした時だった。
「ちょっと、無視しないでよね」
背後からぬっと手が現れ、アルティーノの伸ばした手を遮った。
白い華奢な手だ。
「……はい?」
自分に話し掛ける人なんて居ただろうか。
そう思いながら、アルティーノは振り返って手の持ち主を確認する。
そこに立っていたのは、紫髪の少女だ。歳はオフィーリアより少し上くらいだろうか?見た目はオフィーリアに負けず劣らず美しい。オフィーリアを美しい系とするならば、可愛い系と言った感じだ。
そして、傍らに狼を従えている。ペットだろうか?いや――。
「――魔物?」
「ああ、怖がらないでよね。滅多に人は噛まないから」
狼の正体を悟り僅かに後ずさったアルティーノを見て、少女はそう言い、狼の首を撫でた。
狼は嬉しそうに鳴きながら、されるがままだ。どうやら、人を噛まないというのは本当らしい。
納得しつつ、しかし怖いので距離は保ったままにしておく。
「で、その、用件は何ですか……?」
「ああ、そうね……立ち話もなんだから、そこの机で話しましょう」
少女が近くにある机と椅子を指差したので、アルティーノは頷いてそちらに移動する。
少女は狼の首を撫でるのを中断して、椅子に腰掛ける。狼はそれに付いて移動すると、少女の足に首を擦り付け始めた。
アルティーノはそれを見て、足を引っ込めた。
「えーっと、まずは自己紹介をするわね。私はエルナト、この子はルプス」
「僕はアルティーノ……です」
ここ数日の出来事を考え、アルティーノは家名を名乗るのを中断した。
別に貴族相手でも無いので、問題無い筈だ。
「そう、アルティーノって言うのね」
(え……名前も知らないのに呼ばれたの?僕)
「まあいいわ。……貴方、私のパーティーに入るつもりは無い?まあ、パーティーって言っても、まだ結成もしてないけど」
「ぱ、パーティー?突然どういう事ですか?」
突然何を言い出すのかと、アルティーノは困惑した。
またあの男達の様な、人攫いの類に騙されようとしているのだろうか?
「突然言われたら驚くか。あ、それと、敬語は無しでいいわよ。私も最初っから使ってないし、そもそも敬語なんて怪しいし……」
「あ、そう?じゃあ、遠慮無く」
使わないでいいと言われたので、遠慮無しに敬語をやめる。
エルナトはアルティーノが敬語をやめたのに満足したのか一つ頷くと、詳しく説明をしていく。
「私ね、パーティーメンバーが見つからないのよ。年端も行かない少女ってのもあると思うけど、一番の理由はこの子ね」
エルナトはそう言うと、足元に居るルプスを撫でた。
ルプスは嬉しそうに鳴き声を上げ、エルナトの足に更に首を擦り付ける。
「いつ暴れるかも分からない魔物を連れた私と、パーティーを組みたいって言う人が見つからないのよね……。仮に見つかっても、私を売ろうとする奴隷狩りとか、体目当ての下衆とかしか居ないのよ」
「な、なるほど……」
確かに、目の前で人を噛まない事を見せられても、尚目の前の狼は少し怖い。
アルティーノが納得したのを見て、エルナトは話を続ける。
「で、出来るなら同年代くらいの人を探してたんだけど、まあそんなの見つかる訳無くて……ようやく見つけたのが貴方って訳。衛兵の人達が噂してたわよ、『魔術師のローブを纏った少年が、人攫いの男達を連日捕まえて来た』ってね」
「うわぁ……忘れて、それは」
アルティーノにとっては、最早黒歴史の域である。
聞きたくない話だ。
頭を抱えるアルティーノを気にする事無く、エルナトは更に話を続ける。
「そんな実力者で私と同年代、完璧な相手じゃないと思って、勧誘しに来たって訳」
「なるほどねぇ……」
「どう?組んでくれるかしら?」
説明を聞き終えたアルティーノは、幾つかエルナトに確認をする。
「エルナト、だっけ?君、ランクはいくつなの?」
「Dよ。貢献度は溜まってるんだけど、まだ在籍期間が足りないのよね」
「クラスは?」
「テイマーよ」
「て、テイマー?」
初めて聞くクラスである。
アルティーノが知っているクラスは、剣士や戦士、魔術師や弓士と言った、メジャーな物ばかりだ。ルイからたまに聞いた冒険者の話でも、テイマーなんてクラスは聞き覚えが無い。
首を傾げるアルティーノに、エルナトは説明を補足する。
「魔物使いって言った方が分かりやすいかもね」
「魔物使い……ああ、なるほど」
その言葉で、アルティーノは納得した。
今エルナトの足元に居る様な魔物を従える、それがテイマーなのだろう。
「へぇ~、凄そうだね。どういう原理なの?」
「凄い……ね。そんな事を言われたのは、初めてだわ」
「え?なんて言った?」
エルナトが自嘲気味に呟くが、その言葉はアルティーノに聞こえる事は無かった。
エルナトはすぐに誤魔化し、質問に答える。
「なんでもないわ。えと、闇魔術を使ってるの」
「闇魔術……精神支配の魔術っていう事?」
「そういう事。弱らせたら魔物にも効くのよ」
「そうなんだ……」
魔術について学んでいたアルティーノも、初めて聞く情報である。
ルイは知っているだろうか、と思いつつ、アルティーノは話を戻す。
「えっと、僕魔術師だけど、大丈夫?」
「う~ん……そうね、大丈夫だと思うわ。攻撃はこの子がやってくれるし、敵の攻撃を防いでくれればそれでいいから」
「そっかぁ……じゃあ、入れてもらおうかな?」
きちんと詳しい説明をしてくれる辺り、人攫いでは無さそうだと感じたアルティーノは、エルナトの勧誘を受け入れる事にした。
「おっ、本当!?じゃあ、早速パーティーを結成しましょ!」
アルティーノの言葉を聞いて、エルナトは興奮気味にそう言って立ち上がった。
主の興奮にあてられてか、ルプスも興奮してワンワンと鳴く。
アルティーノはそれを見て苦笑しつつ、ルンルンでカウンターに向けて歩くエルナトの後を追い掛けた。
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