29.激変
それから数か月が経過し、8月の終わり際となった。
アルティーノとオフィーリアはルイの下で魔術を学び、また時折宮廷魔術師との模擬戦も行った。
アルティーノが勝手にライバルだと思っているサーズンとの模擬戦の戦績は、4敗2引き分け1勝。1勝は、最も直近の試合である。
この数か月で、アルティーノは異空間収納と結界の魔術をマスターした。
異空間収納は文字通り、自身の持ち物などを異空間に送り込み収納しておく事が出来る。異空間内では時間の経過が無い事が分かった為、現在は異能による召喚・送還と使い分けている。
また、異空間収納の素晴らしい点は、相手の魔術なども収納する事が可能な点だ。勿論、なんでもとはいかない。
基本的に、魔術師は一度放った魔術を最後まで制御下に置いておく事はしない。制御下に置いている時間の分だけ、魔力を消費するからだ。
だが、それが異空間収納に対しては仇となる。
一度制御下から離れた魔術であれば、異空間収納で収納する事が出来るのだ。そして、それを収納から取り出して発射する事も可能。
これが、サーズンがアルティーノに敗北を喫した理由である。
自身の放った魔術が吸収されたと思いきや、背後から突然返ってくる。初見での対応は、恐ろしく難しい。
ちなみに、アルティーノはこれならルイにも勝てるのでは、と意気込んで勝負を挑んだ結果、返り討ちにされてしまった。
ルイは魔術をずっと制御下に置いておく事を重要視していた様で、どんなに頑張ってもアルティーノが収納する事は出来なかった。
ルイによると、一部の魔物――ルイは例としてドラゴンを挙げていた――は、放った魔術の制御を奪うという技を使ってくるそうだ。それにしてやられた反省から、必ずずっと制御下に置く様にしているらしい。
次に、結界。
結界は、空間を押し固めて防御する事が出来る。
普通、結界といえば、錬金道具によって作り出される空間の事を指す場合が多い。それらの場合、例えば風の錬金術で遮音をしたりなどが出来る。
しかし、空間魔術における結界は、純粋な防御の結界。
属性相性など存在せず、全ての属性の攻撃を防ぐ事が出来る。とはいえ、耐久力の問題はあるが……。
そして結界の強力な点は、一度展開すると、意識的に解除する、もしくは破壊されるなどの外因が無ければ、魔力が底を尽きるまで解除されない点である。
自身の体表に結界を張り巡らせておけば、これによって意識外の攻撃を防いだりする事が出来る。
この二つは非常に強力な為、完全にマスターする為に数か月を要した、という訳であった。
ちなみに、オフィーリアのこの数か月で色々と魔術を習得しているのだが、それは一旦置いておこう。
いつも通りお風呂から上がり、後は寝るだけとなったアルティーノだったが、ルイによって呼び出された。
呼び出し役を担ってくれた使用人に礼を言い、アルティーノはルイの自室へと向かう。
オフィーリアも同じタイミングで呼ばれた為、二人並んで廊下を歩き、同時に部屋の扉を叩く。
「入ってよいぞ」
「「失礼します」」
オフィーリアを先に入らせたアルティーノは、素早く扉を閉めると、オフィーリアと一緒にルイが魔術で作った椅子に座る。
ルイは一つ咳払いをすると、二人を呼び出した用件を語り出す。
「回りくどい遠回しな話をするのは面倒だから、端的に言おう。……お主らにはこれより五か月間、冒険者として活動してもらう」
「「……はい?」」
ルイの端的過ぎる発言に、アルティーノとオフィーリアは揃って聞き返す。
「二人共、魔術はどのぐらい習得出来たかね?」
「え……?まあ、一通り戦えるくらいには……」
突然の話題転換に困惑しながらも、オフィーリアはルイの問いに答える。
「しかしだ。お主らには、実戦経験が足りぬ」
「……確かに」
アルティーノは村に居た時ぐらいしか命の取り合いをした事は無いし、オフィーリアに至っては一度も無い。
だから冒険者になって、その辺りの経験を積んで来いと……そう言いたいのだろうか。
「そこでだ。帝国には、迷宮のある都市が幾つかある……その内の二つに、それぞれ別れて向かってもらう」
「「はぁ……」」
迷宮。
家庭教師からの授業でしか聞いていない言葉だが、ある程度の事は知っている。
原理は解明されていないが、放置しておくと魔物が湧き出て、数が増えると溢れて地上を襲う。なので、冒険者や場合によっては騎士団などが駆り出される。
そして、最下層に居る、迷宮の主――いわゆるボスを倒すと、迷宮は崩壊を始める。
こう聞くと、一刻も早くボスを倒して迷宮を崩壊させた方が良い様に感じるが、実際のところは、敢えてボスを倒さず迷宮を残しておくケースが多い。
何故なら、第一の理由に、魔物がほぼ無限に湧いてくるという事がある。魔物からは魔石が採れる。魔石は、杖の作製や錬金術に用いられる為、高価になりがちだ。それを半永久的に回収出来る迷宮という施設は、資源の宝庫なのだ。
また、迷宮には、魔力結晶という鉱石が生まれる事がある。採掘して適切な加工を施した魔力結晶は、錬金道具を自動的に動かす動力源になったり、一瞬にして魔力を回復させたりする事が出来る。
この二つがあるから、冒険者達は一攫千金を目指して、迷宮のある都市に赴く。
授業で学んだ内容を二人が反芻していると、ルイは土魔術で地図を作り出した。
ルイはその地図の内灰色で記された点の二つを指差す。
「これは前に見た地図の写しなのじゃが……アルはここ、リアはこっちの迷宮に行ってもらおうと思っておる」
「分かりましたけど……随分と突然ですね。それに、何故別々の場所に?」
「まあ、突然になってしまったのは申し訳無いと思っておるが……別々の迷宮に行かせるのは、きちんとした理由があるのじゃぞ。お主ら、特にアルは、あまり他者と交流せず、外出する時も帝城以外には行かんじゃろう?」
「確かに言われてみれば、そうですね……」
オフィーリアは時々自由時間に外出したりしているが、アルティーノは宮廷魔術師達との模擬戦以外ではあまり外に出ない。
その為、見知った顔以外との交流がほとんど無いのだ。
「じゃから、知らん者達とも交流し、共に肩を並べて戦える様になって欲しいと思っての。その場その場でのチームアップというのは、戦いにおいて必要な能力じゃ」
「「……確かに」」
アルティーノもオフィーリアも、互いが居ないと考えると少し寂しいが、ルイの言う事にも一理ある。
「それにじゃ。魔術学校の入学試験には、戦闘も含まれる。入学後も、あまり関わりの無い生徒同士でのチームアップを強要される事もある。今の内に慣れておくべきじゃ」
「なるほど……入学試験の準備でもある、って事ですね」
「そうじゃ。……明日明後日を準備に費やした後、明々後日に発つがよい。ちなみに、馬車などはこちらでは用意せんから、必要なら二日間の間に用意するといい」
「「分かりました」」
あまりにも唐突な話だったが、理には適っている。
こうして、突然のルイの命令によって、アルティーノの静かな暮らしは崩れ去った。
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