26.宮廷魔術師長
アルティーノとサーズンの治療が完了した後、宮廷魔術師達はアルティーノと勝負をしようと、我先にとアルティーノに近付いた。
アルティーノは断る事を知らなかったので、その全てを受け入れたが、勝率は二割弱といったところだった。
転移という初見殺しが露見していた事、持久戦に弱い事などが主な敗因だろう。
特に、水属性や光属性などの止血手段がある魔術師に対してはボロ負けだった。
一方オフィーリアの方は、一度も勝利する事が叶わなかった。
そもそもオフィーリアはただの魔術を学び始めた見習い魔術師。本職である宮廷魔術師達に勝てる筈も無い。
とはいえ、宮廷魔術師長ルイ直伝の魔術を味わおうと、模擬戦をした宮廷魔術師は多かった。
彼らは全員、試合が終了した後、オフィーリアにアドバイスをしていた。きっと、これを糧にしてオフィーリアは強くなっていくだろう。
「さて、アル、リア、わしとも戦うかな?」
アルティーノとオフィーリアの勝負が一通り片付いた後、一人座っていたルイは立ち上がってそう言った。
「勿論です!」
「勝てる気はしないけど、頑張ります……」
大喜びのアルティーノに、やや不安気味なオフィーリア。
対照的である。
「では、先にアルからやるとしよう」
ルイはそう言うと、訓練場の中央に歩み出した。
「おぉ、『独城の魔術師』の戦闘が見られる……!」
「ルイさん、最近は訓練であんまり魔術使ってねえからな……鈍ってんじゃねえかな?」
前者は宮廷魔術師団の団員、後者は宮廷魔術師の言葉である。
師団のただの団員と宮廷魔術師、何が違うのか?
それは魔術の腕前である。
宮廷魔術師とは、宮廷魔術師団の中では隊長格の存在である。団員達の上に立つ存在なのだ。
宮廷魔術師達はルイと訓練をする機会もそれなりにあったが、団員達は滅多に無い。その為、一部の団員は興奮しているのだ。
ちなみに、『独城の魔術師』とは、ルイの二つ名である。
訓練場の中央で向かい合う、アルティーノとルイ。
「審判は……クローズ副隊長、頼んでも良いかな?」
「……へ?」
間抜けな声を出すアルティーノ。
クローズ副隊長――ギーアロスは、この場に居ない筈。
居ない筈……なのに、ルイがそう言うと、訓練場の入り口から、ギーアロスがゆっくりと歩いてきた。
「チッ……なんで分かるんだ……」
舌打ちをしながら。
「索敵魔術じゃよ。常時起動しておるからな」
小声の文句すら聞こえていた様で、ルイはギーアロスに原理を教えてやった。
ギーアロスは少し怖くなりつつ、咳払いをして審判役を始める。
「ん゛ん゛……えー、これより、宮廷魔術師長ルイ・トマス対、異能持ちアルティーノ・トマスの模擬戦を行う。両者、構え!」
ギーアロスの言葉で、アルティーノは拳銃を、ルイは杖を構える。
「試合、開始!」
開始の合図と同時に、アルティーノは引き金を引いた。
ルイの回避行動を予測して、少しだけ体の中心から相手の重心の方向に標準を傾けて。これまでの試合でも、全てそうしてきた。
だが、ルイはアルティーノの予想に反し、ステップによる銃弾の回避ではなく、魔術による防御を選択した。恐ろしく早い生成速度が、それを可能にしたのだ。
「銃弾に勝る速度で魔術を行使できる魔術師も居るのじゃよ」
ルイはそう言いながら、防いだ銃弾を反射させて、アルティーノに向けて発射した。
「……ッ!?」
咄嗟の事で対応出来ず、アルティーノは左肩を撃ち抜かれてしまう。
発射した弾丸を跳ね返されてしまうなら、後は転移で死角を狙うしかない。
一瞬でその思考に辿り着いたアルティーノは、ルイの後方に向けて転移を使う。
しかし。
転移したアルティーノが見たのは、背中まで張り巡らされたルイの水の防壁だった。
「防御が一方向だとは限らんぞ?」
ルイはゆっくりと振り返り、アルティーノを視界に捉える。
「さて、終いじゃな」
ルイはそう言うと、自身の防壁の水から少しだけ水を抜き出し、それを水の矢に変形させてアルティーノに向けて発射し始めた。それも連射で。
次々と襲い掛かる水の矢を回避しきれず、アルティーノは幾度も被弾した。
「そこまで!」
アルティーノが四度程被弾したところで、ギーアロスから終了の声が響いた。
その声が響くと同時に、ルイは発動させている全ての魔術――水の防壁と、水の矢を霧散させた。
「この勝負、宮廷魔術師長ルイ・トマスの勝利!」
ギーアロスの宣言と共に、宮廷魔術師団から歓声が上がった。
「流石に勝てねえよなぁ……」
「生成速度が速すぎるんだよなぁ、ルイさん」
「騎士相手にも勝った事あるって話だからな……」
歓声に交じって、感想を言い合っている者も居る。
銃弾に勝る生成速度は、魔術師の中では異質である。
基本的に、騎士対魔術師であれば、速度の違いから騎士が勝利するケースが多い。
しかし、ルイはその驚異的な生成速度により、騎士相手でも勝利を収める事が可能なのだ。
それが、彼が宮廷魔術師長たる由縁である。
一通り歓声が収まり、アルティーノの治療も完了したところで、ルイは次はオフィーリアを呼んだ。
「さて、次はリアじゃな」
「はい……」
その後のルイ対オフィーリアは、一瞬にして決着が付いた。
当然、オフィーリアの敗北であった。
水によって火の生成を潰され、土により攻撃される。
完封だった。
オフィーリアは敗北する事を分かっていたので、あまり落胆はしていない様だ。
対するアルティーノは、かなり落胆していた……負ける事が分かっていたとしても、それでも勝ちたいものなのだ。
ちなみに、その後ルイが宮廷魔術師長達に勝負を迫られた事は、言うまでもない。
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