2.異能の練習
異能の練習に取り掛かると決めて、アルティーノはすぐに行動を始めた。
とはいえ、異能の使い方なんて分からない。
「どうすればいいんだろう……」
「取り敢えず、印に触れてみたら?」
独り言の様にして呟いた言葉に、オフィーリアが反応する。
なるほど、と思ったアルティーノは、服を脱ごうとして――オフィーリアがこの場に居る事を思い出し、慌ててやめて服の中に手を突っ込む。
それを見て、オフィーリアは残念そうな反応をした。
(……?僕の裸見たかったのかな……?)
勿論、そんな訳は無い。
オフィーリアは別の理由で残念がっていた。
(悪魔の印、見てみたかったのにな……)
流石に面と向かって見せて、と言える程空気が読めない訳では無い。
しかし、見る機会があれば見たいというのがオフィーリアの本音だった。
ともかく。
アルティーノの手が、異能の証に触れる。
ドクン。
心臓が大きく跳ねた。
「うっ――!」
頭痛と共に、何かが頭の中に入ってくる感覚。
アルティーノは堪らず呻き、地面に膝をつく。
「ちょ、大丈夫!?」
オフィーリアは慌てて駆け寄り、アルティーノの様子を見る。
しかし、数秒後には苦悶の表情が消えた。
(なんだったんだ、今の……?頭の中に――ッ!)
頭の中に流れ込んできた物の正体がハッキリした。
それは、異世界の知識。
完全な知識では無い。途切れ途切れの物だ。
だが、その知識は、アルティーノに深い憧憬を覚えさせた。
(平和、平等、公平……生まれも、人種も、思想も、宗教も違うのに、みんな平等……)
異能の証によって差別対象となってしまったアルティーノには、考えられない光景だった。
しかし。
この瞬間、アルティーノの目標は決まった。
(あれだ……あの光景を、あの常識を……ここでも……!)
貴族と平民。亜人とヒト。
異能の証以外にも、この世界には沢山の差別が存在する。
それらを全て無くし、完全に平等な社会を築き上げる。
遠大な野望だ。
ただの村の子供であるアルティーノには難しい事だ。
しかし、アルティーノは、何が何でもその目標を達成しなければならない、そう思った。
「大丈夫?」
アルティーノが苦しそうに膝をついたかと思えば、突然顔を上げて笑い出した。
オフィーリアは、気が触れたのか……?と思った。
実際は、平等という概念を知って、衝撃と歓喜に震えているだけなのだが。
しばらくして、笑いが収まったアルティーノは、心配そうな顔をするオフィーリアに向き直る。
「大丈夫だよ。うん、僕は大丈夫」
「そう……?」
「うん。それより、練習の続きをしよう」
異能の証に触れた事で、アルティーノは自身の力の正体がハッキリと分かった。
アルティーノの異能は『異世界』。異世界とこの世界を繋げる事の出来る力だった。
(とはいえ……今の僕じゃ、そこまでの出力は出せない。精々、物を召喚したりと言った程度が限界……あ)
今にして思えば、あの枕元にあった物体は、コンピュータだったのだ。
(……まあ、インターネットも電気も無かったら、あっても意味無いか)
それに、どうせ両親によって処分されている事だろう。
アルティーノは、コンピュータの事は気にしない事にした。
思考を切り替え、異能の練習の方法を考える。
「えーっと……うん、こうして、こうで……」
ブツブツと呟き始めるアルティーノ。
オフィーリアはそれを静かに見守った。
きっと、今アルティーノは必死に考えているのだろう。ならば、自分が邪魔するべきでは無い。
そう思い、オフィーリアはただ無言で隣に座った。
数分後、アルティーノは地面に手をついた。
「『召喚』」
アルティーノがそう言うと、二人の目の前に、真っ赤に熟した林檎が現れた。
「わぁ、凄い……なにこれ、果物?」
(あれ、この世界には無いのかな?)
自分よりも年上で自分よりも物知りなオフィーリアが初めて見るのならば、この世界に林檎は無いのかもしれない。
まあ、それは今気にするべきではない。
アルティーノが考えたのは、異能で食べ物を召喚する事。
そうすれば空腹の問題も解決するし、異能の練習にもなる。
今は単純な食べ物ぐらいしか召喚でき無さそうだったので林檎を選んだが、練習していけば料理も出せるようになる筈だ。
「ごめん、食べていいかな?」
「ああ、ごめんね。はい、どうぞ」
興味津々と言った様子で林檎を眺めていたオフィーリアから林檎を受け取り、皮も剥かずに齧り付く。
(うん、美味しいっ!)
甘い果汁が口の中に染み渡る。
甘味は、空腹の胃の中にすんなりと入っていった。
アルティーノはあまりの美味しさに頬を緩める。
「あ、ズルいズルいっ!私にも頂戴!」
「わ、分かったからこれは取らないでよ!」
林檎の取り合いをしながら、じゃれ合って笑い合う。
思えば昨日も今日もアルティーノは笑っていなかった。しかし、今は前の様に笑顔になる事ができた。
それは、間違いなくオフィーリアのお陰だろう。
「ん~っ、美味しい!」
オフィーリアは、アルティーノが新たに召喚した林檎を頬張って叫ぶ。
普段甘味を食べない身に甘い果実を頬張れば、自然と喜ぶものだ。
隣に座るアルティーノも、そんなオフィーリアを見ながら林檎を食べ、満足げに頷く。
(よかった……しばらくは、これでやっていけそうだ)
食料問題が解決した事を喜びつつ、微笑みながらオフィーリアを見つめる。
あっという間に用意された林檎を食べきったオフィーリアは、アルティーノに向き直る。
「ねえねえ、他のは無いの!?」
目をキラキラさせながら、アルティーノに飛びつくオフィーリア。
普段はアルティーノの姉ぶろうと大人びた態度を取っているオフィーリアだったが、今だけは年相応の女の子だった。
「わ、分かったから落ち着いて、ね?ほら、出すから」
抱き着いてきたオフィーリアを何とか引き剥がし、新たな林檎を三つ程召喚する。
一個は自分の、残りの二個はオフィーリアの――そう思って召喚したアルティーノだったが、しかし三つともオフィーリアが掻っ攫っていった。
「ふふ、美味しいっ!」
(……まあ、リアが喜んでいるならいいかな)
オフィーリアから林檎を取り返す事を早々に諦めたアルティーノは、溜め息を吐きながら、林檎を頬張るオフィーリアを見守った。
「ごめんなさい!アルの方がお腹が減ってるのに……!」
「い、いいよ、大丈夫だから」
「でも……!」
林檎を食べきって満足したオフィーリアは、自分の行動を振り返るなり、アルティーノに向かって土下座した。
昨日と今日、碌な食事を摂れていないアルティーノがお腹を満たす為に召喚した林檎を、オフィーリアが独り占めしたからだ。
その事に気付き申し訳無くなったオフィーリアは、ひたすら頭を下げている、という訳だ。
「本当に大丈夫だから!その、いつもみたいに笑って?そうした方がリアらしくて、その……可愛いから……」
かあ~っ、と両者顔を赤くする。
「わ、分かったわ!」
慌てて頭を上げるオフィーリア。
二人とも顔を真っ赤にしてあわあわして、目が合ってぷっ、と吹き出す。
(よかった……リアのお陰で、何とかやっていけそうだ)
アルティーノは、自分の味方がここに居る事に深く安堵し、心の中でオフィーリアと天に感謝した。
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