25.リベンジ
「チッ……」
ギーアロスは舌打ちをした。
アルティーノを異能部隊に引き入れる事が叶わなかったからだ。
(またアイツに文句言われんだろうな……クソが)
アイツ、とは、異能部隊の隊長の事である。
軍事活動において有能な異能を持つ人材、必ず引き入れて来いと耳にタコが出来る程言われていた相手である。引き入れに失敗した以上、次に会う時に文句を言われる事は確実。
(はぁ……憂鬱だぜ、ちくしょう)
ギーアロスの不機嫌オーラを浴びた近くの使用人は、「ひっ」と怯えた声を上げながら、その横を静かに素早く通り過ぎた。
数週間後。
ルイの元で魔術を学んだアルティーノとオフィーリアは、再び第二訓練場を訪れていた。
基本的に、部外者でも宮廷魔術師長の許可があれば、特に申請無く訪れる事が可能なのだ。
「さて、我が不肖の弟子どもと戦いたい者はおるかな?」
通常訓練が一通り終わった後、ルイは宮廷魔術師団の団員達に向けて言った。
その言葉を聞いて、誰よりも先に挙手をした者が一人。
「はいっ!」
前回アルティーノに辛勝した、宮廷魔術師サーズンである。
前回の勝利は、アルティーノが痛みに対する耐性が無かったから、と言ってもいい。受けたダメージで言えば、サーズンの方が上だったのだ。
なのでサーズンは、今度こそ完璧な勝利をしようと思い、真っ先に挙手したのである。
「サーズンか、よかろう。アルも良いな?」
「はい!」
この数週間の間に、ルイはアルティーノの呼び方を改めていた。
元気良く頷いたアルティーノは、訓練場の中央に歩む。
アルティーノも、サーズンとの再戦に、内心ワクワクしていた。
「では、今回は審判はわしが務めよう。……これより、宮廷魔術師サーズン対、我が弟子アルティーノ・トマスの模擬戦を始める。両者、構え!」
ルイの音頭に合わせて、サーズンは杖を構え、アルティーノは拳銃を抜いた。
アルティーノは、まだ杖をルイから貰っていない。オフィーリアは貰っているが、アルティーノはまだ杖が必要になる程魔術に習熟していないのだ。
「試合……開始!」
その声が聞こえると同時に、アルティーノは引き金を引く。先手必勝だ。
サーズンは前回の試合からその行動を予期しており、開始の合図と同時に全力で左に跳んだ。これにより、初撃を回避する事に成功する。
更に、サーズンは跳躍しながら魔術を使用した。前回の試合の反省から、移動しながら魔術を使う訓練を積んできたのだ。
(吸収盾を展開すれば、あの攻撃は防げる。前回と同じ様に、持久力が無くなるまで耐えれば良い)
サーズンの作戦は、前回とあまり変わっていない。基本的に、魔力と銃弾では、銃弾の方が先に無くなるので、持久戦を選ぶのは間違ってはいない。
しかし。アルティーノの方は、前回から変わっていた。
アルティーノはサーズンが吸収盾を展開したのを見ると、銃口をサーズンではなく、サーズンの背後に向けた。真正面に居るサーズンは、その僅かな変化には気付かない。
(転移!)
その瞬間、ヒュン、とアルティーノの姿が掻き消えた。
「なっ!?」
サーズンが驚きの声を上げる。
空間魔術を見るのなど初めて。対応出来なくて当然。
アルティーノはサーズンの背後に移動した直後、引き金を引いた。
パァン!
サーズンの無防備な背中に、弾丸による穴が開いた。
「うっ……!」
それにより、ようやく背後に自身の敵が居る事に気が付くサーズン。瞬時に吸収盾を背後に移動させる。
闇魔術では、傷の回復が出来ない。即ち、このまま持久戦を挑んでは、サーズンは敗北する。
(転移の魔術は攻撃では無い……つまり、吸収が出来ない。困ったな……)
空間魔術が初見のサーズンには、転移が一体どれ程の魔力を消費するのか、皆目見当も付かない。
もしそれ程消費しないのであれば、持久戦では絶対に敗北する。
この状況で、賭けは禁物。
腹をくくったサーズンは、アルティーノの銃弾を防いだ後、吸収盾の使用を中止した。
(そう来るのか……)
アルティーノも、このまま吸収盾の展開を続けるとは思っていなかった。
だが、正面から解除するとも思っていなかったので、内心少し驚いたのである。何か他の手を使ってくると思っていたのだ。
サーズンが吸収盾を解除した直後、アルティーノは銃弾を発射した。
サーズンは大きく横に跳躍したが、かろうじて間に合わず脇腹に被弾。
しかし、唱えていた魔術――闇矢の発動には成功した。
アルティーノの銃弾が跳ね返ったかの様に、サーズンが被弾した直後、闇の矢がアルティーノに迫る。
「……ッ!」
アルティーノは、左手を構えて魔術で防御しようとする。しかし、まだ慣れない魔術故、使用に失敗し、左手の掌に矢が突き刺さる。
「ッ……」
(まだ実戦では無理か……転移一つで戦うしかない)
使用しようとした魔術を諦め、アルティーノは左手から矢を引き抜く。
「ッ!」
再び鋭い痛みがアルティーノを襲うが、歯を食い縛って耐える。
その間にも、サーズンは再び矢を発射する。
(転移)
今度はサーズンの背後に移動する事でこれを回避。
更に、移動した直後に拳銃を発射。
サーズンもその行動はある程度予期していた為、サイドステップで回避を試みるが、銃弾の速度には抗えず、またも脇腹を貫かれる。
「はぁ、はぁ」
「ふぅ……」
両者共、息を吐いた。
アルティーノは左手に、サーズンは脇腹と背中に傷を負っている。
傷はサーズンの方が深い。
しかし、ある程度実戦経験のあるサーズンに対して、アルティーノはほとんど無い。痛みに耐性が無いのだ。
何か合図でもあったかの様に、二人同時にそれぞれの武器を――アルティーノは拳銃を、サーズンは闇矢を構えた。
そして、同時に発射する。
銃弾と矢が交差し――そして、双方に被弾した。
アルティーノは右肩に、サーズンは左足に。
アルティーノは拳銃を構えるのが困難になり、サーズンは移動が困難になった。
双方共に、まだ戦意は残っている。
しかし、右肩に傷を負った為か。
アルティーノは拳銃を構えるのが一瞬遅れ、サーズンの闇矢を受けてしまった。
「そこまで!この勝負、宮廷魔術師サーズンの勝利!」
うおおおおお、と歓声が上がった。
だが、勝負をしていた二人は落ち込んでいる。
アルティーノは敗北した事に、サーズンは再びの辛勝に。
この二人の勝負は、まだまだ続きそうである。




