23.トマス邸
「暗い話は終いじゃ。我らが家に向かおうぞ」
ルイはそう言うと、再びソファーから立ち上がった。
部屋を出て行こうと歩き出した直後、振り返ってアルティーノ達の方を見る。
「そうじゃ。その血を洗い流さねばな」
「「あ……」」
ルイの言葉で、アルティーノとオフィーリアは揃って自分の衣服を見た。
騎士からの返り血で少し汚れている。
ルイは懐から杖を取り出すと、二人に向けて構えた。
サーズンが使っていた物と比べると小さいような気がする。
「『洗浄』」
ルイがそう言うと同時に、二人の体を水が包んだ。
水はフワフワと二人の周りを漂いながら、その衣服を洗っていく。
しばらくして辺りを漂う水が霧散したところで、ルイは再び魔術を使う。
「『蒸発』」
すると、二人の衣服に付着していた水分が蒸発していった。
ルイは確認の為アルティーノの服に触れ、問題が無い事が分かると杖を仕舞った。
「よし、これでオッケーじゃな」
「あの……」
「なんじゃ?」
アルティーノは今の一連の流れで疑問に思った事があったので、それを訊いてみる事にした。
「サーズンさんとか、何も言わずに魔術を使ってましたけど、師匠は唱えて使うんですね」
「あー、別にわしも唱えずとも使えるぞ?ほれ」
見ると、ルイの人差し指から水球が生まれてフワフワと飛んでいく。
数秒後水球が音を立てずに霧散していったので、アルティーノは視線をルイに戻す。
「唱える理由は、まあ大まかに分けて三つじゃ。一つ目、使う対象に何の魔術を使うかを伝える意味。これがあるから、治癒魔術を使う魔術師はほぼ必ず、魔術の名前を言いながら魔術を使用する」
自分に直接使われる魔術や、戦闘中に味方が放つ魔術は分かった方が良い。
道理だ。
「二つ目は、これが敵が居ない状況、即ち戦闘では無いから。戦闘中であれば、唱えない事によって相手に使う魔術が露見しないというメリットがあるが、今みたいな状況では言わない理由も無い」
戦闘中であれば、一つ目を無視して魔術を使うパターンもあるが、今は平時であるから、魔術の名前を言って使用した、という訳だ。
「三つ目、かっこいいからじゃ!」
「あ、はい……」
二つ目までは非常に為になる内容だったのに、急にレベルが落ちた。
アルティーノは呆れながら相槌を打った。
オフィーリアでさえ、苦笑いをした。
「なんじゃ、かっこいい事は大事じゃろ!」
その反応に納得出来ない者、約一名。
彼は年甲斐も無く文句を言いながら、自身の執務室を後にした。
第二訓練場でクルレディアを拾った後、四人で馬車に乗りルイの屋敷に向かった。
「帝城からそこまで離れとらんからな、そう時間も掛からんわい」
その言葉通り、帝城を出てから数分もせずルイの屋敷に辿り着いた。
「おっ……」
「きぃ……」
アルティーノとオフィーリアは揃って息を呑み、クルレディアは喋る事すら出来なくなった。
「う~ん、これでも貴族の屋敷の中だと普通より少し上程度なんじゃが……。公爵邸とか見たら卒倒しそうじゃな」
幸い、その言葉はアルティーノ達に聞こえる事は無かった。
聞こえていたら、本当に卒倒していたかもしれない……。
ルイは圧巻されている三人を放っておき、馬車を帝城に帰した。
馬車が問題無く発進した事を確認すると、ルイは立ち尽くす三人を追い越して屋敷の敷地内に入る。
「ほれ、何しとるんじゃ。行くぞ」
「あ、はい……」
ルイに呼び掛けられてようやく回復した三人は、門から敷地内に入る。
庭を整備している庭師に会釈されたので、三人は会釈を返した。
「庭師とかいるのかよ……すげぇな」
クルレディアは言葉にして驚きを表したが、他の二人も驚きは一緒だ。
ルイはその間もスタスタ歩いて行き、屋敷の入り口に着いた。
扉を開けると、執事らしき服を着た老人が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、ご主人様。そちらの方々は?」
「わしの養子になる者とその婚約者、そしてその親じゃ。こやつに関しては、執事見習いとして雇う予定じゃから、色々教えてやってくれ」
「承知致しました。お帰りなさいませ、お坊ちゃま、お嬢様。わたくしは執事長のティナスと申します」
「「…………」」
生まれて初めての呼び方をされ、固まる二人。
そんな二人を無視して、ルイはどんどん話を進めていく。
「取り敢えず茶じゃ。細かい話はその後にしよう」
「かしこまりました。こちらでございます」
ティナスを先頭にして、屋敷の廊下を歩いていく。
廊下には、所々高級そうな花瓶や絵画などが飾ってある。
(うわ~……あれ、いくらするんだろ)
(綺麗……)
(俺、壊したら死ぬんじゃねえかな……)
アルティーノ、オフィーリア、クルレディアは、三者三様の反応をした。
ルイは背中でその反応を感じながらドヤ顔をした。それに気付いた者はこの場には居ないが。
そうしている内に居間に辿り着き、何故か既に用意済みの茶が並んだソファーに座った。
「うむ、美味い茶じゃな。……さて、クルレディアよ。ティナスに付いて行き、学んでくるが良い。雇用条件に関しては後で詳しく話そうぞ」
「分か、りました」
ルイの言葉に頷くと、クルレディアはソファーから立ち上がってティナスと一緒に居間を出た。
残されたアルティーノとオフィーリアは、所在なさげにソワソワしている。
「お主らには部屋を案内した後、わしが直々に魔術を教えてやろう。オフィーリア嬢は火で合っとったかの?」
「は、はい」
「火なら魔術書があるのでな、それを中心に教えてゆくとしよう。問題はアルティーノじゃが、まあ何とかなるじゃろ」
「は、はぁ……」
なんだか不安にさせられるアルティーノであった。
「ちなみに、部屋は同じ方が良いかの?その場合、夜は静かにしてもらえると助かるのじゃが」
「「良くないです!」」
「ふぉっふぉ、冗談じゃよ、冗談」
顔を真っ赤にして叫ぶ二人を見て、ルイは楽しそうに笑った。
違う意味でも不安にさせられるアルティーノであった。
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