22.騒動
「さて、茶も飲み終わった事じゃし、出るかの」
「分かりました」
ルイはアルティーノの分の水が入っていたコップを魔術で霧散させると、ソファーから立ち上がった。
その横には、魔術で作られた箱が浮いている。アルティーノが召喚したラノベを仕舞った箱だ。
ルイはティーカップを片付けると、執務室の扉を開け外に出た。
扉を開けると、外から何か騒ぎ声の様な物が聞こえてくる。困惑しつつ、アルティーノも後を追って外に出る。
「大人しく言う事を聞け!」
「何の騒ぎじゃ!」
ルイは騒ぎを止めようと大声を上げた。
扉を閉めながら廊下に出たアルティーノが見たのは、甲冑を着た騎士に腕を引っ張られるオフィーリアと、壁に叩き付けられて気絶しているクルレディアの姿だった。
「――え?」
更によく見ると、オフィーリアの衣服が若干乱れている。
それを見て、アルティーノの理性は吹き飛んだ。
一瞬で拳銃を召喚すると、素早く構えて二連射。
「アルティーノ、待――」
パンパン。
乾いた音が響き、騎士の頬を弾丸が掠める。
「何をす――!」
パン。
更に一発。騎士の顎から血が噴き出て、アルティーノとオフィーリアに掛かった。
「きゃっ」
オフィーリアが短く悲鳴を上げるが、アルティーノには聞こえていない。
アルティーノは拳銃を送還しながら騎士に向けて踏み込む。
「きさ――!」
何かを言いながら剣を引き抜こうとした騎士の胸に向けて、アルティーノは掌打を放つ。
だが、素人の放つ掌打など、騎士にダメージが通る筈が無かった。
しかし。
ヒュン、という小さな音だけを残して、騎士の姿が掻き消えた。
(あと二人)
アルティーノは怒り心頭の頭で、残りの敵の数を数えた。
拳銃を再召喚し、他の敵に向けて発砲しようと――。
「やめんか、アルティーノ!」「アル、やめて!」
ルイとオフィーリアからほぼ同時に、アルティーノを制止する声が響いた。
アルティーノは我に返り、引き金からゆっくりと指を離す。
「コイツらは、リアを――」
「分かっておる。しかし一先ず落ち着け。まずは言い分を聞いてからじゃ」
「…………」
尚もアルティーノは引き金を引こうか迷ったが、やがてルイの言葉を受け入れ、拳銃を送還した。
残った二人の騎士達から、安堵の息が聞こえた。
アルティーノはキッとそちらを睨み、ルイに続きを促した。
「さて、ともかくオフィーリア嬢の父親を治さねばな。――おーい、そこのメイドよ!彼を第二訓練場に連れて行ってはくれんかの?」
「は、はい!」
丁度通りかかったメイドにクルレディアの身を任せ、一先ずアルティーノ達はルイの執務室に入った。
茶を出している状況では無かったので、取り敢えずソファーにそれぞれ座る。
ルイ・アルティーノ・オフィーリアの並びの対面に、二人の騎士達が並ぶ形だ。
「さて。まずはオフィーリア嬢に話を聞こうかの。お主らはその後じゃ」
ルイは好々爺の表情を浮かべて、オフィーリアに優しく問うた。
「何があったか、教えてくれるかの?」
「ええと――」
曰く。
ギーアロスの案内でクルレディアと共に執務室前までやって来た二人は、中で話が終わるのを待っていたそうだ。
そこに、三人の騎士達が通りかかる。
騎士達はオフィーリアを休憩室へと誘った。当然、オフィーリアはそれを断った。
すると、騎士達は強硬手段に出ようとした。オフィーリアの腕を引っ掴み、引っ張って行こうとしたのだ。
それを見たクルレディアは、間に入って止めようとしたが、騎士の一人によって突き飛ばされ、壁に叩き付けられた。
丁度そこにアルティーノ達がやって来た、という訳だ。
「ふむ……。そこの二人、今の話に何か異論はあるかの?」
「「…………」」
ルイに問い掛けられた騎士達は、口をつぐんだままだ。
そんな騎士達に、ルイは続けて問い掛ける。
「そのまま黙れば肯定と見做し、お主らの上司にこの事を伝えねばならぬが、よいかの?」
「「…………ッ!」」
その言葉を受けた騎士達は、鋭く息を呑み込んだ。
そして、少しずつ話し出した。
「訓練が終わって昼食に向かっていたところ、その娘を見たルザンが……」
「『あんな上物見逃せねえ』とか言って……」
「俺達も訓練で疲れとかストレスが溜まってたので、その、一緒になってしまい……」
それだけ言うと、騎士達は再び押し黙った。
オフィーリアが僅かに体を震わせたので、アルティーノはその肩を抱いた。
「はぁ……少女に手を出そうとするとは、騎士の風上にもおけぬ奴らよ……」
「……返す言葉も、ございません……」
騎士達二人はそれなりに反省している様子だ。
しかし、アルティーノはまだ許せない。
「これを報告すればどうなるじゃろうな。騎士爵は剥奪され、職を失い、配偶者には愛想を尽かされるじゃろうな」
「「そ、それだけは……!」」
「ふむ。ここは、被害者であるオフィーリア嬢に決めてもらおうかの」
ルイは騎士達を脅すだけ脅して、残りをオフィーリアに押し付けた。
責任は負うが、決定はしない様だ。
騎士達は縋るような瞳でオフィーリアを見詰めた。
「……えっと、その……」
オフィーリアの言葉に、部屋中の者が耳を傾けた。
「私はまだ何もされていないので、注意ぐらいで済ませてあげられたら……」
「リア……」
「大丈夫よ、アル」
優し過ぎないかとオフィーリアの手を握ったアルティーノに、オフィーリアは手を握り返した。
(……まあ、リアが言うならいいか)
諦めたアルティーノは、オフィーリアの手から手を離した。
それを見届けた後、ルイが話をまとめた。
「では、被害者たるオフィーリア嬢がこう言っている事だし、ここでの厳重注意で事を収めようと思う。以後同様の事があれば、諸君らの職は無くなり、牢に入る事になると思え。よいな?」
「「は、はい!」」
「よし。では行ってよい」
「「し、失礼しました!」」
騎士達は安堵の表情を浮かべながら、慌てて部屋を出て行った。気が変わる前に逃げろ、とでも言うかの様に。
その様子にアルティーノはまた苛立ちが募ったが、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「して、アルティーノ……お主、もう一人は一体どうしたんじゃ?」
「え?どうって……」
「顔面に三発浴びせたところまでは、わしも分かった。じゃが、問題はその後じゃ。掌打の後、奴が消えたのはどういう事じゃ?」
「…………」
ルイにそう言われ、アルティーノは記憶を遡った。
怒りのあまり自分が何をやったのかはあまり覚えていないが、よくよく考えてみると、確かに騎士を消滅させた様な……。
「多分ですけど……拳銃と同じ様に、異世界に送ってしまったかと……」
「何……?人まで送れるのか、そなたの異能は」
「いえ、普段だったら出来ない筈なんですが……」
今のアルティーノでは、小動物すら召喚する事が出来ない。
なのに、どうして人を送還できるだろうか。
「という事は、召喚する事も……?」
「出来ない、と思います」
「そうか……」
実質的に殺した様なものである。
騎士はこちらの世界に帰ってくる手段が無いし、送還の時点で顔面にかなりの傷を負っていたので、時間が経てば失血死するだろうから。
(ほぼ無我夢中だったけど……そっか、僕が殺した……)
時間が経って冷静になってみると、今度は罪悪感が襲ってきた。
初めて人を殺したのだ。自分の怒りの感情で。
アルティーノは顔を俯かせた。
「自責の念に駆られるな。あやつの場合は自業自得じゃ。誰もお主を責めはせん」
「…………」
アルティーノの心の内を読み取ったかの様な発言。
続けて、オフィーリアも横からアルティーノの手を取った。
「アル、守ってくれてありがとうね」
「……でも」
「誰かを守る為の行動であった事を忘れるな。ただ人を殺しただけでは無い。お主はオフィーリア嬢を守ったのだ」
「……そうですね」
殺した事に罪悪感はある。
しかし、同時にオフィーリアを守ったのだ。
「ありがとう、リア」
アルティーノはオフィーリアに礼を言った。
本来は逆なのだが、何故だか礼を言わなきゃならない気がしたのだ。
顔を上げたアルティーノの表情は、もう暗いものでは無かった。
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