21.日本人じゃありません
「単刀直入に言おう。……君、転生者と転移者、どちらかね?」
「……はい?」
突然切り出された問い掛けに、アルティーノは困惑した。
アルティーノは転生していないし、異世界からの転移者とかでも無い……筈だ。自分の知らない間に記憶が消えたりしていたら、違うかもしれないが。
そんなアルティーノの反応を見て、ルイははて、と首を傾げた。
「もっとこう、コップひっくり返すぐらいの反応が来ると思ったんじゃが……」
「そういう貴方は転生者か転移者なんですか?」
アルティーノが逆に問い返すと、ルイは重々しく頷いた。
「そうじゃ。わしは転生者じゃよ。……お主の銃、こちらの世界では見た事が無いから、お主も日本人かと思ったんじゃがな……黒髪じゃし」
「黒髪なのはただの両親からの遺伝ですよ……。僕は転生者ではありませんが、日本に関する知識は持ってますよ」
こちらの世界に来てから始めて聞いた固有名詞である。
それが目の前の老人から出て来たという事はつまり、この老人は異世界人であるという事。
アルティーノの言葉に、ルイは目に見えて喜んだ。
「ほう、本当か!?どこで聞いたんじゃ、あれか、わしの同類が他にも居るのか?」
「いえ、そういう訳では……」
「では何故?」
「えーと――」
アルティーノは仕方無しに、自身の異能について話した。
「なるほどのう……」
ルイは立派に伸ばした顎髭を弄りながら呟く。
「まあ、日本人が居なかったのは残念じゃな……」
「ルイさん以外に居たんですか?今まで」
「居たな、一人だけ。じゃが……もう死んでしもうたわ」
「そうですか……」
ルイは悲し気に言った。
アルティーノはなんだか気まずくなりつつ、水を啜る。
「まあよい。過ぎた話じゃ。……さて、色々訊きたい事はあるが、取り敢えずは今すべき話をしようかの」
「はい」
「まずはお主の今後についてじゃ。宮廷魔術師団に入るという事じゃったが、当然今の年齢では入れん」
「確か……成人が15歳ですよね?という事は……」
「そうじゃ。15歳になるまでは、最高でも見習い扱いとなる。どれだけ実力があろうともな」
この大陸では、一般的に15歳が成人年齢となっている。一部例外の国家もあるが、帝国や王国などの主要国家ではそうだ。
帝国では子供が軍人となる事は出来ない。戦時中の非常事態であればどうなるかは分からないが、平時の今は不可能。
なので、アルティーノは今すぐに宮廷魔術師団に入る事は叶わないのだ。
「そういう訳なので、それまでの間はわしが魔術を教えてやろう。いわゆる師弟関係というヤツじゃな」
「なるほど……」
「うむ。以後わしの事は師匠と呼ぶように」
「はい、師匠!」
「よろしい」
(こういうの、ちょっと憧れておったんじゃよな……。ま、わしに師匠はおらんかったが)
微笑みながら、心の中でそう呟くルイ。
「さて、お主、魔術適性は何じゃ?水か土であれば、わしが直接教えてやれるが……」
「あの……まだ分からないんです。ですが、植物か空間のどちらかだと思います」
「そうか……。では恐らく空間じゃろうな。異能的にも」
「え……なんで分かるんですか?」
「お主の異能が空間系じゃからな。異能持ちの魔術適性は、異能に近しいものであるパターンが多い」
「へぇ……」
初耳である。
しかし、メローナの雷は異能に関係無さそうだが……。
それはさておき。
「残念じゃが、空間魔術師は宮廷魔術師団にもおらん」
「え……そうですか……」
アルティーノが絶望しかけたところ、ルイが続きを言った。
「じゃが、ここ帝都にある帝立魔術学校には、一人だけおる」
「本当ですか!」
「ああ。そしてじゃ、魔術学校は7年制。お主は今7歳じゃったな。つまり、今から一年間修行をしてから入れば、丁度卒業と同時に宮廷魔術師団に入団する事が出来る」
「おぉ……!」
アルティーノは感激した。
農民として生まれて農民として死ぬ筈だった自分が、学校に通う事が出来ると言われたのだから。
「その間の援助はわしが受け持とう。同郷とは呼べんが、まあ同郷に近しい者への手助けじゃ」
「ありがとうございます……!」
アルティーノは心から感謝した。
更にルイは続ける。
「一年間の修行期間は、わしが直接見てやろう。空間魔術師では無いが、基礎ぐらいは教えられる筈じゃ」
「おお、ありがとうございます、師匠!」
「うむ」
師匠、と呼ばれて満更でもなさそうな表情をするルイ。師匠呼びが嬉しいらしい。
ルイはお茶を一口飲み、話を続けた。
「さて、ここからはお主が決める事なのじゃが……。わしの養子になる気は無いかね?」
「……はい?」
「わしは妻がおらんからな。当然子供もおらん。じゃから、わしの爵位を継ぐ者がおらんのじゃ」
「え……貴族の方だったんですか?」
「そうじゃよ。子爵じゃ」
宮廷魔術師長であるルイは、就任の際に同時に爵位も賜ったのだ。
更に言うならば、就任期間の間は伯爵と同等の扱いを受ける事が出来る。宮廷魔術師長というだけで、立場はかなり上がるのだ。
「わしの養子になれば、わしの死後お主は子爵位を継げ、わしの持っている屋敷や領地を相続出来る。ま、領地と言っても小さい物じゃがな」
「なるほど……」
「それに、わしの屋敷に住まわせてやる事も出来る。そうすれば、魔術を教える時間も増えよう」
「なるほど……!」
実に魅力的だ。
アルティーノは爵位にそこまで執着は無いが、住む家があり、魔術を学ぶ時間が増えるのは良い事だ。
そこで、アルティーノは一つ訊いてみた。
「あの……その場合、オフィーリア達も一緒に住む事は出来ますか?」
「オフィーリアというと……ああ、お主と一緒におった女の子じゃな。まあ、父親を執事見習いとして雇えば行けるじゃろう」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「父親の方がそれを受け入れるかどうか次第じゃがな。……さて、わしの話はこんなもんじゃ。何か訊きたい事は?」
ルイはそう言って茶を飲み始めた。
アルティーノは少し考えたが……特に訊いておきたい事項は思い付かない。
今後の事だけだ。
「この後はどうするんですか?」
「わしは今日は半休を貰っておるからな。お主と共に屋敷に向かう」
「随分と用意周到ですね……」
「まあの」
ルイはアルティーノが銃を使っているのを見て興味を深めた訳だが、そもそも宮廷魔術師団に引き入れるつもりだったのだ。
空間魔術の適性があるとなれば、その使い道は無限大。
研究すれば、異世界に繋げる事も出来るかもしれない……という事だ。
実際のところは、アルティーノの異能単体で繋げる事が出来そうなのだが……それはまた別の話だ。
「まあ、ともかく茶を飲み終わったら、屋敷に移動するとしようかの」
「あ、はい、分かりました」
その後しばらく、茶を啜る音が響き渡った。
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