20.アルティーノの所属先
「いやあ、良い試合だったな」
「相性の問題だったなぁ……闇じゃなきゃ、勝ててたんじゃないか?」
「サーズンも情けねえな。碌に訓練受けてない子供と良い勝負たぁ」
「おいおい、お前だったら楽勝だったって言いてえのか?」
「ホントだよ。お前の水が出来上がる前に腹に穴開けられるぞ」
「なんだと!?」
観客席の宮廷魔術師達はそんな会話をしている。
アルティーノは自分が褒められている事を感じ取り、少し嬉しくなった。
それに対し、サーズンは自分の評価が下がっている事に、少し悲しくなっていた。
そんなざわついた第二訓練場は、一瞬で静寂に包まれた。
立派な顎髭を蓄えた、高級そうなローブを身に纏う老人が、年齢に見合わぬ身軽さで観客席から飛び降りたからだ。
「さて。アルティーノ君……だったかな?彼の所属先を決めようではないか」
その言葉を皮切りに、一気に真剣な空気が漂った。
老人は、アルティーノとその傍らに立つギーアロスの方に近付いて来る。
「異能部隊の代表は、ギーアロス・クローズ副隊長で良いかな?」
「ええ、問題ありませんよ、ルイ・トマス宮廷魔術師長」
二人は、わざわざそれぞれをフルネームと役職名で呼んだ。
恐らく、アルティーノに伝える意味だろう。
(ギーアロスさん、本当に貴族だったんだ……)
アルティーノは、少し失礼な事を考えていたが。
ともかく。
ルイは、ギーアロスに向かって言った。
「彼はうちで貰いたいと思うのだが、どうかね?」
「ほう……?こちらも彼を引き入れるつもりでしたがね。そもそも、彼をここに連れて来たのは私です。功績に対する報酬という事で、貰っても良いのでは?」
「いやはや。彼を受け入れるのは、模擬戦後平等に決めようという話ではありませんでしたかな?」
「ふむ……」
どうやら、アルティーノの所属先に関して揉めているらしい。
ルイとは初対面の筈だが、何故かルイはアルティーノを強く求めている様だ。
ルイはチラリとアルティーノを見た後、ギーアロスに向けて提案した。
「では、こういうのはどうだろう?今からそれぞれが彼と話し、その後彼に決めてもらうというのは」
「いいですな。では私から先に話をしても?」
「いいだろう」
ルイの承諾が得られると、ギーアロスはアルティーノの方に近寄って来た。
「ま、面倒な事や遠回りな事は言わん。なんだかんだ異能部隊の方が楽だぞ。宮廷魔術師団は、魔術の実力を重んじる傾向にある。それに、中には異能を良く思っていない奴も居るかもしれん。お前の為を思って言ってる事だからな」
ギーアロスは反論の余地を与えず、言いたい事をバッと伝えると、すぐに帰って行った。
ギーアロスのターンが終了したとみて、今度はルイがアルティーノの元にやって来た。
「こんな状況でなんじゃが、初めまして。わしはルイ・トマス。……いや、トマス・ルイと言った方が正しいかのう」
「…………」
「何、詳しい話はまた後でじゃ。今ここでするべき話をしよう。……君が宮廷魔術師団に来る事を選べば、わしが直々に魔術を教えてやろう。それに、君の知りたい事も色々教えられると思う」
「あの、えと……?」
「では」
ルイは去り際に、アルティーノの手の中に何かを押し付けていった。
困惑するアルティーノを置いて、ルイは元の場所に戻って行く。
アルティーノが首を傾げながら手を開くと、銃のサプレッサーの様な物が入っていた。
(サプレッサー……?)
更に首を傾げた。
アルティーノが使っている拳銃に合う規格だとは思えない。何を意図してこれを渡し――。
そこまで思考して、ある事に気付く。
(この世界に銃は無い筈……!なんであの人はサプレッサーを知ってるんだ……?)
現に、宮廷魔術師達は銃を見て、最初は不審そうにしていた。
ならば何故、ルイはサプレッサーという概念を知っているのか。
アルティーノがサプレッサーを見詰めていると、不意にフッと霧散した。
反射的に顔を上げてルイの方を見ると、してやったりと言った表情をしている。
(これで、こっちに興味を持ってくれるじゃろう……)
ルイは心の中で呟いた。
ルイはその後、咳払いをして話を進める。
「では、アルティーノ君。君は異能部隊と宮廷魔術師団、どちらに入りたい?」
「僕は……」
ギーアロスの言う通り、宮廷魔術師団では異能持ちは疎まれるかもしれない。それに、同じ悩みを抱える者同士で集まった方が、なんだかんだ言って気も楽だと思う。
だがしかし……アルティーノの頭の中では、先程ルイに渡されたサプレッサーが渦巻いていた。
そんなアルティーノの選択は――。
「僕は、宮廷魔術師団に入りたいです」
ギーアロスは舌打ちをかまし、ルイは満足げな表情をしている。
「よくぞ言った。では、彼はうちが貰うという事で、よいかな?」
「……ええ」
ギーアロスは、苦虫を嚙み潰したような顔で頷いた。
「それでは話も付いたという事で、他の者は訓練に戻ってくれ。……アルティーノ君、諸々の話をしたいのだが、わしの部屋で茶でも飲まないかね?」
ルイは前半は訓練場に集まった者達に、後半はアルティーノに向けて小声で、言った。
「分かりました」
アルティーノが頷くと、ルイは頷き返し、付いて来るように合図した。
アルティーノはそれを見て立ち上がる。
ちょっとよろめいたが、問題無く歩く事が出来た。治癒魔術では、失った血までは戻らないのだ。
ルイに付いて第二訓練場を出て、城内を少し歩く。
大して離れていない位置に、『宮廷魔術師長執務室』はあった。
「さあ、入ってくれ。茶はわしが淹れよう」
「あ、お茶は苦くて飲めないので、お水で大丈夫です」
「そうかの……?味覚は子供か……」
後半は小声だったので、アルティーノに聞こえる事は無かった。
ルイは自分の分の茶を淹れテーブルの上に置くと、ソファーに座りながら魔術で水の入ったコップを生成した。
「おぉ……」
アルティーノは僅かに感嘆の息を漏らした。
ルイはそれを見て、少しドヤ顔をしている。
ルイは茶を一口啜ると、さて、と話を切り出した。
「単刀直入に言おう。……君、転生者と転移者、どちらかね?」
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