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15.選択

 アルティーノとメローナが朝食を食べ終え、雑談をしていた昼頃、ギーアロスが保護会の拠点に帰ってきた。


「おかえり~」


「おかえりなさい」


「おう。アルティーノ、昼飯くれるか?腹減ってんだ」


「分かりました」


 ギーアロスが腹を鳴らしながらそう言ってきたので、アルティーノは昼食を召喚する。

 丁度アルティーノとメローナもお腹が空いていたので、三人分の昼食だ。


「それで、ギーアロスは何しに行ってたの?」


「あ?コイツに関する報告書を、偵察兵に預けてきた」


 コイツ、とはアルティーノの事である。

 基本的にギーアロスは、新たな異能持ちを見つけた場合、帝国に報告する必要があるのだ。ただし、直接出向くのも面倒なので、大抵の場合はロルドの町に潜む偵察兵に情報を預けている。偵察兵は、帝国と王国を頻繁に行き来するので、情報を持たせるのに向いているのだ。


「でだ。結局、お前は帝国に来るのか?」


「その事なんですけど……帝国に、他の人を連れて行く事って出来ますか?」


「あー……今は戦時中って訳じゃねえから、数人なら行けると思うが?」


「そうですか……」


 アルティーノが連れて行こうと思っているのは、クルレディアとメローナの二人だけなので、それならば問題無さそうだ。


「一度村に戻ってからでもいいですか?そう時間は掛からないと思うので」


「その、連れて行きてえ奴って言うのと話をするって事か?」


「そうです」


「そんなら、俺も一緒に行ってやろう。そしたら、一日も掛からずに往復できる筈だ」


「本当ですか?ありがとうございます」


 一先ず、話はまとまりそうである。


「ねえねえアル君、その婚約者ちゃんと話してみたいからさ、帝国に行く前に、数日ここに泊まっていきなよ」


「え……ギーアロスさん、大丈夫ですか?」


「婚約者……?まあ面倒だが、いいか……。何人連れてくるんだ?」


「二人です」


「そんじゃあ、お前さんとソイツらの移民手続き的なのをこっちでやっとく為に、数日掛けるとしよう」


「分かりました、ありがとうございます」


 これにより、数日後、アルティーノとオフィーリア、クルレディアが帝国に移住する事がほぼ確定したのであった。







「じゃ、いってらっしゃ~い」


「行ってきます」


 昼食後、アルティーノとギーアロスは、アルティーノの村に向けて出発した。


「あ、そういえば、フルスさんに話しておかなきゃいけない事があるので、フルスさんの所に寄らなきゃ……」


「そんじゃ、先にそっちに行ってからにするとしよう。……一応、お前にもここの鍵を預けとくか」


 ギーアロスはそう言って、アルティーノに向かって鍵を放り投げた。

 アルティーノはそれを受け取り、身分証と共に巾着に入れておく。


「数日後に帝国に行く時に返却してもらうが、まあ持っといて損はねえだろう……行くぞ」


「分かりました」


 来た時にも通った様な道を通り、裏路地から出る二人。

 流石に裏路地と街路では空気が違い、街路の空気は澄んでいる。


 ギーアロスは無駄話は好まなそうなタイプなので、アルティーノは黙って後ろを付いて歩く事にした。



 数分後、とある料理店の前でギーアロスは止まった。


「ここがフルスの店だ。……行くぞ」


「はい」


 普通に正面の入り口から入る――と思いきや、ギーアロスは店の横に回り、従業員用の勝手口から入った。

 アルティーノはええ……と思ったものの、ギーアロスは勝手知ったる雰囲気だったので、少し躊躇しつつも中に入った。


「おや、ギーが来るなんて何が――ああ、アル君が一緒って訳かい」


「そういうこった。なんか話しておかなきゃならねえ事があるんだと」


 入ってきたギーアロスにすぐに気付いたフロスは、こちらに近付いてきた。


「話しておかなきゃならない事……という事はつまり、ここを発つのかい?」


「ええ、まあ……。一度村に戻った後、数日したら帝国に行く事になりまして。今日中に帰れるとは思うんですけど、一応伝えておいた方が良いかなと」


「分かった。そういう事なら、今晩の料理は私が持って行こう。その数日後に発つ時にも、もう一度来てくれるかい?」


「分かりました」


 これで必要な事は話し終えた。


「ああそうだ、ご飯を食べていくかい?」


「いや。昼飯は食ってきた」


「そうかい……じゃあまたね」


「ああ」


 フルスの誘いを断ったギーアロスは、さっさと行くぞとばかりにアルティーノに手招きした。

 アルティーノはフルスに一度頭を下げてから、ギーアロスの後を追った。







「そんじゃ、行くぞ」


 門から出てしばらく歩いた後、ギーアロスはそう言った。

 ギーアロスはアルティーノの頭の上に手を乗せ、「よし」と呟いた。


「俺ぁお前の村の場所は知らんから、お前が先頭を走れ。好きなだけ速度を出して構わん」


「分かりました」


 ギーアロスにそう言われたアルティーノは、村の方角に向けて走り始めた。

 やはりと言うべきか、ロルドの町に向かった時と同様、凄まじい速度で走る事が出来た。

 詳しい原理は分からないが、これがギーアロスの異能なのだろう。


 木々をすり抜け動物を驚かし、アルティーノとギーアロスは風となって駆けた。







 数時間後。

 二人は、アルティーノの住んでいた村にやって来た。

 ロルドの町程では無いが、アルティーノの村にも外敵を防ぐ柵が用意されている。

 とはいえ、少し工夫を施しただけの木柵なので、知性ある者は無視して通る事が出来る。


「門衛とのやり取りなんて面倒だからな、どうせ村なら忍び込んだって良いだろう」


「ええ……」


 ギーアロスの一言により、門衛を無視して木柵を乗り越え村内に侵入する事になった。


 ギーアロスの異能によってか、二人は超人的な跳躍力で木柵を乗り越えた。


「さて。俺はここで待機しとくから、後はお前一人で行って話をつけて来い」


「分かりました」


 ギーアロスはそう言って瞑目を始めたので、アルティーノは村民に見つからない様にしつつ、オフィーリアの家まで移動した。


 窓から中を覗いてみると、オフィーリアの姿が見えた。

 たまたま今日は農作業をしない日の様だ。


「リアー」


 あまり大声になり過ぎない様に、かつオフィーリアに聞こえる声量で。

 アルティーノはオフィーリアを呼んだ。


「え!?アル!?」


 ここに居る筈の無いアルティーノの姿が見えた事で、オフィーリアは心底驚いた様子だ。


「門衛をすり抜けて来たから、ちょっと他の人に見られる訳にはいかなくて……。こっちまで来れる?」


「わ、分かったわ。ちょっと待ってて」


 オフィーリアはそう言うと、玄関の方に向かって行った。



 数十秒後、オフィーリアの家の裏に二人は集まった。


「それで……なんでアルがここに居るの?」


「えっと……話せばそこそこ長くなるんだけど――」


 アルティーノは、村を出てからの一連の流れをオフィーリアに説明した。

 村を出てからまだ二日か三日程しか経っていない筈だが、話の内容はかなり濃いと思う。


「なるほど……」


 話を聞き終えたオフィーリアは、一つ頷いた。


「私はいいと思うけど、父さん次第ね……中で寝てると思うから、もう一回同じ話をしてあげれる?」


「うん、分かった」



 再び中に戻って行ったオフィーリアは、クルレディアを叩き起こして、家の裏に連れて来た。


「んで、なんだ……?」


 叩き起こされたクルレディアは、眠そうに欠伸をしながらアルティーノの話を聞いた。


 話を聞き終えるまで黙っていたが、アルティーノが話を終えると質問責めが始まった。


「いや、ちょっと待て!なんで急にそんな壮大な話になるんだ!帝国に移住して軍人になる?」


「い、いや、軍人とは限りませんけど……」


「流石にそんなすぐ決められる話じゃないぞ……。ったく、そのギーアロスって奴はどこに居るんだ?」


「え、村の外周の辺りに居ますけど……」


「一旦ソイツの話を聞いてからじゃないと考えられん。連れて行ってくれ」


「ええ……」


 ギーアロスなら絶対に、「面倒だな」と舌打ちをしそうだと思ったアルティーノは、気が進まないながらも二人をギーアロスの元に連れていく事にした。


 木柵の付近を歩き、ギーアロスの元に。


「話はついたか?」


「それなんですけど――」


「おいあんた、帝国がどうとか、一体どういう事だ?もっと分かりやすく説明してくれ!」


「チッ、面倒だ……なんだコイツは?」


「え、えっと、僕が一緒に帝国に行きたい人、と言いますか……」


 アルティーノの予想通り、ギーアロスは盛大な舌打ちをかました。


 はぁ……と溜め息を吐いたギーアロスは、簡潔に説明をする事にした。


「帝国は、異能を高く買っている。コイツの異能次第では、相当な地位を得て帝国に入る事が出来る。そこで、コイツの要望でお前さんら二人を一緒に連れて行きたい……そういう話だ」


「相当な地位ってなんだ?」


「戦闘系の異能であれば、将来的には宮廷魔術師、もしくは俺の部隊の隊員。そうでなければ、国仕えの役人ってとこだな」


「宮廷魔術師……国仕え……」


 田舎村の一農民でしかないクルレディアにとって、そんな壮大な単語は想像も付かなかった。


「いや、まあ、しかし、うーん……坊主はそれで幸せになれるのか?」


「それはアルティーノ次第だ。ただまあ、こんな国で迫害されるよりかは、よっぽど幸せだと、俺は思うがな」


「そうか……帝国は、異能を迫害しないんだってな?」


「ああ。俺が軍人になれてるのがその証拠だ」


「なるほど……少し、考えさせてくれないか」


 ギーアロスならば許さないとアルティーノは思ったのだが、意外にもギーアロスはそれを受け入れた。


「いいだろう。ただし十分以内で頼む。こっちも暇な訳じゃねえんだ」


「分かった」


 クルレディアは頷くと、オフィーリアを連れて少し離れた。


 ギーアロスは、やれやれと溜め息を吐いてアルティーノを一瞥した後、木柵に寄り掛かって瞑目し始めた。

 アルティーノはなんだか居心地が悪くなって、少し咳払いをした。



 きっかり十分後。


「……分かった。俺達は帝国に行こう」


 悩みに悩み切った様子のクルレディアは、ギーアロスに向かってそう言った。


「賢い判断だ。……準備もあるだろうから、終わったらもう一度ここに来い」


「分かった」


 クルレディアは頷くと、オフィーリアを連れて家へと戻って行った。

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