10.ロルドの町
「ん……」
目が覚めたアルティーノは、テントの中を見回す。
ギーアロスが寝た様子は無い。外で寝たのか、本当に一晩中起きていたのか……。
体を起こして外に出ると、椅子に座って腕を組みながら目を閉じているギーアロスが居た。
「おう、起きたか」
「あ……起こしてしまいましたか?」
「いや、問題無い」
どうやら寝ていた様だが、アルティーノの接近に気付いて目覚めた様だ。素晴らしい反応力。
「飯も出せるんだったな?なんか出してくれ」
「はい」
言われた通り、机の上に食事を用意した。
昨日アルティーノが食べた物と同じ、肉のスープを召喚した。今度は栄養も考えて、野菜も少しだけ入っている。
「アツアツだな。ありがたく貰っとくぜ」
「いえ」
ギーアロスが食べ始めたので、アルティーノも食器を手に持って食べ始める。
「そういや、お前さん名前なんつったか?訊いてなかったよな?」
「アルティーノです」
大分今更だな……と思いつつ、アルティーノは答えた。
「そうか、アルティーノか。まあいい。食い終わったら、テントとこいつら仕舞っとけ。さっさとロルドに行くぞ」
「分かりました」
色々と訊きたい事はあるが、ギーアロスは答えてくれなさそうなので、アルティーノは素直に言う事に従う事にした。
ギーアロスは早々に肉スープを食べ切った様で、腕を組んで木にもたれかかり、瞑目し始めた。
あまり待たせるのも忍びないので、アルティーノは食器を傾けて肉スープを飲み込んだ。もう少し味わいたかったが、仕方が無い。
食器を送還した後、自分が座っていた椅子、食器を置いていた机、そしてテントを順々に送還していく。
「お待たせしました」
「おう。じゃあ行くか」
アルティーノが声を掛けると、ギーアロスは瞑目を中断し、大きく伸びをした。
その後、ギーアロスはアルティーノの頭の上に手を乗せる。
「……?」
「……よし、これで良い。いいか?俺に付いて走ってこい。質問は全部後でだ。いいな?」
「は、はぁ……」
「よーし、ほんじゃ出発だ!」
ギーアロスはそう言うと、アルティーノに背を向けて走り始めた。凄まじい速度で消えていく。
「え、えぇ……?」
取り敢えず、付いて来いと言われたので、アルティーノは走り始める。
すると――。
「わ、わぁあああああああ!?」
ギーアロスだけでなく、アルティーノも凄まじい速度で走る事が出来た。
辺りの木々がどんどん後ろに流れていく。
たちまちアルティーノはギーアロスの横に追いついた。
(色々訊きたいけど……質問は後でって言われちゃったしなぁ……)
それに、この速度で走っている最中に下手に喋ると、舌を噛みそうだ。
諦めたアルティーノは、黙ってギーアロスに付いて走る事にした。
数十分後。
突然、走っていたアルティーノとギーアロスの速度が遅くなった。いや、遅くなったと言うより、元通りになった、と言うべきか。
「わっ!?」
「丁度だな。ほれ、見てみろ、あれがロルドだ」
そう言われ、アルティーノはギーアロスの指差す方向を見てみる。
城壁に囲まれた町があった。アルティーノの住んでいた村よりも、明らかに規模が大きい。それに、城壁の外周に、農民が住んでいる様だ。畑もいくつか見える。
「おっきぃ……」
「おい、さっさと行くぞ。身分証明の発行云々でだりぃんだ。ここで時間を使いたくねぇ」
「あ、はい……」
初めて見た村以外の集落に感動していたアルティーノだったが、ギーアロスによって感動の時間は中断されてしまった。
時は金なり、なのだ……。
「ほれ、あれが門だ。行くぞ」
「はい」
ギーアロスによって半ば強制的に、アルティーノは門の方へと引っ張られていった。
門の傍には、衛兵が二人立っていた。門衛だろう。村の門衛と違い、しっかりした槍と鎧で装備を固めている。
「昨日振りだな。迷子の子供か?」
「あー、まあそんなとこだ。コイツの身分証を発行してやれるか?」
「分かった。二千アロードだ」
(二千アロード……ああ、銀貨二枚の事か)
昨日のギーアロスとの会話を思い出したアルティーノは、巾着を取り出して、中に入っている銀貨二枚を衛兵に手渡す。
「よし、じゃあ衛兵詰め所でやるから、こっちに来てくれ。お前も来るか?」
後半は、ギーアロスに向けた言葉だ。
「詰め所の前で待っとくぜ」
「ああ、分かった」
一応ギーアロスも身分証を見せた様だ。まあ、衛兵と顔見知りみたいなので、手続き的な物だろう。
衛兵詰め所は町に入ってすぐの所にあった。
ギーアロスと詰め所の入り口で別れたアルティーノは、衛兵に付いて中に入っていく。
「よし、この部屋だ」
衛兵はそう言って部屋の扉をノックした。
「どうぞ」と中から声が返ってきたので、衛兵を先頭に部屋の中の入る。
「この子の身分証の発行をしてやってくれ。金はもう預かってある」
「分かった」
衛兵は必要な事だけ言うと、部屋を出て職務に戻っていった。
残されたアルティーノは、指示に従い椅子に座る。
「私はソルト。この町で文官――まあ、役人の仕事をしている」
「アルティーノです」
「アルティーノ君か。文字は書けるか?」
「いえ、書けません」
「では、私が代筆しよう。出身や年齢など、諸々訊いていくから答えてくれ」
「分かりました」
それから、役人ソルトの質問に、アルティーノが答えていった。
名前や出身、年齢など分かる範囲の物だ。
「七歳で村から出るとは……まあ、事情は訊くまい」
役人ソルトはそう呟くと、机の中から何やら機械を取り出し、それまでの質問事項を記した紙を機械の中に突っ込んだ。
「あの、それは?」
「これか?これは錬金道具だ。詳しい仕組みは知らんが、大昔の天才錬金術師が作った物だ」
「へぇ……」
(錬金術なんて物もあるんだ……凄いなぁ)
そんな問答をしている間にも、役人ソルトは錬金道具を操っていく。
数十秒後、錬金道具が強く光り、光が消えると何やらカードの様な物が置いてあった。
「よし、これが君の身分証だ。この辺りの国では基本的にどこでも使える筈だが、大陸外の国では使えないので、留意してくれ。それと、無くしたら今回みたいに二千アロードで再発行だから、なるべく無くさないように。二千アロードなんて大して高くないが、まあ払わないに越した事は無いからね」
「はい、分かりました。ありがとうございました」
どうやら、二千アロードは大した金額では無いらしい。
新たな情報を頭に刻みつつ、アルティーノは役人ソルトに頭を下げて礼を言い、部屋を出た。
そのままさっきの門衛と一緒に歩んだ道を通り、衛兵詰め所を出る。
「おう、終わったか」
いつも通り壁に身を預けて瞑目していたギーアロスは、アルティーノが出て来た事にすぐ気付いた。
「不思議なんですけど、なんで目を閉じてるのに僕が来たのが分かるんですか?」
「ああ?気配ってヤツだ。その内お前にも分かる様になる」
「へぇ……」
不思議な事は多い。
アルティーノは深くは考えない様にした。
「そんじゃ、保護会のアジトに行くぞ。途中で複雑な道も通るから、ちゃんと後ろを付いて来いよ」
「はい」
ギーアロスはそう言うと、アルティーノに背を向けて歩き出す。
流石にさっきまでの様な、有り得ない速度は町中では出さないらしい。
それに安堵しつつ、アルティーノは発行したばかりの身分証を巾着の中に仕舞い込み、ギーアロスの後を追った。
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