プロローグ
とある国の、とある田舎の村。
その村に住む黒髪の少年は、人懐っこくお人好しで、村民から可愛がられていた。
少年の名はアルティーノ。
アルティーノは、今日も村を練り歩く。
「おう、おはようアル!」
「おはようおじさん!――あ、手伝うよ!」
井戸水を掬い上げている男性に声を掛けられたアルティーノは、すぐさま駆け寄って作業を手伝う。
それは、この村に住んでいる者ならば普段から見る光景だ。
「今日もありがとな、アル!」
「うん、お仕事頑張ってね!」
男性に頭を撫でられたアルティーノは、目を細めながら激励の言葉を掛ける。
男性はそれだけで頬が緩み、その日一日を頑張っていける気がした。
アルティーノは同じ様にして村中を歩き回り、困っている人や作業をしている人が居たら駆け寄って手伝う。
毎日そんな事をしているので、村の人達にはよく可愛がられていたのだ。
「おばあちゃん、荷物持つよ!」
「おや、助かるねえ」
「おっちゃん、今日こそ狩りを手伝わせてよ!」
「いやぁ、アルにはまだ早えからな。もう少しでっかくなったらな」
重い荷物を持つ老婆に、これから狩りに出かける狩人に。
次々とアルティーノは話し掛けていく。
そして、その途中でアルティーノより少し年上の女の子がそこに加わる。
アルティーノの幼馴染であり姉の様な存在の、オフィーリアだ。
オフィーリアはアイスシルバーの髪を揺らしながら、アルティーノの傍に立った。
「アル、今日も色んな人の手伝いをしてたの?」
「うん!僕頑張ったよ!」
「偉いわね」
オフィーリアは姉ぶりたい年頃なので、アルティーノをたくさん甘やかす。
今も笑顔でアルティーノの頭を撫でている。
この村での、平和な一日だった。
平和な日というものは、ある日突然終わりが来る場合がある。
「何かしら、これ……」
「さあな……」
アルティーノを起こそうと部屋に入ってきた両親は、アルティーノの枕元にある奇妙な黒い直方体の物体を発見した。
見る者が見れば、それがコンピューターである事に気が付いただろう。残念ながら、この村――どころか、この世界にはそんな人間は存在しないが。
突然の奇妙な現象。
そんな事が起こるとすれば――考えられる原因は、一つ。
「まさか――!」
それに思い至ったアルティーノの母親は、満足そうに寝ているアルティーノの胸元をはだけさせる。
「「――ッ!」」
両親は同時に息を呑む。
そこには、黒い目の様な紋章が刻まれていた。
『異能の証』。またの名を、『悪魔の印』。
この世界には、異能と呼ばれるものが存在する。
異能を扱える才のある者は、十歳までの間に異能を発現する。その証が、この黒い目だ。
異能は千差万別。
好きな場所に転移ができるといった便利なものから、人の心を読むといったものまで。
便利で力強い能力である。
しかし……この世界において、異能は忌避される存在であり、異能持ちは差別の対象だった。
何故か?
それは、異能の証が悪魔の印と蔑称される事からも分かるだろう。
異能とは、元々悪魔が保有していた力だ。いつの日かそれが人間の子供にも発現し、そして悪魔の呪いとして恐れられるようになった。
自身の息子に悪魔の印が刻まれている。
ただその一つの事実だけで、両親の息子を見る目は、冷え切った物になっていた。
「「…………」」
両親は無言で部屋を出ると、出されていた朝食を片付け、家を出て村長宅に向かった。
「ん……」
アルティーノは目を覚ます。
(いつもより遅い時間だ……あれ?)
体を起こすと、自分の横にある奇妙な物体に気が付く。
だが、そんな事よりもお腹が減っているアルティーノは、寝間着から着替えると、部屋を飛び出す。
しかし、出迎えてくれる筈の両親やテーブルに並べられた温かい食事は、どこにも無い。
(……あれ?どうしちゃったんだろう?)
取り敢えず、家の外に出てみる。
目に入ったのは、いつもの村の光景。
ああ、なんだ何も無かったのか、とアルティーノはいつも通り井戸水を汲んでいる男性に声を掛けようと――。
「邪魔だ、どっか行け」
「――!?」
突然浴びせられる冷たい言葉。
声音にも温かみなぞ微塵も無く、憎き相手に話し掛けるかの様な態度だった。
「おじさん、どうし――」
「あっち行けっつったんだ。聞こえねえのか?」
男性は煩わしそうにそう言うと、丁度汲んでいた井戸水をアルティーノに浴びせ掛ける。
「――え?」
ばしゃり、と冷水を掛けられた。
理解ができなかった。
現実から目を背ける様に、荷物を持った老婆に、狩りに行く狩人に、農作業をしに行く農民に、商売をしている商人に話し掛ける。
だが、返ってきた反応は似たり寄ったり。どれも、アルティーノを歓迎しないものだった。
(どうして……)
アルティーノは村の外れで座り込んでしまう。
その目には、溢れんばかりの涙が浮かんでいた。
これから5日間は、一日四話投稿を行います!




