表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/33

後記

……以上が、私がかつてヴェザリアで体験したすべての記録である。


正確には、“記録できなかった記憶”の断片だ。


通報も、死も、犯人の存在すら、いまや公式のデータベースには何ひとつ残っていない。

絵画の大半は保存不可能な変質を起こし、証拠能力を失った。

レオ・アルヴァという名前もまた、誰の口にも上らぬまま、静かに忘れ去られようとしている。


だが私は知っている。


あの画布に宿った死者の視線を。

私自身が“描かれかけた”あの瞬間の冷たさを。

そして、誰にも知られず消えていく魂の重みを。


私たち記録官は、事実に仕える者だ。

嘘や感傷に溺れてはならない。

けれど、どんな記録にも残せない真実が、たしかにこの世界には存在する。


だから私はこの一件を、正式な報告書ではなく、“語り”として残した。


誰かが読むことを想定していなかったわけではない。

むしろ、いつかこの記録を手に取る誰かがいるならば、知っておいてほしいと思っていた。


記録されなかった出来事にも、意味はあるのだと。

そして、忘れられた死者にも、語られるべき物語があったのだと。


今でも時折、あの街の霧の匂いを思い出すことがある。

あの祈りの旋律と、光の差し込む画室と、ひとつひとつの絵に宿った“死”たちを。


レオ・アルヴァが望んだのは、神か、永遠か、それともただ誰かに見ていてほしかっただけなのか。

答えはもう、誰にもわからない。


だが彼の絵は、今も本部の封鎖資料庫の奥で、誰にも開かれることなく眠っている。


……それでいいのかもしれない。


けれど、私は忘れない。


あの絵のなかに、今もなお、私を見ている視線があるような気がしてならないから。


この記録が、いつか君の手に届き、誰かの記録官としての“最初の灯”となることを願って。




記録者

GIA・書庫部門責任者

オスカー・ヘイズ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ