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第5話:監視体制発令中! 未来ノート捜査線(と恋路)は前途多難

 翌日からの学校生活は、なんというか……息苦しかった。

 原因は、もちろん隣の席に座る、私の親友兼・自己申告制の未来ノート監視官、工藤彩乃だ。


 私がペンケースに手を伸ばせば「……(ジロッ)」。

 私が教科書のページをめくれば「……(チラッ)」。

 私が鞄をごそごそすれば「……(ゴゴゴゴゴ……)」。


 常に鋭い視線を感じる! いや、気のせいじゃない! 絶対に見られてる!


「あのさ、彩乃さん? ちょっと監視が厳しすぎやしませんかね?」

「当然でしょ。危険物管理責任者として、対象(=あんた)から目を離さないのは基本中の基本よ」

「私、危険物じゃないし!」

「あのノートを持ってる時点で、分類上は戦略兵器級よ。異論は認めない」


 休み時間には、有無を言わさず私の鞄から未来ノートを抜き取り、「授業中は私が保管します」と宣言。まるで先生が生徒からゲーム機を取り上げるみたいに!


「ちょ、返してよ!」

「ダメ。あんたがまた『つい、うっかり』で世界を混沌に陥れたらどうするの」

「陥れないって!」


 そんな私たちのヒソヒソ(でもない)攻防を、クラスメイトが生暖かい目で見ている気がする……。


 そして放課後。彩乃は「さて、と」と腕まくりをした。


「『未来ノート捜査本部』、活動開始よ。まずは、あんたがノートを発見した現場、図書室の郷土史コーナーへ行くわよ!」

「え、今から?」

「善は急げ、よ。謎は熱いうちに解け、とも言うわ」


 有無を言わさず、私は彩乃に引きずられるように図書室へ向かった。目指すは、あの日ノートが挟まっていたという、一番下の棚。


「この辺りのはず……。たしか、『〇〇村の昔話』みたいなタイトルの、分厚い本……」

「ふむ……」


 彩乃は探偵のように鋭い目つきで、古びた本が並ぶ棚を検分する。私も一緒に探してみるけど、それらしき本が見当たらない。あれ? おかしいな……。


「ねえ、彩乃。その本、なくなってる……かも?」

「あるいは、あんたの記憶違いか……。まあいいわ、周辺の本から何か……」


 と、彩乃が怪しげな装丁の本に手を伸ばしかけた、その時。


「やあ、二人とも。熱心だねぇ。郷土の歴史を探求かい?」


 ヌッ、と。本当に、効果音がつきそうな感じで、本棚の影から斎藤先輩が現れた。今日も今日とて、飄々とした笑顔だ。しかも、なぜか私たちが調べていたまさにその棚を、ハタキでパタパタと掃除している。


「さ、斎藤先輩!」

「この辺りの本はね、なかなか面白い記述が多いんだよ。特に、因果応報というか……ちょっとした行いが、巡り巡って予想もしない結果を招く、なんて話がね」


 先輩は、棚から一冊の、何の変哲もない古びた本を手に取った。


「例えば、この『忘れられた村の記録』なんて本には……おっと、これは貸し出し禁止だったかな?」


 意味深な笑顔で本を棚に戻し、先輩は「じゃ、僕はこれで」と、またしても風のように去っていった。


「……今の、絶対ワザとですよね?」

「間違いないわね。あの先輩、十中八九、黒……というか、灰色。限りなく黒に近いグレーよ」


 彩乃が断言する。私も同感だ。あの先輩、絶対何かを知っていて、私たちを面白がっているフシがある!


「こうなったら、先輩本人をマークするしかないわね。『捜査本部、フェーズ2』よ!」

「え、尾行!?」

「他に何があるっていうのよ!」


 彩乃の決断は早い。図書室を出た斎藤先輩の後を、私たちはこっそりと(自称)つけ始めた。……が。


「あっ!」

「ちょっと結月! 何、派手に転んでるのよ!」

「だ、だって、急に猫が……!」


 曲がり角で見失い。

 廊下の突き当りで、なぜか「気象観測同好会準備室(部員募集中!)」というプレートのかかった謎の部屋に吸い込まれていくのを目撃したのを最後に、完全に姿を見失った。


「……ダメだわ。あの先輩、人間じゃないかもしれない……」

「そ、それはないと思いたいけど……」


 尾行は、ものの数分で、あっけなく失敗に終わった。


「はぁ……収穫なしか……」


 がっくりと肩を落として廊下を歩いていると、向こうから歩いてきた人物と、ドン、と軽くぶつかってしまった。


「わっ、ごめん!」

「あ、いや、こっちこそ……って、桜井さんと、工藤さん?」


 ぶつかった相手は、なんと悠斗くんだった! 彼の手から、数枚のプリントが床に散らばる。


「あ、悠斗くん! ごめんね、拾うよ!」

「ううん、大丈夫。ありがとう、桜井さん」


 一緒にプリントを拾い上げる。指先が、ほんの少しだけ触れた。……気がした! 私の顔が、カッと熱くなる。


「昨日は、工藤さんも大変だったね。あの……『役作り』、すごい迫力だったよ!」

「え、ええ……まあ……(ギリッ)」


 悠斗くんの天然な言葉に、隣の彩乃のこめかみがピクッと動いたのが見えた。まずい、この流れは!


「さ、桜井さん、助かるよ。じゃあ、また……」

「またね!」


 私が言い終わる前に、彩乃が私の肩をがっしりと掴み、無理やり悠斗くんに背を向けさせた。そして、耳元で囁く。


「……今の状況で、橘くんに接近するのはリスクが高すぎると判断しました。恋愛脳は即時冷却するように」

「なっ……! 違うし! ただ、プリント拾っただけだし!」

「どうだか。とにかく、あんたは要注意人物なんだから、自覚しなさい」


 うう……。せっかく、普通に話せたかもしれないのに……。彩乃の監視、厳しすぎる!


 その夜。私は自室のベッドの上で、彩乃から(渋々)返却された未来ノートを眺めていた。彩乃には固く禁じられているけど、やっぱり気になる。このノートは、一体何なんだろう?


 ぼんやりと表紙を撫でていると、指先に、ほんのわずかな引っかかりを感じた。


「……ん?」


 目を凝らしてよく見ると、表紙の隅っこ、タイトルの下に、今まで気づかなかった、小さな小さな傷のような……模様? が刻まれている。


 星……? いや、もっと複雑な……何かのマーク?


(これ……なんだろう……?)


 新たな謎。

 未来ノートは、ただ未来を書き換えるだけでなく、もっと深い秘密を隠しているのかもしれない。そして、それは、私の手に負えるようなものなんだろうか……?


 監視官付きの日常と、深まるノートの謎。私の未来は、やっぱりちっとも平穏じゃなさそうだ。


(つづく)

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