第5話
第5話です。
このお話で完結となります。
カ、混沌だ……。どうしたらいいんだよ!ていうかご主人完全に知っててここまで連れてきたな!くそっ!ニヤニヤするんじゃないよ!
僕の目の前には恐ろしいことが起きている。僕の胸の中にはストレニス王国の女王、それを睨みつける各国の王達、そしてそれを見て歓喜しながら泣いているストレニス王国の役人達。最後に全てを分かっていたって顔をしながらニヤニヤしているご主人。
喜怒哀楽全ての感情がごちゃ混ぜになっているこの会場は世界会議。世界中の王達が集まるこの会場にいる最底辺の奴隷である僕。ね?めちゃくちゃでしょ?もうどうすればいいのか分からないよ……。
※
時間は3週間前に遡る。
「あ?世界会議だあ?なんでそんなもんが開かれるんだよ?」
「僕は分からないですよ。さっき来たどこかの国の役人がこれを渡してくれと」
「ほう、……ふむふむ。なるほどな!どうやら全ての国が俺の脅威に気がついたってわけだな!」
「ど、どういうことですか?」
「お前もこの前見たろ?ストレニス王国の役人達が来た時のこと」
あの日、役人達は「王命だから」と言って僕をストレニス王国へ連れていこうとしたんだ。その時、僕は嫌な予感がしたんだ。だからご主人を見ると
「おい!お前ら俺が誰か分からないのか?俺は勇者だぞ?そんなの勇者特権でなしだ!いいな!言えば分かるから帰れ!」
そんなやりとりがあった。それのどこに脅威があるんだろうか?
「いつものやりとりじゃないですか?どこに脅威があるんですか?」
「分からんみたいだな。まあ俺がしょっちゅう使っていたから価値も分からんわな。『勇者特権』だよ!これはな、どの国の王達よりも上の命令なんだよ。だから王命すら無効にできる必殺なんだよ!」
おいおい、そんなやばいものしょっちゅう使っていたのかよ……。てことはあの時の「勇者特権だから」って言って先越されて取られたジュースを取り返したの……。どんだけくだらないことに使ってたんだよ。
「いやだめでしょ!そんな危険な特権使いまくっていたなんて!」
「だろ?でもこれは俺からの警告でもあるんだよ。本当の脅威は魔王ではなく勇者である俺ってことをな。いいか?俺の勇者特権はな、ない方がいいんだよ。そうじゃないと王達の存在意義が薄れる。それで世界会議を開き、全ての国の王が勇者特権について廃止を唱えるとな、俺の勇者特権は剥奪されるようになってるんだよ」
どうやら一度魔王を倒した後、ご主人は世界会議で勇者特権を剥奪されたらしい。それが魔王復活に伴って復活したんだと。本来の流れで剥奪は当然のことだと笑っていた。
ストレニス王国だけが内戦みたいなことをしていたから世界会議が開かれることはなかった。でも女王様も勇者特権に目をつけた。それに気づかせて自分の大事な特権を失っても堂々としていられるなんて……。僕はどうやらご主人の器の大きさを見誤っていたみたいだ。
「ということで世界会議が開かれる会場へ向かうぞ!そっちの方が優先事項だからな!」
そういうわけで会場に着いて中に入るとすでに各国の王達とその役人達がいて、僕達が入るなりいきなり
「光流く~ん!あ、会いたかった~!」
と金山が僕の胸に飛び込んできて号泣きし始めた。そして先ほどの下りに至るというわけだ。
※
今僕の状況を説明しておくと、僕の存在がかなり異常だということ。なんせ僕は賢者。この世のあらゆる魔法が使える。だからあんなことやこんなこともやろうと思えばできるんだ。もしかしたら勇者より厄介だと思われているってこと。
そんな僕は奴隷という身分で隷属関係が解かれている状態。だからやろうと思えば全ての王達が僕を隷属しようと思えばできる。そして勇者特権が剥奪されれば実質支配者になれるわけ。そこに女王が泣き落としにかかりにきた。そういう目で見られているということ。だから各国の王達が睨んでいるんだ。
そして金山の様子とストレニス王国の役人達の喜びよう。仮に僕が隷属されたとしても女王である金山の聖女の力で奴隷解放ができれば僕は実質自由。そんな自由を与えることができるわけだからそれを恩にできる。だから役人達は喜びながら泣いているんだ。
一点分からないのが金山の様子。ずっと僕の胸に体重を預け泣き続けている。一体何があったんだろう?僕がいない間に酷い目にでもあったんだろうか?
でもそれなら僕でなくてもいいはず。なんせ僕は振られ、もはや奴隷の身にまで堕ちた最底辺なわけでそんな奴のこと忘れてるはずだから。もっと身近な恋人なんかと一緒にいればいいだけだ。だから彼女の行動の意味が分からない。
そして最後にご主人の顔。「はいはい、これが見たかったんですよ」って顔でニヤニヤしてやがる。器の大きさを見誤っていたなんて言ってた自分が恥ずかしい!
「さあ、おふざけはここまでとしてやることやってしまいましょう。まずは勇者特権の廃止!異議はなしでいいですね?」
僕はここまでの情報を全て読み取り、ここからの流れを計算していたんだ。ごめんね、長い時間取っちゃって。一応賢者だからね。賢き者だから。考えていたんだよ。
「異議なし!」
各国の王達は手を上げ、金山は僕の胸のところで全力を首を縦に振りまくっている。大泣きしているけど、そういうところはちゃんと聞いてるんだよな。流石だよ。てか金山にとって勇者特権そんなに邪魔だったのかな?
「では次に僕の処遇ですね。僕は基本ご主人である勇者様に仕えている身ですので、どこの国にも属するつもりはありませんが、異議はなしでいいですか?」
「異議あり~!」
「い、異議ありだ!」
「わ、私もだ!」
即座に金山が反応。それに怖気づいたのかびびりながら異議を唱える周辺の国の王達。金山さん、泣きながらちゃんと話聞いてて異議まで唱えるとかどんだけ器用なんですか。ていうかこの流れ「異議なし」で終わるところなのになんで邪魔したのかな?
「光流君は私のです!絶対に渡しません!譲らないなら戦争します!」
おいおい、言ってることがめちゃくちゃだぞ……。ふと、ご主人を見るとニヤニヤがマックスになっている。気持ち悪いしカッコついてないよ、ご主人。
「ふう、じゃあ俺からお前に言ってやろう。お前以外の全員な、この女王様がお前のこと大好きだって知ってるんだよ」
「はあ!?何言ってるんですか!僕は彼女にふ——」
「言っちゃだめえ!それはうちの国では嘘ってことになってるんだから~!」
え?嘘?どういうこと?ていうかみんな「は?」って顔してるよ?
「女王様よ、それ言ったら振りましたって言ったようなもんだぜ?いいのか?」
「はっ!」
そう言いながら周りを見渡す金山。ぐぬぬ……って言ってるの初めて見た。ていうかこんなカワイイ一面もあったんだ……。
「お前な、この世界はいくら情報を得られるかにかかってるんだよ。だからお前が女王様と召喚されたことも、奴隷に堕ちたことも、俺と魔王退治に行ってたことも全部みんなすでに知ってるんだよ。お前だけ知らないの。賢者じゃねえの?」
ひどい……。賢者なんだけど僕……。てか何か僕だけ情報封鎖されてたよね?絶対!どんなことでも知ってるはずなんだけどな……。でも一つだけ分かった。また腹括るしかないな。
「ああ、そういうことですね。分かりました。じゃあご主人。僕の願い2つ叶えてくれますか?」
「ああ、もちろん。諸国の王達よ。私は先の魔王との戦いで賢者と約束事をした。それは魔王討伐が実現した暁には、私がどんなことでも3つの願いを叶えようという内容だ。だからこの3つの願いだけは勇者特権以上の特権だ。異論はないな?」
周りの王達も金山も頷いている。すごいな、やっぱりご主人は別格なんだな……。
「1つはすでに叶えてある。だから残り2つだ。さあ賢者よ、言うがよい」
「では、まず僕はストレニス王国に属することにします」
「おう、分かった!それで残りの1つは?」
「ストレニス王国が復興した後、僕と女王様は元のいた世界に戻ります」
「おう、分かった!じゃあこれで解散!」
なんだよ、結局僕はこの人の掌の上で転がされてただけだったんだなってこの時思ったよ。
※
あの後、ご主人の言った通り、世界会議は速攻で解散となった。僕は金山——いや、恭子に連れ出され、これまでの彼女のいきさつを聞いた。恭子は恭子なりに苦労したみたいだな。
まあ、僕と比べれば天と地ほど違いますけどね!こんな感じで奴隷時代とは違って明るくなったと思う。一番変わったのは恭子だった。あの振られる前までの彼女とは別人か?ってくらいにカワイイ。「てへ」とか「バカ」とかデレまくるから最初の頃は対応にどうしたらいいのか大変だった。でも悪くない。
「いいですか賢者様!女王様は数%の可能性を信じていたんですからね!それがなかったら女王様は女王様じゃいられなかったんですからね!」
最初に恭子を連れて逃げた魔法使いは宰相になっていて、毎回毎回この話をされるからもううんざりしている。でも彼女と苦楽を共にしてきた人物だからこそ信頼されて色々恭子の面倒を見てくれていたんだろう。感謝だな。
あの世界会議から2年が経った。もうストレニス王国は十分に復興を遂げることができた。僕も早く帰れるように尽力したからね。そして今日はこの世界から元の世界に戻る日。珍しくご主人まで見送りに来てくれた。
「おう、すっかり元気になっちまったなミツル!最後だから顔出してやったぞ!」
「ご主人、お世話になりました。色んな恨みは持って帰るんで忘れないでくださいね!」
「おう、持って帰ってあっちの世界で成仏させてくれや!」
僕達が戻る場所はあの高校、そしてあの振られた直後の時間まで巻き戻る。
「あっちの世界に戻るなら、高校時代まで戻ろ?そしたら高校卒業まで遊んで一緒にいられるね!」
なんて恭子が言うもんだから時間まで操作することになった。僕はなんでもできる賢者だからね。女王様のお気の召すままに。
「じゃあ、帰ります!皆さんお元気で!」
僕と恭子はあの日、あの場所から再スタートする。精神年齢は上がっちゃってるけど、高校生活残り一年半くらい遊んで楽しく過ごせればいいかなって思ってる。
お互い苦労した身だからね。時間はかかったけど、恭子には十分認められたみたい。
「あの時振っちゃってごめんなさい。大好きです!それでこれからもよろしくね!てへ!」
変わった彼女、ぜひみんなに紹介したい。僕と恭子の旅はこれからも続く。
お読みいただきありがとうございました。
次話はおまけの6話、恭子視点のお話になります。




