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32.陛下の呼び出し(ルシアン)

近衛騎士の後をついていくニナを見送って、

俺も別の近衛騎士の案内についていく。


陛下の呼び出しはニナのことだろうな。

母親に会わせたのだから、精霊術を使えるようになったのかと。



王族の控室の一番奥の部屋に陛下はいた。

貴族たちからの挨拶が終わり、控室で飲んでいたらしい。


機嫌はあまりよくなさそうだ。


「来たか、ルシアン」


「はい」


「話はニネットのことだ。婚約式で母親に会ったのだろう?

 少しは精霊術が使えるようになったのか?」


「今のところはまだです。

 ですが、死んだと思っていた母親が生きていたことで、

 少しは落ち着いて生活するようになったと思います」


「ほほう」


ニナに変化があったことがうれしいのか、

陛下はにやりと笑う。


だが、それよりも気になったことがある。


「ところで、どうして王太子とニネットを会わせたのですか?

 さきほど私とニネットで王太子と話をしましたが、

 あれは陛下の命令ですよね?」


「ああ、そうだ。

 アンドレはニネットを気に入らなかったようだがな」


「……気に入る必要はありますか?」


あきらかに王太子はニナに興味がなさそうだった。

それなのにわざわざ呼び出してまで会ったのは、

陛下がそう命じたからに違いないと思った。


まだ精霊術を使えるかどうかもわからないニナに何の用が。


「ニネットは、アンドレのものだ」


「は?」


「精霊術が使えるようなら、側妃にする。

 使えなかったら、そうだな。愛妾にでもさせるか」


「……いったい何を。ニネットは私の婚約者ですが?」


「平民の血をジラール公爵家に入れられるわけないだろう」


「どういうことです?」


婚約式までしたのに、結婚を認める気はないのか?

たしかにニナは平民だが、一応はバシュロ侯爵家の娘として籍がある。

結婚するのに問題はないはずだ。


「ニネットはバシュロ侯爵の娘ではない。

 ルシアンも、それを知ったんだろう?」


「それは……」


「だとすれば、平民の血しか流れていないニネットを、

 公爵夫人にすることはできない」


「それなら、なおさら王太子の側妃にはできないはずですが?」


「だから、精霊術を使えるようになれば、と言っている」


「……?」


「期限はニネットが学園を卒業するまでだ。

 卒業時に使えるようになっていれば、侯爵の娘として側妃に。

 使えなかったら、侯爵の娘ではなかったとして、平民に戻す」


陛下が何をしようとしているのかはわかったが。


「その場合、愛妾にする意味がわかりませんが?」


「今まで貴族として生活させてやったんだぞ?

 母親の面倒まで見てやってる。

 その費用を返させる必要があるだろう。

 それに愛妾にして孕ませたら、精霊の愛し子を産むかもしれないだろう?」


「……」


このクズ野郎……いい加減にしろと言いたいが、

陛下が腐っている、いや、この国が腐ってるのはわかってる。

今さらだったと思いなおした。


「婚約したニネットに情がうつったとしても、

 ニネットは平民の血しか持たない。

 公爵夫人にすることは認めない。

 可哀そうだと思うのなら、精霊術を使えるようにさせて、

 アンドレの側妃にしてやるんだな」


「……わかりました。失礼いたします」


用件はこれだけだろう。

手のひらで出ていけと合図をされ、会話を終わらせた。


ニナさえ嫌でなければ、このまま結婚してもいいかと思っていた。

きっと精霊の愛し子はどこに行っても落ち着いて生活できないだろうから、

ジラール公爵家なら守ってやれると思っていた。


だが、卒業までか。

それまでにどうにかして逃がしてやらないといけないようだ。


とりあえず、気持ちを切り替えて公爵家の控室へと向かう。

ニナが一人で待っている。不安がっているだろう。


公爵家の控室のドアを開けたが、そこには誰もいない。

廊下にいる近衛騎士に声をかける。


騎士なのに前髪が長いせいで顔が見えにくいが、

さきほどニナを案内した近衛騎士とは別のようだ。


「ここで婚約者が待っているはずなのだが、いない。

 心当たりはないか?」


「あ、はい。少し前に部屋から出ていかれましたよ」


「出て行った?一人でか?」


「はい。向こうへ行かれましたが、一緒に探しましょうか」


「向かった方向へ案内してくれ」


「わかりました」


近衛騎士の後ろをついていくと、どうやら客室の方へ向かっている。

ニナが一人でそんなところに向かうわけはない。

そう思うながらも後ろをついていく。


近衛騎士は通りかかった女官に声をかけた。


「紫色のドレスを着た茶色の髪の令嬢を見なかったか?」


「そういう令嬢なら、あそこの部屋に入っていきました。

 令息と一緒に」


「どの部屋だ?」


令息と一緒に客室に入っていった?

これは何かの罠だなと思いながらも、ついていく。


客室の中に入ると、中には一人の令息がいた。

あちこち部屋の中を探したようで、物が散乱している。


「ああ!いないんだ!ニネット嬢が消えた!」


「は?消えたって、どういう?」


「部屋に入った時にはいたんだ。

 奥の寝室に逃げたと思ったら、探してもいない!」


「どこかに隠れているんだわ!」


なぜか近衛騎士と女官までニナを探そうとする。

慌てている令息は見たことがある。

たしか、オスーフ侯爵家のカルロだ。


ニナの婚約者候補でもあったはずだが、女好きで有名な令息だ。

ニナは精霊に情報を教えてもらったから選ばなかったと言っていたな。


この令息がここにいて、ニナと二人きりでいる予定だった?

この者たちが何をしようとしていたのかわかって、

ニナがどこに隠れているのかと部屋の中を見渡す。


すると、部屋の入り口を入ってすぐの壁際にニナがいた。

精霊の力を借りて、姿を見えなくしていたらしい。

私と目が合うと、安心したように笑う。


部屋の中をまだ探している三人には気がつかれないように、

部屋のドアを開けて、ニナには外に出るように指で合図をする。


「ここにはいないようだから、他を探しに行く」


「え、ちょっと待って。ここにいるのは間違いない」


「いや、婚約者には王宮内で迷って俺と合流できそうにない時は、

 馬車に戻るように言ってあるんだ。

 公爵家の馬車には護衛を待機させているから」


その言葉を聞いて、ニナは廊下へと出て行った。

これで馬車へ向かってくれるはずだ。


だが、それでも俺にニナの浮気を見せたい三人は、

俺に食い下がろうとしてくる。


「ここにその令嬢が入っていったのは間違いないんです!」


「ええ、そうです!この部屋に誘われて。

 ニネット嬢と一緒にいました!」


何か脅されているのか、カルロまでそんなことを言い出す。

もうニナの居場所はわかったし、これ以上つきあうことはない。


廊下にいる近衛騎士に手招きして呼ぶ。


「どうかしましたか?」


「ここにいる近衛騎士と女官は偽物だ」


「「「っ!」」」


「胸に階級章がない。捕まえて牢に連れていけ。

 公爵家の控室前をうろついていたんだ。

 何か企んでいたに違いない。

 ジラール公爵家次期当主として、取調べを依頼する」


「はっ!すぐに!」


近衛騎士が笛を吹くと、わらわらと騎士たちが集まってくる。


三人は違うんだと言い訳をしていたが、そんなことは関係ない。

近衛騎士と女官ではないものが、その制服を着てこんな場所をうろついている。

その事実だけで牢に入れることができるのだから。


「俺は、王子だ!見てわからないのか!彼女は貴族令嬢だぞ!」


「そうよ!さわらないでちょうだい!」


それを聞いて近衛騎士が俺に判断を仰ぐが、そのまま牢に入れるように命じる。


たとえ、カミーユ王子とオデットだとしても、罪は罪。

ついでに、怪しい行動をしていたカルロも貴族牢に入れて、

オスーフ侯爵に引き取りに来させろと言っておく。


いくら子どもに甘いオスーフ侯爵でも、

さすがに反省してもらわなくてはいけない。


三人が近衛騎士に連行されていったのを見て、馬車へと向かう。

馬車に着いたら、ニナが中で待っていた。


「大丈夫だったか?」


「はい!問題ありません!」


「それならよかった。帰ろうか」


「はい!」





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