表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】あなたたちのことなんて知らない  作者: gacchi(がっち)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/60

24.俺の母親(カミーユ)

今さらというなら、少しくらい文句を言いたかった。

返ってきたのは、父上と義母上の冷たい視線だった。


「こいつにちゃんと説明してやれ。お前が甘やかしたせいもあるんだぞ」



「……そうですね。本当のことを話して育てていれば、

 こうならなかったでしょう」


父上はもう話す気がないのか、奥の控室へと行ってしまった。

残された義母上は、大きくため息をついた。


「カミーユ、あなたは自分の立場をわかっていますか?」


「……?第三王子です」


「側妃の、産んだ第三王子です」


「義母上?」


いつも兄上たちと同じように育ててくれた義母上が、

側妃を強調するように言った。


「カミーユの母、レイラは子爵令嬢でした。

 私の侍女の一人だったのよ」


「義母上の侍女ですか」


俺を産んで間もなく亡くなったのは知っているが、

詳しい身分などは知らなかった。


実の母について聞いたことはあるが、知らなくていいと言われたからだ。

誰も話さないため、いつからか聞くこともなくなっていた。


「レイラは私の乳母の娘でした。

 だから身分が低くても侍女の一人として雇っていました。

 ですが、あまり仕事ができる子ではなく、気分屋でさぼりがちで。

 取り柄というものがない子でした」


「……」


俺の母親なんだよな?

なんだよ、気分屋で取り柄がないって。


「ある日、仕事が嫌になったレイラは、

 酔っぱらって寝ている陛下の寝所に入り込みました」


「は?」


「そして、関係を持ったことで側妃にしろと迫ったのです」


「……嘘だろう」


なんだ、それは。

側妃というのは正妃には劣るけれど、

きちんとした手順で選ばれた妃なのではないのか?

それこそ、身分も能力も求められて……


「当然、激怒した陛下に部屋を追い出され、

 私に泣きついてきたのですが、助ける義理もなく。

 ただ、身ごもっている可能性もあったので放っておくこともできず。

 子どもが産まれるまでは貴族牢に入れました」


「………」


信じられない。そんなあばずれが俺の母親?

王妃である義母上を裏切るような侍女が?


「結果として、カミーユが産まれ、レイラは毒杯を賜りました。

 戸籍上、側妃となっているのはカミーユが王子だからです。

 王子の母を罪人とすることはできません」


「そんな……嘘だ」


「カミーユに罪はないことと、一応は私の侍女だった責任もあります。

 私の子たちと変わらないように育てました。

 それなのに、やはりレイラの子だからなのね。

 愛人の子だからとニネットを虐げて婚約解消するなんて」


「それは、知らなかったから!」


「知らなければ虐げてもいいと?

 カミーユとオデットも不貞の子だとわかった今、

 ニネットにひどいことをしていたと理解できますか?」


「……」


同じ……不貞の子。

俺とオデットが、あのニネットと同じ立場……

言われても納得できない。俺は、俺だけは違うはずだと。


呆然としていたら、謁見室の扉が開いた。

許可なく勝手に入ってくるなんてと思ったら、

第一王子で王太子のアンドレ兄上だった。


「母上、もう話すだけ無駄ですよ」


「アンドレ……」


「こいつは王族らしいのは外見だけで、中身は別物。

 同じように育てたところで俺やランゲルとは違います」


「そうね……私が愚かだったのね」


母上を慰めるような兄上の発言は……どういうことだ?


「兄上、何を」


「もう兄上と呼ぶな。お前は弟ではない」


「ど、どうしてですか?」


「まだわからないのか。お前が馬鹿なことをしたせいで、

 王家の名に傷がついたということが」


「傷……?」


王家の名に傷をつけるようなことをした覚えはない。

俺は俺にできる精一杯のことをしてきた。

なのに、どうしてこんな目で見られなきゃいけないんだ。


「兄上は俺にずっと優しかったじゃないですか。

 ランゲル兄上には厳しくても、俺には怒らなかった。

 どうしてそんなことを急に」


「俺はお前に優しかったわけじゃない。

 俺もランゲルも、お前には何も期待していなかっただけだ」


「そんな……ランゲル兄上だって、俺に剣の稽古をつけてくれて……」


「ランゲルがお前の稽古を見ていたのは、

 ただ単に自分の稽古をさぼれるからだ。

 ランゲルには王弟として支えてもらわねばならないから、

 厳しく指導するように騎士団長に命じていた。

 お前が稽古をしていたのは、母上がそうしてほしいと願ったからだ。

 俺が王になる時にお前は必要はない。だから、厳しくしなかった」


「……うそだ」


いつでも微笑んでいたアンドレ兄上……。

稽古をつけてほしいとお願いすると笑って応えてくれたランゲル兄上……。

どちらにも弟として愛されていると思っていた。

そう思っていたのは俺だけだったのか?


「もういい、早く出ていけ」


「兄上!義母上!」


「俺はお前の兄ではないし、母上もお前の母ではない。

 おい、こいつを連れ出せ!」


「!!」


追いすがろうとしたけれど、騎士たちに捕まって廊下に出される。

そのまま私室に連れて行かれた後は、ドアは外から鍵をかけられた。


侍女もいない部屋。

見慣れた自分の部屋なのに、いつもとは違って見える。

学園を卒業したら、この部屋から出ていかなくてはいけない。


俺が、不貞の子。父上の寝込みを襲った侍女の息子……。

愛人の子ですらなかったなんて。

父上に優しくされたことがなかったのは、そのせいだったのか。


義母上と兄上たちには愛されていると思っていたのに、そうじゃなかった。

最後の言葉、俺を見る目。憎まれていたのがわかる。


どうしてこんなことに。

俺の婚約者がニネットじゃなかったら、最初からオデットだとしたら。

不貞の子同士だったとしても、気がつかないで幸せになれたはずなのに。


ニネットに関わったから、オデットが苦しんでおかしくなった。

そのオデットにそそのかされて、俺はニネットと婚約解消をした。


たったそれだけで、人生が終わるのか。


ニネットはそんな俺たちとは関わらないところで、

ルシアンに愛されて幸せになる、そんなことが許されていいのか?


俺とオデットが不貞の子として落ちていくなら、

同じ不貞の子のニネットも落ちていかなきゃおかしいだろう。

ましてや公爵夫人になるなんて、あってはならない。


許されないことをしたのは俺じゃない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ