23.本当のこと(カミーユ)
久しぶりにニネットに会って話してから、
オデットの機嫌は最悪だった。
それもそうだろう。
自分が侯爵の血をひいていないと、あそこまではっきり言われたのだ。
周りにたくさんの令息令嬢がいる前で。
ずっと不思議だった。
どうして侯爵だけでなく父上までニネットの方を大事にするのかと。
もし、オデットが不貞の子だというのが本当なら、それもよくわかる。
夫人が不貞した子よりも、侯爵の実の娘のニネットのほうを大事にするに決まってる。
たとえ愛人が平民だとしても、侯爵家の血をひいているのはニネットなのだから。
だが、それでも疑問は残る。
どうして俺と婚約したのがニネットだったのか。
ニネットが侯爵家の血を引いている唯一の娘なのなら、
ニネットが婿を取って継ぐべきだ。
俺と婚約解消した後も、ニネットは公爵家のルシアンと婚約を結んだ。
侯爵家の血をひいていないオデットに継がせるなんて意味がわからない。
考えてもわからず、それ以上考えるのはやめた。
とりあえず不機嫌なオデットを慰めながら学園から帰る。
王宮に戻ると、すぐに謁見室に呼び出される。
急に何の用だと思いながらも、ちょうどいいと思い向かう。
オデットのことが本当なのか聞けるかもしれない。
謁見室に入ると、父上だけでなく義母上もいた。
婚約解消の件からずっと二人には避けられていたから、
会うのは久しぶりだ。
「やっと来たか」
「ただいま戻りました」
「また学園で騒ぎを起こしたそうだな」
「え、いや、その。騒ぎというほどのことでは。
オデットとニネットを仲直りさせようとしただけです」
「……またよけいなことを」
呆れたような父上に、眉間にしわを寄せたままの義母上。
俺がしたことはそれほど悪いことではないのに。
「よけいなことと言いますが、ニネットにとってもいいことだと思います。
ニネットは今まで社交界で受け入れられていませんでした。
ですが、公爵夫人になるのならこのままでいいわけはありません。
だから、侯爵家を継ぐオデットと仲直りをすれば、
お互いに支えあっていけると思い」
「そのことは断られたのだろう?以前、ルシアンに提案した時に」
「こ、断られたのはそうですけど、ルシアンは冷たすぎると思います。
オデットは心から反省しています。もうあんな真似はしないと言っています。
これからは家族として仲良くできると……」
家族として、と言って言葉が止まる。
本当にオデットとニネットは家族なのか?
家族じゃないというのが事実なら、俺がしたことは。
「そのニネットに、はっきり否定されたそうじゃないか。
オデットと血のつながりはないと」
「……それは本当なのですか?」
「本当だ」
「!!」
ニネットが言ったことは本当だった……
では、オデットが不貞の子だというのも?
俺が聞いていいことなのか迷っていたら、父上のほうから話し出した。
「オデットは夫人が浮気してできた子だ」
「……まさか、本当に」
「夫人はそれがバレているとは思っていない」
「え?」
「どういう事情でわかったのかは言わないが、
オデットが実の娘じゃないとわかった侯爵は、
夫人の父であるグラッグ侯爵に打ち明けた。
当時、事業を提携していたこともあり、関係を悪化するのは避けたかった。
侯爵はそのままオデットを娘として育てることにした」
「そんなことが許されるのですか?」
「オデットには罪はない。まともに育つようであれば侯爵家を継がせ、
どうしようもない娘だとわかればグラッグ家に戻し、
バシュロ侯爵家は養子に継がせようと思ったらしい」
「罪はない……そうですね」
浮気したのは夫人であって、生まれてきたオデットには罪はない。
だから自分の娘にして育ててきた。
「だが、今回のことで侯爵はオデットを完全に見限った。
夫人とはすでに離縁しているし、
オデットが自分の子ではないと公表すると言っている」
「え?」
「お前との婚約は継続だ。だが、オデットはグラッグ家に戻る」
「は?バシュロ侯爵家はどうするんですか?」
オデットは俺と結婚してバシュロ侯爵家を継ぐはずなのに、
グラッグ家に戻してどうするんだ。
まさかニネットを婚約解消させて戻すつもりなのか?
「バシュロ侯爵家は養子に継がせると言っている。
侯爵の妹の子どもに譲るつもりなんだろう」
「そんな……でも、グラッグ家に戻ると言われても」
「もちろん、グラッグ家はオデットの伯父である侯爵のものだ。
侯爵の息子が継ぐことが決まっている」
「では、俺とオデットはどうしたら」
「学園の卒業までは王宮に置いてやる。
その後は自分で生活する道を探せ。
王宮文官や騎士を目指すのはかまわないが、
王子としての扱いはされないと思っておけ」
「そんな……」
「今さら後悔しても遅い。
ニネットを大事にしなかったお前が悪い」
「そんなことを言われても……
侯爵の娘だとしても、どうして愛人の子と婚約させたのですか?
ニネットが侯爵と夫人の間の子であれば、こんなことには」
「お前は本当に何もわかっていないんだな」
「は?」
そもそもニネットが愛人の子でなければ、
ニネットの容姿は貴族らしかったはずだし、精霊術も使えたはずだ。
それなら俺だってニネットを馬鹿にせずに、
ちゃんと婚約者として大事にしていたはずなのに。
今さらというなら、少しくらい文句を言いたかった。
返ってきたのは、父上と義母上の冷たい視線だった。
「こいつにちゃんと説明してやれ。お前が甘やかしたせいもあるんだぞ」