表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】あなたたちのことなんて知らない  作者: gacchi(がっち)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/60

10.もうこんな家は嫌い(オデット)

ようやくカミーユが会いに来てくれたのは、

五日もたった頃だった。


「カミーユ!」


「オデット、その顔はどうしたんだ!」


お父様に殴られた頬は赤黒く腫れていた。

男性の力で思い切り殴られたのだから、簡単には治らない。


「……お父様に殴られたの」


「ニネットのことを知られたせいか」


「……それは悪いことしたかもしれないけど、お父様が悪いんだわ。

 愛人の子を連れて来て、お母様に育てさせるなんて」


「それはそうかもしれないけど、

 ニネットのせいにしてドレスを買ったのは嫌がらせなのか?」


カミーユも全部知っているんだ。

だけど、悪いのは私じゃないもの。


「だって、お父様はニネットになら何でも買ってあげるのに、

 私にはワンピース一枚買ってくれないのよ。

 私の買い物はお母様の生家に出させるようにって……」


「なんだ、それ……おかしいだろう」


「だから、私……くやしくて」


言っている間に涙がこぼれてきた。

全部お父様が悪いのに、私とお母様のせいにされて、

カミーユまで責めるようなことを言うなんて信じられない。

くやしくて、ニネットが憎らしくて、涙が止まらない。


「……そんなに苦しんでいたなんて、ごめん。

 俺はわかっていなかったんだな」


「カミーユ……」


カミーユに抱き寄せられ、その胸に抱き着いた。

婚約者になったなら、誰にも文句は言わせない。

カミーユも私の背に手をまわし、しっかり抱きしめてくれた。


「お母様が追い出されたの……ニネットにひどいことしたって。

 たしかに勝手に買い物はしたけど、それだけよ。

 離縁するほどのことじゃないわ」


「夫人はグラッグ侯爵家に戻されたのか……」


「お母様、伯父様とはあまり仲がよくないのに、戻されるなんて。

 今はどうしているのかもわからないの」


「侯爵は何を考えているのか」


急に離縁して戻されるなんて、お母様は肩身が狭い思いをしているはず。

お祖父様はお母様を可愛がってくれてたけど、

もうすでに当主は伯父様が継いでいる。

そんな家に戻されるなんて嫌に決まっている。

助けてあげたいけれど、私は外出することすらままならない。


それもこれも全部ニネットのせいなのに、

ニネットが帰って来ないから、怒りをぶつけることもできないなんて。


「ねぇ、ニネットが新しい婚約したって本当?」


「……ああ。王宮で父上が新しい婚約者候補を四人も呼んで、

 その中から一人選んだんだ」


「は?陛下が四人も呼んで選ばせた?」


「ああ。俺が勝手に婚約解消したせいで、お詫びなんだと思うが……。

 義母上にもかなり叱られたよ。

 令嬢になんてことをするんだと」


陛下だけでなく、王妃様までニネットのことを。

どうしていつもニネットだけ特別扱いなのよ……。


「新しい婚約者はジラール公爵家のルシアンだ」


「ルシアン様!?」


「そうだ。あの女嫌いのルシアンが、婚約を承諾したんだ。

 俺も信じられなかった。

 どうしてニネットなんかと」


王家の三人の王子よりも美しい公爵令息。

令嬢たちがこぞって狙っているけれど、誰とも踊らない。

二十半ばになっても婚約者すらつくらない孤高の令息。

そんな人がニネットの婚約者だなんてありえない。


「ニネットは平民の血が流れているのよ。

 何の取り柄もなく、精霊術を使えもしない。

 そんな人が公爵家の当主夫人になれるというの?」


「俺は無理だと思う。

 父上もルシアンに嫁がせるつもりはなかったみたいなんだ」


「じゃあ、どうして」


「四人も相手を用意したから十分に償いをしたと、

 そう思わせたかっただけなんだと思う。

 侯爵が怒っていたみたいだったし」


「お父様を黙らせるために何人も用意したと?」


「多分ね」


陛下がそこまでしても、お父様は怒っていた。

ニネットがうちから出ていってしまったから。


ニネットが公爵家に嫁いで、私が侯爵家を継ぐ……。

あんなに素敵だと思っていたカミーユが色あせて見える。

王家の色である金色の髪に、金にも見える琥珀色の目。

体格もしっかりしていて、成績もそこそこいい。

誰からも好かれる王子……だったはずなのに。


ルシアン様って、一度だけ遠くから見たことがあったけど、

カミーユとは比べ物にならないくらい素敵だった。

同じ金髪でも、なんていうか質が違うというか。

光をまとっているような、本物の王子様に見えた。



「カミーユと私がバシュロ家を継ぐのでしょう?

 ……私たちが侯爵家なのに、ニネットが公爵家だなんて嫌だわ」


「俺だって嫌だよ。王族に残る予定だったのに、侯爵家を継げだなんて。

 だけど、父上も義母上も機嫌が悪くて、王命を撤回してくれなさそうなんだ。

 しばらくしたら撤回してくれるかもしれないけど、

 今は大人しく我慢していたほうがいい」


「王命だなんて……どうして」


王命で出された婚約なら、簡単には撤回してもらえない。

こんなことならカミーユに婚約解消なんてさせるんじゃなかった。

ルシアン様が婚約する気があるなら、私が婚約すればよかった。


それに、この家にいるのも嫌になってしまった。


バシュロ侯爵家を継ぐ立場になれば、

ニネットがいなくなれば、私のほうを見てくれると思ってた。

なのに、お父様は私を殴った。

どうあがいても愛情はもらえないのなら、私はこの家を出たい。



カミーユが帰った後、お父様の執務室をノックした。

秘書がドアを開けて、私を見た瞬間、嫌な顔をする。


「どうかしましたか」


「お父様に話があるの」


「今は難しいです。もう少し落ち着いてからにしてください」


「……わかったわ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ