第9話 美人秘書、麻衣歌参上
「やれっ!」
コスギは配下の忍者たちに指示を出すと、忍者たちは一斉に虎一郎に襲いかかった。
シュッ! ブン! シャシャッ! ヒュン!
しかし虎一郎は忍者たちの攻撃を軽やかに避け続けて距離を取ると、静かに刀を収めてコスギに言った。
「コスギ、茶番はよせ。子供の戦ごっこか」
「なんだと!?」
「それにコスギ、なぜ私を狙う。返答によっては全員斬り捨てる」
ザワザワザワザワ……
虎一郎の言葉に忍者たちは一斉に下がると、コスギが虎一郎に言った。
「わかった、正直に言おう。ベヒーモスがほしい!」
「ベヒーモス……」
「そうだ。主人のプレイヤーを倒し、その場に手懐けたモンスターが残っていれば、おれのモノになるからな」
「ほう、それはお菊を奪おうと言うことだな」
「ザッツライト。その通りだ。普通、この辺りでは子ベヒーモスしか手懐けられない。ベヒーモスはスーパー・レアだ」
「お菊は私の大切な牛だ。渡すわけにはいかぬ」
「モォォ」
虎一郎はお菊の頭を撫でるとお菊は嬉しそうに返事をした。
それを聞いたコスギは腕を組むと、虎一郎に言った。
「残念だ。では死んでもらおう。ヤツを取り囲め!」
「「はっ!」」
「よかろう。相手になろう」
スゥゥ……
虎一郎が刀を抜くと、なんと突然コスギが吹き飛んだ。
ドバーン!
「うぐっ!! だ、誰だ!」
すると黒いジャンプスーツを着た若い女性が現れ、ゆっくりと歩み出てコスギに言った。
「わたくしは鶴井田麻衣歌。こちらの武士様には手出しさせませんわ」
それを聞いたコスギは麻衣歌から離れると麻衣歌に叫んだ。
「なっ! お前のような有名人がなんでこの場所に! お前はイークラトに居るはずだろう!」
「ええ。普段はモンスターレベルが最高のイークラトに居るわ。でも今日は、こちらの武士様を探しに来たの」
「くそ、邪魔が入ったか……。おい! こっちが先だ。やれ!」
「「はっ!」」
忍者たちは一斉に麻衣歌に襲いかかると、麻衣歌は手に魔法の杖を出現させた。
そして杖を高く掲げると、炎の大呪文を唱えた。
「全てを焼き尽くす魔神よ、我はその破壊の炎を欲する者。強く揺るがぬ力をもって嘆願する。我に灰塵に帰す力を与えたまえ!」
ボワァァァァアアアアア!!!
「うわぁ!!」
「なんだこのダメージ!」
「あ、だめだオレ死ぬ……」
「く、くそ!」
ヒュゥゥゥウウ……
麻衣歌が放った炎の大呪文は一瞬でコスギの忍者たちを焼き尽くした。
1人残ったコスギは慌てて煙玉を手に出現させると、思い切り地面に投げつけた。
ボワン!
「今日のところは引き上げる! グッバイだ!」
コスギは煙の中でオフロードバイクのモービルを出現させると、それに跨って逃げていった。
ブゥゥゥウウウウ……
麻衣歌はその様子を見届けると、表情をウットリとさせながら虎一郎に言った。
「武士様、お怪我はございませんか」
麻衣歌が虎一郎を気遣うと、虎一郎は刀を納めて答えた。
「うむ。怪我をするような相手ではなかったが……」
「わたくしは鶴井田麻衣歌と申します。武士様を探しておりました」
「探す?」
するとその時、遠くから愛芽の声が聞こえてきた。
「コイちゃーん!」
「あの声は愛芽殿」
ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ
愛芽は虎一郎の近くにやってくると、側に麻衣歌が居ることに気がついた。
「あ、麻衣歌さん!」
「あら、庶務課の高橋さん」
「麻衣歌さんが見つけたくれたんですか? ありがとうございます」
「そうよ。ちょっと、あなた武士様のお世話役でしょ。遅いわよ。武士様はプレイヤーたちに襲われていたのよ」
「ええ、本当ですか!?」
それを聞いた虎一郎は少し笑いながら愛芽に説明した。
「忍びの者どもが現れてな。ベヒーモスのお菊を奪おうとしたのだ」
「え、ベヒーモスを? でも大丈夫って事はコイちゃんが敵を倒したの?」
「いや、この妖術使い殿が倒してくれた」
「麻衣歌さんが?」
麻衣歌はそれを聞くと、髪をかき上げてセクシーポーズで虎一郎にアピールしながら愛芽に言った。
「高橋さん。世話役が目を離してしまうなんて、世話役失格なのではないかしら? 私が世話役を代わってあげてもいいのですよ」
「す、すみません……」
愛芽が困っていると、それを見た虎一郎が麻衣歌に言った。
「妖術使い殿。この度のご協力、感謝いたす。すまぬが、私は畑を耕すよう将軍様に言われておるのだ。もう行っても良いであろうか」
「え、あ、行ってしまうのですか? よろしければお茶でも……」
「またお会いしよう、妖術使い殿。茶はその時に頂こう」
「え? は、はい……」
虎一郎は麻衣歌に一礼すると、お菊を引いて愛芽と一緒にピンデチの街へと向かった。
ポツン……
1人残された麻衣歌はその場に膝を突くと、虎一郎たちの後ろ姿を見ながら呟いた。
「こ……、このわたくしが、相手にされなかった……? フォロワー数100万人の美人秘書なのよ……?」
ググッ
しかし麻衣歌は両手を握りしめると、大きく息を吸い込んで立ち上がった。
ザザッ
「負けない! 必ず武士様を振り向かせてみせるわ!」
麻衣歌は瞳に炎を燃やしながら決意を固めた。
◆
虎一郎と一緒にピンデチに向かい始めた愛芽は虎一郎に麻衣歌の事を話していた。
「コイちゃん。あの人は麻衣歌さんって言ってね、すごい人気の美人秘書なんだ。社内でも人気なんだよ」
「ほう、あの妖術使い殿は人気者なのだな」
「コイちゃんも、麻衣歌さん美人だと思わなかった?」
「美人? ふむ、そうかもしれぬな」
「へぇぇ、コイちゃん麻衣歌さんに興味ないんだ」
するとその時、前から一台のモービルがやって来た。
ブゥゥンン ザザザァ!
モービルは虎一郎たちの前に止まると、カイトが運転席から飛び降りて来た。
「虎一郎さん、スゲェっすね! ベヒーモスに勝ったんすね!」
「おお! これはカイト殿!」
「心配になって来ちゃいましたよ」
「これは申し訳ござらぬカイト殿。私はこの通り無事だ」
「いやぁ、良かったっす。乗ってってくださいよ、ピンデチまで送ります」
「いや、しかしカイト殿。この乗り物ではベヒーモスのお菊が乗れぬのでは……」
「あ、そっか、まだ知らないんすね。あの、右上に犬の絵みたいの無いっすか?」
「お、おお。これか」
「それ押してみてください」
「うむ」
虎一郎がアイコンを押すとメッセージが表示された。
『ベヒーモスをプライベート・エリアに送りますか?(はい・いいえ)』
「虎一郎さん、そしたら『はい』を押してもらえれば、自分のエリアに送れますよ」
「そうか」
虎一郎が「はい」を選択すると、お菊がその場から消えた。
「お、お菊!」
「虎一郎さん、大丈夫っす。虎一郎さんの家の近くに居るはずです」
「なんと……」
「じゃあ、お2人とも乗ってください。行きましょう!」
こうして虎一郎たちはカイトのモービルでピンデチの街へと向かった。