第6話 虎一郎さんドンマイっす
ブモォォオオオオ!!
子ベヒーモスの咆哮にカイトたちは驚いて足を止め、警戒しながら武器を構え直した。
しかし虎一郎はカイトたちの前へ歩み出ると、それを見た子ベヒーモスも鼻息荒く前から歩み寄ってきた。
しかし、それを見た虎一郎はなんと刀を納めてしまった。
カキン
「え、コイちゃん! 子ベヒーモス来るよ!」
「愛芽殿。縄などは持っておらぬか」
「縄? え、ロープあるけど。はい」
愛芽はロープをアイテム欄から選択して出現させると、虎一郎に手渡した。
「コイちゃん、それどうするの?」
「あのような仔牛など戦う必要もない。縄で引いて帰るほうが早いであろう」
虎一郎はそう言うと、ロープを持ったまま子ベヒーモスの元へ走っていった。
「コイちゃん! え、ちょ、えぇ!?」
ブモォォオオオオ!!
ガシッ!
虎一郎は、鼻息荒く暴れている子ベヒーモスの首を素早く両腕でおさえ込むと、頭に縄を巻き始めた。
「仔牛よ、大人しくせい! 少しの辛抱ぞ!」
それを見ていた愛芽は驚いて声を上げた。
「コイちゃん! モンスターは小さいからって弱いわけじゃないから気をつけて!」
ドガッ!!!
しかし忠告虚しく、子ベヒーモスは角で虎一郎の体を大きく空中へ吹き飛ばした。
「なっ!」
ズシャッ!
ズザザザ…… ゴロゴロゴロゴロ……
なんと虎一郎は岩山の急な斜面に吹き飛ばされ、そのまま下に転がり落ちていった。
「コイちゃん!!」
愛芽は慌てて杖を振り上げると、転がり落ちる虎一郎に急いで回復魔法と防御力強化の大呪文を唱えた。
「この世界に宿りし精霊よ、我にその大いなる力を与えたまえ。万物への愛をもって嘆願する。あの者に癒やしと、守りを与えたまえ!」
ホワッ
すると虎一郎の体が一瞬緑色に輝き、HPが回復され防御力が増された。
ズシャッ!!
虎一郎は山の下まで転げ落ちると、素早く立ち上がって岩山の山頂から覗き込んでいる愛芽に叫んだ。
「愛芽殿、申し訳ござらぬ! 直ちにそちらへ向かうゆえ!」
「うん、わかった! 気をつけて!」
ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ
虎一郎は急いで登山道へ出ると走って山頂へと向かった。
◆
虎一郎が山頂に向かっている間、カイトたちは子ベヒーモスに苦戦を強いられていた。
ブモォォオオオオ!
ガキン、ズシャア!
「くっそ!」
「カイトくん、大丈夫!?」
「愛芽さん助かりました、愛芽さんの防御魔法陣なかったらヤバかったっす」
「ははは、あたし守るのが仕事だから。あ、ほら来るよ!」
「はい!」
ブモォォオオオオ!
するとそこへユメが氷の魔法の大呪文を唱えた。
「凍てつく氷の女神たちよ、我に冷血なる力を与えたまえ。凍る六花の結晶をもって嘆願する。あの者に絶対零度の裁きを!」
ユメの周りに無数の氷の塊が現れると、その塊は一気に子ベヒーモスへ襲いかかった。
ズガガガガガガガガガ!
ドドドドドドドドドド……
氷の塊が子ベヒーモスに当たると、無数の「HIT!」の文字が現れた。
「ユメちゃんナイス!」
「ユメ、いいぞ!」
「ユメちゃん、ほとんど命中!」
「やった! うふふ」
ユメの氷の魔法が子ベヒーモスのHPを大きく削ると、子ベヒーモスは突然4人に向かって突進してきた。
ブモォォオオオオ!
それを見た愛芽は魔法の杖を構えると、みんなに言った。
「みんな、あたしの後ろに!」
「「はい!」」
愛芽はみんなが後ろに下がったのを確認すると、素早く杖で大きな円を描いた。
ブゥーン!
するとその円は即座に青い魔法陣となり防御魔法が展開された。
ガキン!!
ブモォォオオオオ!
突進してきた子ベヒーモスは防御魔法陣に跳ね返されると、その勢いで転倒した。
「いまだジロウ!」
「おう、カイト!」
それを見たカイトとジロウは素早く飛び出すと、子ベヒーモスに走り込んだ。
「えい!」
「おりゃあ!」
ズバッ! ドンッ!
『HIT!』
『クリティカル! +20%』
モォォオオオ……
カイトとジロウが子ベヒーモスにダメージを与えると、子ベヒーモスのHPは10%を切り、静かになって地面に伏せた。
すると4人の視界にメッセージが現れた。
『子ベヒーモスは仲間になりたそうにこちらを見ている。(仲間にする・逃がす)』
「おっしゃ!」
「やった!」
「クリティカルで倒せた!」
「ははは、良かった」
ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ……
「はぁっ、はぁっ! 虎一郎、戻り申した!!」
なんとその時、虎一郎が現れた。
「あ、コイちゃん!」
「愛芽殿、あの牛は!?」
「あ、えっと、みんなで大人しくさせたよ」
「なんと!!」
虎一郎は地面に伏せている子ベヒーモスを見ると、ガックリと膝を突いた。
「こ……、この虎一郎、なんたる不覚……」
それを見たカイトたちは虎一郎に声をかけた。
「虎一郎さんドンマイっす」
「虎一郎さん大丈夫ですよ」
「始めたばかりですから仕方ないです」
「カイト殿、ユメ殿、ジロウ殿……。なんとお優しい……」
虎一郎は3人に深々と頭を下げると、ゆっくりと立ち上がった。
そして再び頭を下げながら、3人に言った。
「お三方のようなお方たちと友人になれた事、心より嬉しく思う。今後とも、どうか宜しくお願いしたい」
「いやいや、虎一郎さん!」
「頭を上げてください、虎一郎さん」
「こ、こちらこそ宜しくおねがいしたいです!」
「え!! やば!!」
愛芽は突然大声をあげると、魔法の杖を構えてみんなに言った。
「親のベヒーモスが登山道を登ってくる! なんで!」
「「ええっ!!」」
すると3人と愛芽の視界にメッセージが現れた。
『制限時間10分を過ぎました。ペナルティが課されます』
「えっ!」
「10分以内に倒したよな!?」
するとユメが原因に気づいた。
「きっと子ベヒーモスを仲間にするか逃がすか選択してなかったから、制限時間が止まらなかったんだ……」
ユメはそう言いながら慌てて「仲間にする」を選択したが、親ベヒーモスは歩みを止めなかった。
「ペナルディは親ベヒーモスだったのか!」
「やばい、絶対勝てないよ!」
愛芽も急いで「仲間にする」を選択したが、やはりベヒーモスは歩みを止めなかった。
「だめだ止まんない! コイちゃん、今からやばいモンスター来るから後ろに下がって!」
「いや愛芽殿、ここは私が。先程の不覚、取り返して見せようぞ」
「いや、ちょっと敵が強すぎっていうか……」
「武士に二言は無し。ここは私が」
「……そ、そっか、わかった」
虎一郎は刀を抜くと、前へ出て下段に構えた。