エピローグ
「や〜〜!! ユイとねる!!」
王城に響く、幼い声。自身の右手をしっかりと掴む幼い王女に苦笑する。
王家の血が強いのか、肖像画で見た出会う数年前のウィスタリア姫とそっくりである。
新王初の子である、ちい姫様は周囲の気配に敏感なようで。人の顔を判別できるようになってから、中々眠れず世話役が困り果てていたらしい。
「ごめんなさい、もう帰らなきゃ……」
それを解消すべく、ここ数日、魔界から戻ってきたばかりだといのに、王宮に呼び出されていたのだ。
三日目となると、ちい姫様も私に慣れて、しっかりとお昼寝をして、先程まで随分ご機嫌だったのだが。
私の退室を促す侍女が来てから、再び火がついたように泣き出したのだ。
気配に敏感な王女は、『安眠の加護』が心地良いのだろう。決して離すまいと繋がれた手は、簡単には離れそうにない。
どうしたものか、と視線を巡らす。すると、呼びに来た侍女の後ろに、見慣れた頭。オリバー様だ。
「ユイ」
「すみません。ダメそうです」
苦笑いで伝えると、オリバー様は深緑の頭を雑に掻きながら、雇い主は膝を折り、ちい姫様に言い放つ。
「困ります、姫様。彼女の雇用主は私ですので」
「せいじょさまは、みんなのせいじょさまでしょ?」
「いえ。私のユイです」
きっちりと整えられた長髪。蜂蜜色の、切れ長の瞳。そんな彼の美貌に壁際に控える侍女は見惚れているが、ちい姫様には通用しない。
「きょうだけでいいの!!」
そう言って、要求が通らなかったことはないのだろう。自身の有利を信じ、一歩も譲らぬ姿勢に、オリバー様は肩をすくめた。
「昨日もそう言いましたよね」
だが、特に利のある訳でもない要求に、オリバー様が応じるはずもなく。また、ちい姫様の権力に屈することもなく。
「駄目です」
バッサリ断った。
「だめっていわれた!! オリバーのけち!!」
はいはい、と一国の王女を雑にあしらいながら、オリバー様は私の左手を取った。目が合うと、蜂蜜色の瞳が緩む。
「彼女なしでは眠れないので」
煌びやかなシャンデリアの下、右手にかわいい我儘姫様に、左手をオリバー様に握られ、私は目を細めた。
きっと今夜も、幸せな眠りが訪れるだろう。
これで、この話は完結となります。
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