協力方法
説明が一段落したのだろう。ノクスが一度、口を閉ざせば。財務卿が、震える声音で陛下に尋ねる。
「…………陛下、この話は、本当なのですか?」
信じられない。いや、魔族の発言など信じたくない、と言ったところだろうか。事前に詳しい同盟の話を聞いていた陛下なら、既に事実確認をしているだろう。
皆の期待を裏切ることなく、国王陛下は落ち着いた声音で説明を始めた。
「魔王からの親書を受け取って直ぐ、筆頭魔術師を始めとした一団を国境付近に派遣している」
詳しい話は、本人からさせよう。その言葉で、美しい銀の髪を一つに束ねた男性が、陛下の後ろから出て来た。
オリバー様の体が硬直する。もしかして、あの人が序列第一位、魔術宮の主にして、筆頭魔術師なのだろうか。
モノクルを掛けたその人物は、波紋一つない泉のような静かな声で、調査結果の報告を始めた。
「魔術宮のうち、魔力濃度測定を専門とする魔術師による調査結果を報告させていただきます」
測定に使った魔術などの簡単な説明と、調査を行った地域と日程。滞在を行った日程で、測定結果を比較していくと。
「結果、大気中の魔力量が異常上昇していることが確認されました。既に、近隣の住民は一時避難させています」
毎日同じ場所、同じ時間に測定を行った結果。日増しに魔力濃度が上昇していることが判明したという。
測定開始日の時点で、魔力濃度は平均を上回っており、魔力を殆ど持たない者が体調を崩し始めるほどだった。
そして、調査最終日には。平均的な魔力を持つ者でも、気分の悪化を感じるほどに上昇していたという。
「……そうか。魔界の雲は魔力から生み出される」
誰かが、ポツリと呟いた。そこからは、波紋が広がっていくように、調査結果から考えられる最悪の想像が、広がっていく。
「雨にも魔力が含まれているなら、それが降れば更に大気の魔力が上がって……」
「魔力事故が起こる」
「異常気象よりも先に、魔力の低い人間は軒並み死んでしまうぞ……!!」
異常気象による、不作よりも。人が住める土地の減少よりも。それよりも、魔力濃度の上昇による影響が出る方が早いだろう。
魔力は濃度が低い方へと移動する。つまり、魔界から流れる雲は、まだ魔力濃度の低いところへ。この国や、さらに別の国へと、徐々に広がっていき。
あっという間に世界を包んでしまうのだろう。そして、全世界で少しずつ、少しずつ、魔力濃度が上昇していき。魔力量の少ないものから死んでゆく。
「今の魔力濃度の上昇幅から、国全体が包まれるまでの予測は……」
「それより、避難先の確保を……」
「他国にも協力を求めるべきでは……」
そんな話が、あちこちから聞こえる中。オリバー様が、私の手を軽く引き、耳元で囁いてきた。
「ユイ。今のうちに退室しよう」
「え」
もう帰ってしまおう、と。陛下は、他の貴族達からの質問対応で忙しい。わざわざ挨拶をし直さず、戻ったところで問題はないだろう。
小さく、早い声で。オリバー様は捲し立ててきて。
「どうして……」
小さな声で、尋ねると。
「巻き込まれる」
と、それだけ、答えた。
「まさか……」
いや、でも。ここまで、まさかの連続が起こっているのだ。
私の加護について、大々的に言及され。魔族との関係について問われ。魔界だけではない、世界的に広がるであろう問題を提示され。
自身の命にも直面する問題だ。みんな、早急に対策を打ちたいだろう。それこそ、この場で方針を決め、今すぐにでも解決に向け、動き出してもらいたいはず。
では、最も解決に近づける方法とは、貢献できる人物とは、誰だろうか。
「どうすれば良いのですか!!」
根本的な解決方法とは、どんな方法だろうか。
「ニュイが魔力を暴走させないようにする、としか言えません」
つまり、なるべく泣かないように、怒らないように。赤子が泣かないのは無理があるので、極力、ぐずらなくて済むように。
子育ての手伝いが、最も必要とされていることだ。
「ニュイが少しでも落ち着いてくれれば、今は世話に手を取られている魔王並びに、魔力の高いものたちで対策が取れます」
ある程度、魔力のコントロールができるようになるまで。魔力を封じて仕舞えばいい、とノクスは言った。
「そちらに関しても、この国に協力をしていただければと思っております」
魔術宮に所属している者のうち、序列上位は魔族にも匹敵する魔力を持っている。その上、魔術に関する知識は人間の方が発達しているのだという。
「協力は惜しまぬ。魔術卿、其方らで対応できるか?」
その言葉に、魔術卿、と呼ばれた筆頭魔術師は頭を垂れた。
「恐れながら申し上げます。封印の魔術を完成させても、強大な魔力の持ち主が受け入れねば、弾かれてしまうでしょう」
魔術以外の方法で、姫を眠らせる必要があります、と。私を見ながら、そう言った。
次回は来週末に更新予定です。




