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安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


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賞賛と悪寒

 国王陛下ご挨拶は、簡単にいうと今年も一年、恙なく過ごしていこうという内容を貴族らしく言い換えたものだった。


 姫様の婚約については発表はしなかったが、兄王子が早々に姫様の側を離れ、婚約者の元に行ったことから上位貴族は顔を見合わせていた。


 些細なことから情勢を読み取ろうとしているのだろう。今から順番に挨拶をしていき、誰が国王陛下に切り出すのか。


 無言の読み合いが行われる中、誰が一番に挨拶に行くのかと思っていたら。


「繰上げのようだな」


 オリバー様が、そう溜息を吐いた。声音でもわかるほど機嫌は悪そうだが、顔を見れば眉間に深々と皺が刻まれていた。


 面倒だ、と顔全面に書いてある。


「ユイ、行こう」


 軽く手を引かれ、つられて小股で歩き出す。


「え、最初ですか?」


 まだ、臣籍降下した元王族や公爵家の挨拶は始まってもいない。普通に考えると、一番に国王陛下へ挨拶をするなんて名誉を貴族が逃すとは思えない。


 だが、歩き出した私たちを咎めるような声が上がることはなく。様子を窺うような視線が向けられるだけだ。


 不安になるほど、静かなホールを歩く。一挙手一投足を見られていると思うと、胃がキリキリしてきた。


「公爵家も我々の動向に興味深々ということだ」


 オリバー様の声音も表情も、いつも以上に硬くて。


「緊張しますね」


「私の腕に捕まっていていい」


「それもどうなんですか……」


 共感を求めてみたのだが、返事は斜め上のものだった。異性への牽制にはなるが、緊張は和らがないし、余計な噂を呼んで視線が痛いほど刺さるだけだろう。


 やんわり辞退して少し歩けば、すぐに国王陛下の御前である。オリバー様より半歩下がった位置で止まって、正式な礼の姿勢をとる。


 静かだった会場が、一層静まり返る。国王陛下が手で合図したことを確認してから、オリバー様が顔を上げた。


「魔術師オリバー・ローレルが、王国の太陽にご挨拶申し上げます」


「よい。楽にせよ」


 これで、私も顔を上げて良いはずだ。だが、発言の許可は貰っていないので、口は開かない。顔を上げ、目があった王妃様に、にこりと微笑む。


 すると、王妃様が目線で国王陛下に合図して、すぐに穏やかな声音で言った。


「ローレル卿、お隣の方を紹介していただけますか?」


「はい。パートナーのユイ・アダチ嬢です」


 目があった時に真逆と思いはしたが、予想以上に紹介されるのが早かった。オリバー様の仕事に関する話からすると思っていたので、慌てて姿勢を正し、喉に力を入れた。


「ユイ・アダチと申します」


 挨拶に未熟な部分は多いが、致命的な失敗はしなかった、はずだ。国王陛下は特に気にすることなく、言葉を続けた。


「そなたが『アイマスク』の考案者か。ローレル卿と共に、ウィスタリアの招待にも応じたそうだな」


「はい」


 基本的に、今の私には国王陛下の言葉を肯定するだけでいい。余計な事を言ってはならないし、そもそも招待を決める前に、それこそ姫様から招待を受ける前に、私の事は調査されているだろう。


 多分、最近になって教会で戸籍登録してもらったことも承知の上だろう。そう考えると、過去もない不審人物を良く招いたものだ、と頭の片隅で考える。


「魔術宮と共同開発製品ではあるが、発案はそなたと聞いている。長年の問題だった、魔術師たちの健康問題改善も含め、その功績は評価されるべきものである」


「勿体無いお言葉です」


「魔術宮での研究成果を利用し、作成された『ホットアイマスク』は文官達の支えにもなっておる」


「私の案を改良してくださった、魔術師の方々のお力によるものです」


 魔術師の研究活動にもなり、活動資金稼ぎにもなり、王宮内での地位向上にも繋がる。一石三鳥の成果が上がっている。


「ローレル卿も、随分と変わったようだな」


「……彼女のお陰で、より一層国に貢献できることを幸せに思っています」


 これで、私のことは終わりだろう。そう、思ったのだが。オリバー様に声を掛けた国王陛下は私に視線を戻した。


 瞬間、嫌な予感が背筋に走った。悪意がある訳ではない。どちらかと言うと、善意による厄介事というか、そんな予感だ。



「また、騎士団に対しても、よく眠るための簡単な呼吸法を伝授したと聞いている」


「……簡単なものですが、お役に立っているのであれば、嬉しいです」


 早く、話を切り上げてほしい。これ以上、長くなると良くない。本能が警鐘を鳴らしているが、国王陛下の話を遮るわけにはいかない。


「遠征中の騎士にとって、睡眠は生死にも直結するものだ。そなたが伝えた技術は、騎士達を大いに助けるものだ」


 おお、と貴族達がどよめく。大々的に褒めすぎだ。普通、功績を上げても褒美は事前に、裏で話をしたりするものではないか。


 こんな中で言われると、何か、断れないものを頼もうとしているとしか、思えない。


「もたらされた知識は、どれも素晴らしいものだ。もしや、そなたは女神の加護を持っているのではないか?」

次回は来週末に更新予定です。

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