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安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


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王宮の輝き

 嫌な予感を払拭すべく、慌ただしく働くこと三日。前日までは忙しさで気が紛れていても、直前になれば緊張してくるもので。


 ドレスに袖を通し、髪をセットし、化粧をしたが。本当に大丈夫だろうかと、鏡の前から動けずにいたのだが。


「ユイ。準備はできたか?」


 コンコンコン、と丁寧なノックと共に尋ねられれば、これ以上鏡の自分と睨めっこする訳にもいかず。


「…………はい」


 最後にもう一度だけ、姿を確認して椅子を立つ。深く息を吸ってから、静かに扉を開けた。


 部屋から出ると、身支度を完璧に整えたオリバー様が立っている。


 姫様の所へ招かれた時よりお洒落なのは、夜会への意気込みか、それとも服飾に興味が出たのか。キラキラしていて眩しいほどだ。


「よく似合っている」


「ありがとうございます。オリバー様も、大変お似合いです」


 今回、選んだドレスはシンプルな形である。貴族ではない私が着飾り過ぎていては、反感を買う恐れがあったからだ。


 スタンダードな形ではあるが、布はアーロン子爵を経由して手に入れた質の良いもの。その上、魔術宮の技術で特別な染め方をして、刺繍やレースも魔術的な要素を取り入れているらしい。


 オリバー様の関係者だと全力で主張するため、色も深緑に差し色は金。オリバー様は同じ布を使って、互いの異性避け効果もバッチリである。

 オリバー様が以前よりお洒落なので、あまり効果がないかもしれないが。


「髪、あげられたんですね」


「ああ。姫様からも散々文句を言われたからな」


 それに、とオリバー様は、私の方を見て金色の瞳を細めた。


「こちらのほうが、ユイの顔が良く見える」


「そ、うですか」


「それに、髪型も服に合わせた方が良いからな」


「そうですね」


 心臓に悪い一言だった。冗談だろうが、他の子に言ったら勘違いすること間違いなしである。


 心を落ち着けるべく深呼吸をし、じっとオリバー様を見つめ返した。


「オリバー様は……、大丈夫ですか?」


 顔、特に目元に隈がないかを確認する。睡眠時間が足りていることは確認していたが、最近の忙しさを考えると、疲れが取れていない可能性はある。


 スキルだけでなく、アイマスクや足湯、簡単なマッサージもしていたが、過度な疲労に対処しきれたかは自信がなかった。


 少々不安になって尋ねると、オリバー様は私の手をそっと取り、問題ないと落ち着いて答えた。


「ユイの力も借りているからな。時間は短かったが、眠れた実感はある」


「怒涛の三日間でしたからね……」


「そうだな。ユイと手紙を読んだ時は焦ったが、国王陛下たちも話を聞いていたのが救いだったな」


 姫様から手紙を貰った時は焦ったものの、国王陛下も夕食の場で同じ話を聞いていたらしい。大急ぎで宰相を始めとした国の重役たちに知らせを送り、翌朝から警備増強の会議が始まったのだ。


 幾らオリバー様が序列第二位の魔術師とはいえ、国王陛下に面会を申し出て、状況を伝え会議を開いて、としていたら半日以上掛かってしまう。迅速に会議を開けて良かった、と帰って来たのはよく覚えていた。


「とはいえ、忙しかったのに変わりは無いが」


「アッシュ様も随分疲れた顔をしていましたね」


 あまりの忙しさに、食事を作る余裕すら無くなったらしく、アッシュ様はここ三日間、晩御飯を食べに来ていた。普段は魔術宮の中でも几帳面で、どれだけ忙しくても手を抜かないアッシュが珍しい、とオリバー様がぼやいたほどだ。


 あまりに疲れた顔をしていたので、朝食用に軽く摘めそうなサンドイッチを渡したらとても喜ばれた。オリバー様が私をエスコートするために参加側に回った分だけ、アッシュ様の仕事が増えているので申し訳ない。


「忙しいのも、今日で終わりだ。そのためにも、早めに行こう」


「そうですね」


 国王陛下から直々に招待を受けている立場とは言え、平民の私が入場ギリギリになるのは大変よろしくない。下の者は早めに行って、待っておくものである。


「手を」


「ありがとうございます」


 夜会は貴族たち中心のものであるから、私は国王陛下への挨拶が終わったらすぐに帰れるのが救いだろう。下手に長居をさせないためか、挨拶の順番も早い。


 馬車の揺れを感じながら、挨拶の手順を思い出す。国王陛下の周りにいて、挨拶した方が良い人の名前と特徴、役職も大丈夫。後は余裕があれば抱き枕の宣伝をして。


「ユイ」


「はい。も、もう着きました?」


 到着はもう少し先だと思っていたのだが。考え事をしている間に予想以上に時間が過ぎたのか。慌てて顔を上げると、オリバー様は軽く首を横に振り、指先で窓の方を示した。


「いや、少し早いが。この辺りから、夜会の会場が見える」


 窓から見てみると良い、と言われ、馬車に掛かっているカーテンをそっと開ける。


「…………凄い」


 白い宮殿を照らす、色とりどりの柔らかな輝き。星がそのまま落ちてきたような、幻想的な光景が、そこにはあった。


「職人によって作られたガラス細工に、魔術師が付与をして光らせている。人手も魔力も金も必要だが、それだけの価値がある美しさだろう」


 年に一度の夜会の日だけの、特別な輝き。その中心に、今から行くのだと。そう思うと、背筋が伸びた。

次回は来週末に更新予定です。

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