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安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


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魔術師と事故

「ユイは、鋭いな」


 そう言って、オリバー様は深く、長く溜息を吐いてから。今日の夜、詳しい話をすると、そう言って。


 そこから屋敷に到着するまで、口を開くことはなかった。



 いつも通りの夕食を終え、風呂を済ませて、隣り合ってソファに座る。スキルで睡眠時間予測を見ると、四時間と短くなっていた。


 余程のストレスなのだろう。膝の上に置かれている手は、冷え切っているのか、力が入り過ぎているのか、随分と色が悪かった。


「オリバー様、無理に話さなくても……」


 抱え込んだままより、人に話すことで少しでも解消できればと思っていたのだが。話さなくてはいけないと思うだけで、心に負荷がかかるなら。

 何も聞かないまま、眠るための対症療法だけを続けていった方が良い。


 そう判断して、やめましょう、とはっきり伝えたつもりだったのだが。オリバー様は力なく首を横に振り、落ち着いた声で言った。


「伝えておくべきことだ」


 これからも、魔術師と関わって行くのなら。知っておくべき内容で、それなら、直接伝えておきたいと。


 ただ、こうしていてもいいだろうか、と右手がオリバー様に握られた。氷のように冷たい。私は、小さく頷き、もう反対の手も伸ばしてオリバー様の左手を包み込んだ。


「王宮魔術師の大半は、魔力差による事故が原因で、家族を亡くしている」


 このタイミングで言うということは、オリバー様もそうなのだろう。


「…………私だけではなく、アッシュも、他の魔術師たちも。両親共に魔術師でない限り、そうである事は多い」


「そんなに……」


 逆に、家族がいないから王宮魔術師になるのだという。この国で、魔法を使えるのは貴族と魔術師だけなのだという。

 事故で家族を失っているから、生活のために魔術師になるしかなかった者が殆どだという。


「私の父は多くの魔力を持っていた。母について詳細は知らないが、ハッキリしている事は、父の魔法が原因で母が死んだ事だ」


「そう、なんですね」


「ただ共に過ごすだけならば、魔力差は大きな問題にならない」


 流石に国王陛下も、事故が起きると分かり切ったうえで、魔王の息子を受け入れる事はないという。


「では、魔法を使った時にだけ起こるのですか?」


 オリバー様が、小さく頷いた。魔法を使わなければ、事故は起こらない。なのに、何故、多くの魔術師が事故で家族を亡くしているのか。


 両親が魔術師である場合や、貴族である場合、事故が起こらないのは何故か。


「……魔力と言うのは、体中に巡っているものだ。魔法を使うというのは、自身の体に流れる魔力を操作し、外に対して働きかける」


「……はい」


「女神の加護、スキルの力は、魔力関係なく現象を引き起こす。そのため、同様の事故は起きない」


 つまり、本来なら魔力を消費し、複雑な過程を経て辿り着くはずの結論だけを取り出すのが、スキルの力なのだという。


「話を戻すが、事故が起こるのは、術者から外に対してのみ働くはずだった魔力が、魔力が少ない他者に流れ込んだ場合に起こる」


 魔力には、濃い所から薄い所に流れていく性質があるのだという。そのため、魔法を使おうとした空間よりも、傍にいた人間の魔力が極端に少ない場合。使おうとした魔法が、その人に流れ込む。


「自身の器に対して、多過ぎる魔力を流された体は、変調をきたす」


 流した魔力の相性や、使用していた魔法の種類にもより症状は異なるが、病のように内側から弱っていき、多くの場合、死に至るのだという。


「これは、術者の制御能力によって防げる事故だ。魔力の流れを、把握し、操作する技量があれば、他の人間に魔力が流れることは無い」


 だが、魔力操作ができる人間は、それこそ高度な教育を受けるか、修練を積んだ者しかいない。


「貴族は幼少期から専門の教師から学ぶ。魔術師も、きちんとした場所に勤務すればある程度の教えは受けられる」


 問題は、平民出身で魔力が多い場合だ。知識も、技術もなく、しかし魔力はあるので簡単な魔法は扱える。生活に困る者は、地味な魔力操作よりも、利便性の良い魔法だけを先に学んでしまう。


 敷居の高い、王宮などの魔術師の試験は受けず、自身の経験の身で魔法を使い、生計を立てていこうとしてしまう。


「普通なら、問題は無い。魔法を扱えるほどの魔力が無くとも、体内に魔力は存在している」


 人間が本来持っている最低限の魔力に、食材から得た魔力。それらの魔力を合計すれば、大気中の魔力量を上回る。


「もしかして……」


 食材などから、魔力を得られなければ。そして、直前に魔法を使ったりして、少しだけ大気中の魔力濃度が高くなれば。


 簡単に、濃度の差がひっくり返ってしまう。そうして、事故が起きるのだ。


「魔力事故は、必ず王宮へ知らされ、術者が捕縛される。自覚なく同じことを行えば、犠牲者は増えるばかりだからな」


 そして、自身の起こした行動の意味を知り、初めて悔いるのだという。そこで、再発防止に努め、教育が普及すればいいのだが。不幸は連鎖する。


「何故か、魔力が多いものは愛が重いことが多い。相手を失ったら生きていけないほどに」


 そのため、夫婦間で事故が起こった場合、子供が残されることが多いのだという。


 子供の魔力は親に影響される。事故が起こるほど、親が魔力を持っていたのなら、子供の魔力も十分多い。そんな子供を放置しないため、また、貴重な魔法を扱える人材を育てる為、王宮魔術師として教育するのだという。


「魔力の流れについて、解明されたのは最近の事だ。これからは、事故は減る」


 だから、安心していいと、そう告げるオリバー様の手は。いまだ、氷のように冷えていた。

次回は来週末に更新予定です。

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