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安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


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距離

 イーサン様のお家に行ってから二日。礼儀作法の授業について、アーロン子爵家の伝手を頼った結果、ミュリエル様に淑女教育を行った方に来て貰えることになった。


 二ヶ月の詰め込み教育となるが、大変優秀な教師だから大丈夫だろう、とミュリエル様からの手紙にあった。


「頑張らないと……」


 夕食の準備をしながら、一人、厨房で呟いた。


 先生に来て貰えるのは三日後から。夜会に参加する為の勉強なので、ドレスを着た状態での所作やダンスに重点を置いて行う予定だ。


「イーサン様のお家から、練習用のドレスもお借りしているし……」


 現在、夜会用ドレスを作成中のお二人から、仕立て直す予定のドレスを幾つか借りているのである。礼儀作法の授業は、これを着て受ける予定だ。


 練習をしても、どうしても動けない場合、早めにデザインを変えてもらう必要がある。その判断のため、様々な型のドレスを借りたのだ。


「毎回、着せてくれるオリバー様にも申し訳がないし……」


 そう。ドレスは一人で着られない。ならば、どうするかと言うと。

 一度見た服装なら魔法で整えられる、オリバー様に協力して貰っているのである。

 

 最近、お洒落に興味が湧いてきたオリバー様本人は楽しそうに魔法を使ってくれている。毎回、化粧も工夫を凝らしてくれているのだが。


 オリバー様の評判を下げないために学ぶというのに、本人の手を取っているようでは本末転倒な気がする。


 ドレスのレンタルも、アーロン子爵家との交渉も、魔術宮での抱き枕開発も。全部、任せてしまっているのである。


「姫様からのお願いもあるのに、大丈夫かしら」


 魔王の子息、姫様の婚約者様と手紙のやり取りを可能にする、という難題に明日までに回答しなければならないのだ。


「睡眠時間は減っていないし、本人も元気そうだけれど……」


 忙しそうではあるが、寧ろ毎日溌剌としている気がする。出退勤の時間も変わっていないし、無理はしていないのだろう。


 一方の私といえば、手紙を書いたり、抱き枕についてまとめた資料を作ったりしているものの、全く屋敷から出ていない。


「そういえば……」


 抱き枕の話を聞きにアッシュ様が、屋敷に来る予定だった。今、仕込んでいる量では夕食が足りなくなってしまう。


 手早く作れそうなものは、あっただろうか。保存食を確認しようと、戸棚の上段に手を伸ばした時だった。


「何か取りたいのか?」


 声が、背後からしたかと思うと。仕事から帰ってきていたオリバー様が、後ろから被さるように私の頭上に手を伸ばしていた。


「オリバー、様。おかえりなさいませ」


 慌てて振り返らなくて良かった、と胸を撫で下ろす。思いっきり頭同士をぶつける所だった。


「ああ。何がいるんだ?」


「あ、えっと。その、一番右の瓶を」


「これか?」


「はい」


 何を取るか考えている途中だったが、思わずそう言ってしまった。中身は全く使う予定がなかった香辛料だが、仕方がないので料理に使うことにしよう。


「どうした?」


「いえ……」


 安眠の加護の効果確認のため、接触面積を増やし始めてから、オリバー様は距離感が近くなった。


 毎日のようにソファで寄り添って過ごしていれば、互いに慣れるのは仕方がないかもしれないが。


 予告なしで背後を取られると心臓に悪い。バクバクと音を立てる心臓を誤魔化すように、胸に手を当てながら口を開く。


「そういえば、抱き枕の開発はどうですか? お忙しいのに、ドレスの話も任せてしまって申し訳なく思っていて……」


 やんわりと距離を取りつつ、少し早口で尋ねると、オリバー様はその場で立ち止まり、丁寧に返事をしてくれた。


「順調だ。形は円柱や三日月、流線形と変更することで、で体への負担を軽減する効果に関しては騎士団も協力してくれている」


「そうなんですね」


 抱き枕は用途によって形が違う。一般的なのは楕円や円柱に近いもの。横を向いて寝る時に姿勢が楽になったり、足を挙げられるので、むくみの解消につながる形だ。


 流線形は、S字形だ。これはどの体勢でも使いやすいが、作るのが大変。三日月形は片膝を上げた横向き寝がしやすい形。妊婦さんに良いらしい。


 他にも、抱きつきながら頭を乗せられるL字形、間に挟まることのできるU字形などもあるので、種類は色々増やせるだろう。


「素材に関しては、もちもち、ふんわり、ひんやり、だったか。冷感素材に関しては、アッシュを中心にアイマスクで使用したものを応用できないか、検討中だ」


「冷感素材は、中身ではなくカバーに使った方がいいかもしれませんね」


「そうか。詳しいことは、アッシュが来てからにしよう」


 そうですね、と頷き、後は配膳するだけの予定だったお皿を手渡す。オリバー様は事前に受け取り、そのまま厨房を出て行った。


 最近のオリバー様は、厨房に入ってくるようになった代わりに、手伝いをしてくれるようになったのである。

 雇い主に手伝わせるのは間違っている気がしていたが、今は大変ありがたかった。


 遠ざかる足音よりも、心音は倍くらい早かった。

次回は来週末に更新予定です。

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