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安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


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着々と

 イーサン様の家から帰り、玄関を開けると、どっと疲れが押し寄せ足がふらついた。これは、よくない。手を壁に伸ばす。


「ユイ、平気か……?」


 そのまま、壁に寄りかかろうとする前に、オリバー様の腕が腰に回される。ぐ、と引き寄せられ、前のめりになっていた体を立て直される。


 普段なら、ここで大丈夫だからと言って離れてもらうが。


「…………疲れました」


「そうか」


 今日は、あまりにも疲れていたことと、この後、安眠の加護のために触れ合う時間を取るくらいなら。今、寄り掛っても大差ないだろうと判断し、そのまま頼ることにした。


「逆にオリバー様は何故元気なんですか……」


 今日は、デザイン画から好みの形を選ぶだけと聞いていたのだが。


 10種類のデザイン、それぞれについての説明だけでなく。提案されたデザインに近いドレスを着たり脱いだり、時に手直しされてまた着たり、兎に角、大変だったのである。


 最後の方、レースのデザインを決める頃には、あまりの疲労で細かな違いが全く分からなかった。


「オリバー様も、色々試してましたよね?」


 オリバー様も、私ほどでは無いが何度も服を試し、合わせる装飾品を選んでいたはずなのだが。


「そうだな。最初はユイに合わせて、言われたものを着るつもりだったが。想像より興味深かった」


 最初は、センスが確かな二人が選んだものならなんでも良い、という態度だったオリバー様だが。

 私のドレスに合わせると言っても、並んだ時の印象をどうしたいかを決める必要がある。その確認をしているうちに、デザインで表現をするという発想が面白くなったらしい。


 格式を守りつつ女性避けができそうなデザインや、魔術師と一目で理解でき動きやすいデザインなど、様々なパターンを考え始めたのである。

 普段から魔術宮で、魔術具の設計や魔法陣を使ったりしているからだろう。デザイン画も美しく、仕立て屋二人との話は大盛り上がりだった。


「今迄、着飾ることに関心はなかったが、女性達が常に流行を気に掛ける理由は理解できた気がする」


「そうですか……」


 奥が深いな、と頷くオリバー様。元々、研究家肌で、一度考え始めると突き詰めるタイプだ。夜会までに、今の社交界の流行りは完全に把握しているかもしれない。


 流行に合わせた柄や色のホットアイマスクならば、女性の興味を引けるだろうか。後で相談してみよう。


「後は完成を待つだけだな」


 衣装に関しては、夜会の一週間前までには完成させます、とのことだった。靴や小物もデザインは決めてあり、購入する準備は整っている。


 後は、今の体型を維持するべく、二ヶ月食生活や運動に気を付ければ、衣装の準備は終わりなのだが。


 私が、夜会に参加する準備は、まだ残っている。


「その事ですが、お願いが……」


「何だ?」


「礼儀作法を、学びたいんです」


 そう。私はこの国の礼儀作法を殆ど知らない。敬語は日本と同じだったので使えるが、貴族的な言い回しもわからない。


 ミュリエル様や姫様に招待された時、最低限のルールは学んだが、付け焼き刃である。正式な夜会で、大人数と相対するには不安が残る。


「大きな問題はないだろう。平民出身であることは見ればわかる」


「そうかもしれませんけど……」


 オリバー様の隣に立つ時に、少しでも相応しい姿でありたいのだ。オリバー様の、ひいては魔術宮の評判を下げるわけにはいかない。


 無言でオリバー様の目を見つめると、はぁ、と小さく溜息を吐かれた。


「……学びたいなら、止める理由はない。だが、女性の礼儀作法となると私では」


 オリバー様自身も、貴族の出身では無い。序列上位となった際、魔術宮の中で簡単な講習を受けたのだと言う。


「当ては、あります」


 以前、相談に乗ったミュリエル様は、何かあったら力になると言ってくれている。貴族子女として教育を受けたミュリエル様なら、指導係の伝手もあるだろう。


「アーロン子爵令嬢か。だが、頼りきりになるわけにもいかないだろう」


 勿論である。私は小さく頷いた。


「一方的にお願いするつもりはありません。以前、ミュリエル様に提供した『抱き枕』を使います」


「技術は魔術宮に売る予定だろう?」


「はい。ですが、今回はアイマスクの時より布や綿が必要になります。その仕入れなどで、アーロン子爵家に利益が出る話にできないでしょうか?」


 平民が学ぶ機会を得るのは難しい。そう考えれば、妥当な条件にならないだろうか。


「成程。アーロン子爵は商会をお持ちのはずだ。交渉してみよう」


「ありがとうございます」


「だが……」


「どうかしましたか?」


 何か問題があるのだろうか。あるなら指摘してほしい、と伝えるも、オリバー様は首を横に振る。


「いや、立案に問題はない。調整を急ごう」


「無理を言ってすみません」


「問題ない。魔術宮にも利益のある話だ」


 魔術宮としても、仕入れの手間を省いて研究に充てたい魔術師が殆どだ。仕入れ先との折衝を子爵家や商会が代行してくれるなら、それで良いのだろう。


 だが、言い淀んだのは、何だったのだろう。少しの引っ掛かりを覚えたものの、聞くこともできず。その日の話し合いは終わった。

次回は来週末に更新予定です。

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