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安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


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なぜ

 崩された、緑の髪の隙間から。金色の瞳が、私をまっすぐ見つめている。


 痛くはないが、しっかり掴まれた腕。そして問い詰めるような口調に、少々驚きつつも返答する。


「オリバー様の屋敷以外で働きたい、といいますか、あの屋敷で働き続けることはできない、が正しい気がしますが……」


 生計を立てるという意味では、ホットアイマスクや、他の安眠アイテムを作れば困ることはないだろう。


 なので、働き続けることはできない、が適切な表現である。


「何故だ」


「何故って……」


 それは、オリバー様の方が理解しているのではないだろうか。この国では、結婚の重要性が高い。

 平民だって、結婚しないものは殆どいないし、貴族に近しいものであれば、尚更。


「私も、成人していますし……」


「知っている」


 初対面の時は子供だと思われていたので、確認の為に言うとオリバー様の声音は一段低くなった。


 同じくらいの年齢だろう、という言葉に小さく頷く。年齢がわかっているのなら、何故理由をわかってくれないのか。


 じ、と見つめ返すと、オリバー様は不機嫌そうな様子を隠すでもなく、口を開いた。


「嫁ぎたい相手でもいるのか」

「え」


 予想外の言葉に、少しの間、何を言われたのか理解できなかった。


 嫁ぎたい相手がいるのか。嫁ぎたいって、誰が。もしかして、私が、嫁ぎたいと思っている相手がいるのか、と言うことか。


「アッシュ、イーサン、他の魔術師や騎士。後は、教会にいたあの子供。それとも姫様に紹介された高位貴族か?」


「……ち、違います」


 次々挙げられた、身近な男性の名前。そして最後の、姫様の言葉を聞いて、ようやく私の話をしていると確信し、慌てて否定する。


 誤解だし、相手にも迷惑な話だろう。


「どうして急に、そんな話を……」


「嫁ぎたいから、屋敷を出て行きたいのではないか」


 誰かに嫁ぐ際に、別の男性の屋敷で働いているのは外聞が悪いからではないか、と言われ首を横に振る。


「年齢と出自を考えてください。嫁ぎ先なんてある訳ないでしょう?」


 冷静に考えてください、と伝えたつもりが、オリバー様は呆れたように溜息を吐いた。


「ユイは加護もちだ。その事実を隠していても、既に王宮内で注目されている。ユイ宛の縁談も、かなりの数持ち込まれている」


「そうなんですか?」


「……知っていて、辞めようとした訳ではないのか?」


「今、初めて知りましたけど……」


 それに、辞めたいわけではないですよ。そう小さく言うと、オリバー様の動きがピタリと止まった。


 掴まれていた手が離される。オリバー様は座面に背を預け、もう一度、大きく息を吐いた。


「なら、何故」


 今日のオリバー様は、質問が多い。だけど、今後のことを考える上で、この話は避けて通れない。


 私は、深く息を吸い、背筋を伸ばし、オリバー様に向き直る。


「……オリバー様が結婚される際に、歳の近い、異性が屋敷に住み込みというのは良く無いでしょう」


 結婚を考える際に、近い歳の異性と暮らしているのはよくない。お互いにその認識があるからこそ、互いの結婚について心配していたと言うことになる。


 なので、次の問題は、結婚する意思があるか否か、であるが。


「私は、生まれが生まれですので。結婚は特に考えていません。ですが、序列二位の魔術師となれば縁談も多いのでは?」


 優秀な魔術師と繋がりを持ちたい人は多いだろう。それに、今日初めて見たが、あの顔だ。女性から声が掛からないはずがない。


「…………それは」


 魔術宮は実力主義でも、婚姻により王宮での影響力を高めることはできるだろう。そうしない理由が、あるのだとして。


「オリバー様。何故、私が辞めることを、反対するのですか?」


 私が屋敷にいるのは、眠るため。それ以外に理由がないのだとしたら。

 必死になって止める理由なんて、どこにもない、はずなのだ。


「辞めると言っても、オリバー様がきちんと眠れるようになってからの話です。食事や家事は、専門の使用人を雇った方が効率はいいですし、レシピだって残します」


 元々、オリバー様が私に求めていたのは、スキルの使用だけだ。眠れるようになれば、それも不要になる。

 掃除や料理は、睡眠環境を改善する為にしていたことだ。


 そう、雇用条件を確認していけばいくほど、『安眠スキル』以外に、私が何も持っていないことが、よくわかる。


「もし、私が生きていけるか心配されているなら、お気になさらず。これでも、成人しておりますので」


 異世界に飛ばされたって、なんとか生活できているのだ。オリバー様の屋敷から出ることになっても、なんとでもなる。


 だから、同情で雇わないで欲しい。それが、後ろ盾も何もない、私の小さなプライドだった。


 でも、もしも。引き止める理由が、別の感情によるものならば。ほんの少しだけ、期待する気持ちがないとは、言えなくて。


「答えて、くださいませんか」


 思わず、視線を落とした先で、緑色のワンピースが馬車に合わせて揺れていた。

次回は来週末に更新予定です。

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