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安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


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内緒の追及

 帰り道。向かい合って座るやいなや、馬車が動き出すよりも早く、オリバー様が口を開いた。


「姫と、二人で何を話していた」


「何、と言われましても……」


 姫様の、夜中に歩き回る原因を調査するための話し合い、としか言いようがない。結局、姫様は呪われたわけでも、夢遊病になった訳でもなかったのだが、オリバー様には伝えていないのだった。


 だが、話の内容は秘密にすると約束している。どう説明したものかと黙っていると、整えられた前髪をぐしゃぐしゃと崩しながら、低い声を出した。


「随分と気に入られた様子だった」


「それは、歳の近い相手と、友人のように話す機会が少ないからではないでしょうか」


 年齢だけで言えば、侍女の方が近いかもしれない。しかし、彼女たちは良識のある、貴族の娘でもある。

 姫様と一対一で話したいと言ったり、恋バナ紛いの事をしたり、ましてや、姫様に相談をすることは無いだろう。


 ただ、物珍しかっただけだ。そう伝えたつもりだったが、オリバー様は小さく息を吐き、足を組んで言及を続けた。


「…………だが、わざわざ王子殿下たちとの茶会に招いたのは、別の理由があるだろう」


 それは、その通りだ。姫様も、敢えて側近が同席すると言っていたし、余程察しが悪くなければ、何かしらの意図があると思うだろう。


「本当に、大したことではないですから」


 十歳以上も歳が下の姫様に、婚約者がいないことを心配されただけです、とは言い難い。にこりと微笑み、口を閉ざすことで言外に効かないでくれ、と示す。


 オリバー様は優しい。聞くな、と伝えれば、そっとしておいてくれるはず。今迄も、私が頓珍漢なことを聞いても、深く事情を聴かないでくれたのだから。


「ならば、私に教えてもいいだろう」


 そういえば、結構、強情なことを忘れていた。初対面の私を、スキル目当てにスカウトするような人なんだった。


「…………姫様が話したことは、教えられませんよ」


「教えられる範囲内で構わない」


 手紙を送ってもらうことを考えると、多少、事情を伝えておいた方が良いだろう。私のことだけなら、姫様との約束を破ったことにはならない。


「姫様が、婚約についてどう思っているか聞きたかったので、私の事情を話しただけです」


「事情?」


「はい。婚約者がいない、という話です。オリバー様はご存じの事ですが」


 オリバー様の屋敷で働く前は教会にいたので、婚約者なんている訳がないのである。


「…………そうだな」


 ついでに言うと、日本にいる時も彼氏はいなかった。仕事が忙しかったので余裕がなかったのである。


「姫様は、私くらいの歳で結婚していないということは、余程事情があるように思えたのでしょう」


 貴族女性は、政略結婚で早くから婚約者が決められていることが殆どのようだし、平民も結婚する年齢は早い。


 この世界において、二十歳を過ぎている私は、完全に嫁ぎ遅れと言われる年齢だろう。


「ですので、姫様にとって、素敵な男性を紹介してくれようとしただけかと」


 どちらかというと、姫様の侍女になるという提案の方がありがたかったけれど。


「そうか」


「はい。私も、いつまでもオリバー様のお世話になる訳にもいきませんから」


 私はともかく、オリバー様は第二位の宮廷魔術師だ。男性なので、女性ほど結婚を急かされることはないのかもしれないが、いつかは結婚する。

 その時に、歳の近い異性が、住み込みで働いていたら相手が不快だろう。


 そう考えると、再就職先は女性の雇用主がいい。


「姫様の侍女は流石に難しいですが、ミュリエル様にお願いして雇っていただけないでしょうか……」


 元々、オリバー様が眠る為に、住み込みで働き始めたのだ。未だ、朝まで完全に眠れてはいないものの、食事や睡眠環境を整えることで改善傾向にはある。

 最近は王宮からの呼び出しもあり、実験も中断していたが、本格的に進め、早急に睡眠の質を改善しなくてはならない。


 おそらく、一度、熟睡できれば。後は自然と眠れるようになるだろう。長期間、うまく眠れなかったことで、眠れないという意識が染み付いていることも原因の一つだと考えられる。


 安眠スキルなしでも、眠れると実感してもらう。その為にも、新たな安眠アイテムの開発に取り組まなければ。


 寝具や香りは既に開発したので、次は光か音。または室内の温度と湿度。手軽なのは音だろうか。


「オルゴールは見かけたことがあるから、それで……」


 そこまで、考えたところで。先程から、ずっと、オリバー様が静かなことに、ようやく気がついた。


「オリバー様……?」


 視線を向ける。動かない。疲れて眠っているのだろうか。いや、それはない。背は椅子から少し離れて、私の方へ乗り出したままだ。


「あの、大丈夫……」


 聞こうとしたところで、そっと、手を掴まれた。いつもより、熱い。


「…………ユイは、私の屋敷以外で、働きたいと思っているのか?」


次回は来週末に更新予定です。

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