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安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


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ドア・イン・ザ・フェイス

「お願い……、ですか?」


「ええ」


 私の両手を握ったまま、姫様は上目遣いのまや、こてんと可愛らしく首を傾げた。人におねだりすることに慣れている仕草だ。


「わたしのところで、はたらいてくれない?」


 よく通る声で、はっきりと聞かれた。その上、小さめな声で、だめかしら、と聞かれたら。

 心情的にものすごく断りにくい状況の出来上がりである。


 しかし、私はノーと言える日本人。正面切って断れずとも、受けられない理由を説明することはできるのである。


「えっと、礼儀作法や身分の問題が……」


 礼儀作法に関しては、今日、来るだけでも不安なレベルだったのだ。

 姫様の侍女となれば、要求される礼儀も教養も水準は国内最高峰。基礎教育すら身につけていない私では、到底無理である。


「そのあたりは、なんとかなるわ」


「そう、なんですか……?」


 教養などは、勉強すれば身につくかもしれないが、身分はどうしようもない。そもそも、この世界で生まれてすらいないのだ。

 後ろ盾も何もない状態で、多くの女性が目指すであろう、姫様付きの侍女になれるとは思えない。


「ええ」


 しかし、姫様は大丈夫だと自信満々に微笑み、どうかしら、と返答を迫ってきた。


「待て」


 どう答えるか、迷っていた私が口を開くより早く。扉付近で待機していたはずのオリバー様が、私の真後ろで、静止の言葉を掛けた。


「ローレル卿」


 姫様に対する態度に、様子を伺っていた侍女長が眉を顰めた。だが、オリバー様は姫様侍女長を無視して話を続ける。


「ユイを雇っているのは私です」


「ユイがきめることでしょう。おきゅうりょうは、いまよりだせるわ」


 マリア。姫様が短く指示を出すと、侍女長が何処から取り出したのか、小さな紙にサラサラと数字を書き、私にそっと見せてきた。


「姫様付きの侍女になれば、月々の給金はこのくらいですね」


「えっ」


 見せられた額は、それこそ、魔導士塔とホットアイマスクの権利契約をした時の額と近いもので。

 あまりの額に思わず、驚きの声を上げてしまった。


「たいぐうはやくそくするわ」


 目を丸くした私に機嫌をよくしたのか、姫様は弾む声で姫様付きの侍女になるべきだと言う。


 待遇が良すぎると、余計な妬みを買いそうで怖い。でも、いつまでもオリバー様にお世話になるわけにはいかない。

 睡眠改善が完了した後のことを考えて、参考までに話を聞いておいた方がいいかもしれない。


「ですが、姫付きになれば、容易に王宮から出られなくなるでしょう」


 それは困る。お世話になった教会には、定期的に顔を出したい。


「あら、そのくらい、きょかするわ」


 なんなら馬車も手配しましょう。全く退く気のない姫様は、にこにこと微笑みながら妥協案を提示した。


「でも、そうね。ユイがくるのは、まいにちでなくてもいいわ」


 今日みたいに週に一度か二度、客として王宮に来るだけでも良いと姫様はいう。

 先に過大要求をして本命の要求を通りやすくする。幼いながら素晴らしい交渉能力である。


「わたしだけじゃなくて、おにいさまたちとも、おちゃしない?」


「お兄様、というと……」


「第一王子殿下ならびに、第二王子殿下ですね。お二人とも、歳の離れた姫様を大切にされていますから」


「おにいさまたちには、それぞれ、そっきんもいるわ」


 仲良くなれるかもしれないわ、と姫様は笑った。話しやすくするために伝えた、婚約者がいないことについて。暗に紹介しようと言っているのだろう。


「姫様、それは……」


 気持ちはありがたいが、婚約者がいないことは焦っていない。本気で婚約者を探すわけではないが、王子の側近となれば忙しいだろう。

 睡眠に関する悩みがないか、聞いてみるのも良いかもしれない。上層部の人間が健康に、効率良く仕事ができれば、国全体も良くなるだろう。


「……そうですね。お招きいただければ、是非」


「駄目だ」


 私の返事を、オリバー様が遮った。整えられていた髪を乱雑に掻き、溜息を吐いた。


「……姫様。本命の要求はなんです?」


「てがみを、おくってほしいの。オリバーならできるでしょう?」


 にこりと笑う姫様に、オリバー様は口元を歪めた。とても嫌そうにしている。


「一応確認しますが、どちらへ?」


「わたしの、こんやくしゃさまに。もちろん、おとうさまたちには、ないしょにしてね」


「姫様、魔術の痕跡を辿るのは簡単ではないのですよ?」


「でも、むりじゃないのでしょう?」


 わたしは、どちらでもいいのよ。目を細める姫様は、子供とは思えないほどの威厳を備えていて。


「…………わかりました。相手方から返事を受け取る方法も考えるので、一週間お待ちください」


「ええ。わかったわ。よろしくね、オリバー」


 ユイも、協力ありがとう。要求を通した姫様を見て、私が思ったことは一つ。王族って、こわい。やはりあまり関わるものではない。


 そう思いながら、私たちは姫様の宮を辞したのだった。

次回は来週末に更新予定です。

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