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安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


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ぎゅっと安心、抱き枕

「ユイさん、どうでしたか?」


「そうですね、普段から睡眠に気を遣っていることが良くわかりました」


 ミュリエル様の生活について、ジャスミンティーを飲む習慣以外は、特に問題は見つからなかった。

 後は、精神面を改善すれば質の良い睡眠がとれるようになるだろう。


「なら、お茶以外に解決方法は無いのかしら……」


 ミュリエル様は眉を下げて言った。お茶を変えるだけで改善するのか、疑問に思っているのだろう。


 どちらかと言うと、現状、お茶に含まれるカフェインの効果も大きいが、眠れない、と思い込む気持ちがかなり睡眠に影響を与えている。


 ミュリエル様が不安に思ったままでは、恐らく、眠りは改善しない。


「いえ。少し、考えがありますので、予備の布団などを借りてもよろしいですか?」


「ええ、構わないけれど……」


 何をするつもりなの、と首を傾げつつ侍女に指示を出したミュリエル様に、にこりと微笑みだけを返す。頭に浮かんでいるのは、寝室の枕元にあった、大きめのテディベア。


 幼少期は、一緒に寝ていたのだろう。テディベアの体は洗いやすそうな素材で、着ている服はタオルに近い肌触りの良い布だった。今は使っていないようだが、丁寧に扱われていたことがわかる。


「ミュリエル様が眠りやすいよう、補助する道具を作ります」


「それは、『ホットアイマスク』のようなもの?」


 ホットアイマスクの評判は随分と良いらしい。ミュリエル様の表情がぱっと明るくなった。


「道具と言う意味では同じですが、もう少し、簡単なものです」


「そうなの……?」


 蒸気を適温にする、といった事は必要ないので、作るのは簡単である。


「お持ちしました。こちらでよろしいですか?」


「ありがとうございます。大丈夫です」


 持ってきてもらったのは、予備の布団と、シーツに枕、そして枕の中に入れるための綿と、裁縫に必要な道具だ。

 枕は思ったよりも大きかったので、まずはシーツを使うことにする。


「まずは、シーツを丁度いい大きさにします」


 ミュリエル様の三分の二程度の長さに布団を畳んでから、くるくると丸めて棒状にする。一枚では足りなかったので、追加で薄いを引き、外側に巻き付け大きくしていく。


「これは……」


 人間の胴体より、一回り細いくらいになったら、最後にシーツを巻きつけて完成である。


「『抱き枕』です」


「枕、なの?」


「はい。名前の通り、抱きかかえるようにして使う枕です」


 これは試作品なので布団をシーツで包んだだけだが、後でミュリエル様の好みに合わせて、綿を入れたり調整する予定である。


「実は、眠る際に何かを抱きしめるという行為は、とても効果的なのです」


「そう、なの?」


「はい。精神的に、とても良いことです」


 抱きしめる行為は、幸せホルモンであるオキシトシンが分泌され、安心感が得られる。

 人間が胎内にいた時と似た姿勢なので本能的に落ち着くのだ。落ち着くということは、ストレスが軽減され、眠りやすくなる。


 元々、テディベアを抱いて眠っていたのなら、横向きで眠りにくいということも無いだろう。


「で、でも、子供っぽくないかしら」


 少し頬を赤くして、ミュリエル様が言った。やはり、昔はテディベアを使っていたのだろう。

 子供っぽいから、と辞めた経験が、抱き枕を使うことに抵抗感を生んでいるのだ。


 私は、なるべく柔らかく笑みを浮かべて、ゆったりとした口調で言った。


「いえ、腕や腰の負担を減らすこともできるので、大人こそ必要なものですよ」


 真剣さが伝わるように、目は逸らさない。抱き枕を使う事はおかしい事ではない、と真正面から伝える。


 すると、ミュリエル様は、ゆっくりと頷いた。


「そう、なのね」


「それと、耳を貸していただいてもいいですか?」


「え、ええ」


 ご結婚なされたら旦那様に抱き着けばよろしいのでは、と耳打ちをする。


 ミュリエル様と婚約者の関係は、話を聞いている限り良好。なら、よく寝るために寄り添いたい、と可愛くおねだりして嫌がることはないだろう。


 テディベアと眠っていたことを知っているような相手なら、なおさら効果がありそうだ。


「……そ、そうね。ユイさんの言う通りだわ」


 顔を赤くしながら、ミュリエル様が頷いた。お互いに安心して眠れるものね、と小声で呟く様子は、年相応で可愛らしい。


「より効果を高めたい場合は、ラベンダー等の香りを付けると良いでしょう」


 いわゆる、ピローミストである。香を焚いても良いし、やり方は幾らでもある。


 自分が眠りやすいように変えて欲しい、と伝えれば、ミュリエル様と侍女が同時に頷いた。


「ユイさん、今日は本当にありがとう」


「効果がなければ、明日にでもご連絡ください」


「ありがとう。でも、何だか大丈夫な気がするの」


 微笑む顔に、不安な色はない。これなら、確かに大丈夫そうだ。


 その時、私の視界に文字が光った。


 『睡眠予測』の文字の下には、ミュリエル様の名前と、予測睡眠時間8時間、の文字が書かれていたのだった。


次回は来週末に更新予定です。

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