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安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


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美容の意識

「よし。準備万端」


 鏡の前に立つ。髪型は崩れていないか、服装は乱れていないかを確認する。


「…………大丈夫、よね」


 自分では後ろ姿や、遠目から見た姿を確認できないので少々不安が残る。思わず、ワンピースの裾を握りそうになった手を慌てて離した。


 自分で自分の手を掴んでいると、控えめなノック音が響いた。


「ユイ? そろそろ支度はできたか?」


「はい。大丈夫です」


 これ以上、オリバー様を待たせる訳にもいかない。もう一度だけ鏡を確認してから、扉を開ける。


 無言である。じっと見られていることは分かるが、オリバー様は何も言わない。


「どう、でしょうか」


 着る途中で間違えただろうか。髪型がこの世界の常識とは食い違っているのか。どこか、失礼な要素があったのか。


 それとも、純粋に、似合っていないのだろうか。


 内心、焦っていたのだが。オリバー様は、ふ、と柔らかく息を吐いた。


「…………よく、似合っている」


「あ、ありがとうございます」


 いつもより、声に感情が乗っている気がして。返事の声が上擦ってしまい、俯いた。


 少し考えたら社交辞令だと分かるのに。顔を軽く仰いで、熱を冷ました。


「どこからどう見ても、貴族のご令嬢だ」


「それは流石に言い過ぎですよ」


 取り敢えず、見た目は問題ないようだ。後は、オリバー様に借りた本による、付け焼き刃の礼儀作法が通用すると信じるだけだ。


「……本当に一人で平気か?」


「大丈夫です。呼ばれているのはお茶会ですし、オリバー様に同行してもらう訳にもいかないでしょう」


 不安はある。だが、今日の招待は令嬢との茶会という名目になっている。男性は基本立ち入れない。


 そんな話をしているうちに、玄関で呼び鈴の音が鳴る。アーロン子爵家から、迎えの馬車が来たようだ。


「では、行って参ります」


「ああ」


 馬車に乗るまで、オリバー様に見送られ。アーロン子爵邸へと向かった。



「此処が、アーロン子爵邸……」


 門が開き、そこから更に、馬車で移動すること少し。ようやく辿り着いた玄関は、普段見慣れて屋敷に比べ、はるかに豪華だった。


 オリバー様の、上位魔術師に与えられた屋敷も、教会近くの平民の家に比べて広い。だが、それとは桁違いの豪華さである。


 これが、貴族の屋敷。圧倒的な差に気押されていると、屋敷の中から身なりの整った男性が現れた。


「お待ちしておりました」


 執事らしき男性に誘われるまま、ホールへと入る。床まで美しく磨かれたホールの中央に、目的の人物は立っていた。


 美しく波打つ金髪。長いまつ毛に縁取られた緑の瞳。深い青色のドレスが、吊り気味の瞳と合わさって落ち着いた印象を与えている。


「ユイさん。今日は来てくださってありがとう」


 丁寧なお辞儀をするミュリエルさんは、正直、同性である私も思わず見惚れるほどの美しさだ。


 外見はもちろん、細部の所作が美しさを形作っている。これが、貴族というものなのだろう。


 心の中だけとはいえ、さん付けで呼んでいたことを後悔するほどだ。


 気を引き締めながら、自身ができる最大限のお辞儀を返した。


「ミュリエル様。こちらこそ、お招きいただきありがとうございます」


「早速、中庭に案内するわ。ついて来てちょうだい」


「はい」


 ミュリエル様に連れられ向かった中庭は、様々な花や木が植えられており、どこを見ても絵になる光景だった。


 少し開けた場所に、ガゼボ、というのだったか、休憩用の小さな建物があり、そこでお茶をするようだ。


「そのワンピース、とても似合っているわ」


「ありがとうございます」


 少し何か言いたそうだったが、ミュリエル様は小さく首を横に振る。


 そして、にこりと微笑みながら椅子に座るよう促された。控えていた侍女がお茶を注ぎ、別の侍女がテーブルにケーキを並べたところで、ミュリエル様が口を開いた。


「早速だけれど、本題に入るわね」


「はい」


「悩みというのは、以前話した通り、睡眠不足の事よ。夜会の知らせと、婚約者からの手紙が来てから1週間、眠りが浅くなった気がするの」


 最初は、久しぶりの逢瀬が楽しみなだけで、すぐに落ち着くと思っていたらしい。


 しかし、徐々に肌の調子が悪くなり、眠れないことへの焦りがでてきたのだという。


「今は、万全でない状態を、あの方に見られるとなると気が塞いでしまって……」


「更に寝つきが悪くなった、と」


「……ええ」


 完全に悪循環に陥ってしまったようだ。肌の調子は化粧で誤魔化せるから気にしなくても、と他人が言っても、本人にとって重大なことだ。


「色々と、睡眠に良いと言われているものも、試してみたの。でも、あまり効果がなくて」


 そう言いながら、ミュリエル様がカップに口をつける。流れで私も口を付け、あることに気付いた。


「……今日のお茶もハーブティーですね。最近、飲まれることが多いのですか?」


「ええ。ジャスミンティーは美容にも良いというでしょう?」


 確かに、ジャスミンティーはリラックス作用や血流改善、腸内環境改善や抗菌効果がある。


「ミュリエル様。このお茶は、寝る前にも飲んでいるのでしょうか?」


「ええ。どうしたの?」


 ジャスミンティーには、一つ、注意点がある。それは、カフェインが含まれていることである。

次回は来週末に更新予定です。

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