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安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


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乙女の招待

 ミュリエルさんが去って暫く。鐘が鳴ってすぐに、オリバー様は帰ってきた。手には昨日と同様、書類の束だ。


「おかえりなさいませ」


「ああ」


 気怠げな低い声。随分と疲れているようだ。忙しかったのだろうか、と顔色を窺いつつ尋ねる。


「夕食の準備はできていますが、すぐに食べられますか?」


「頼む」


「はい」


 今日は卵と青野菜の炒め物である。卵は血の巡りを改善してくれるし、青野菜は苛立ちを鎮める作用もある。

 心を落ち着かせ、血流を整える。夕食には良い食材たちである。


「何か、問題はあったか?」


 皿を配膳していると、上着や鞄を置いて来たオリバー様が座りながら聞いてきた。


「そうですね、問題というわけではないですけれど……」


「あったのか……」


 家から出てないはずだろう、と呟くオリバー様に苦笑いを返す。私も、今日の出来事で女神の加護の影響力を実感した。


 神父様から聞いていた私も驚いたので、オリバー様が驚くのも無理はない。できる限り混乱させないような言葉を選んで、説明していく。


「アーロン子爵家のミュリエル様が、ご相談にいらっしゃいました」


「アーロン子爵令嬢が? 中に入れたのか?」


「いえ。玄関で扉越しにお話を伺っただけです。本人が開けなくていいと仰ったので」


「そうか」


 流石に、家主の許可なく人を入れるような真似はしない。オリバー様の場合は、研究結果などの機密事項も多そうなので、気を付けている。


 ミュリエルさんが睡眠不足に困っていることを伝えると、オリバー様は突然の訪問に納得しつつも、懸念事項もあるようだった。


「どこからユイの話を仕入れた?」


「オリバー様の事をご存知でしたし、魔術宮や騎士団の訓練場に行ったことも知っていたので、お知り合いかと思ったのですが……」


「名前は知っているが、直接の面識はない」


 それに、魔術宮や訓練場に行ったことは、関係者以外に話したりはしていないらしい。


 偶然見かけた人にまで口止めはしていないが、普段、魔術宮や騎士団と関係がないアーロン子爵が知っていることはおかしいのだという。


「……考えても仕方がないな。それで、令嬢は何と?」


「後日、オリバー様宛に、正式に依頼されるとのことでした」


「…………つまり、アーロン子爵からの依頼か」


 オリバー様が溜息を吐いた。雇い主であるオリバー様に話を通すべきだと思っていたが、貴族からの正式な依頼になると逆に面倒だったのだろうか。


「ご迷惑でしたか?」


「いや、大したことではない。話の出所も探れるから好都合だ」


 私が嫌でなければ、引き受けた方が恩が売れるので、今後の魔術宮での活動が楽になるらしい。


 嫌なら断ってくるが、と確認されるが、私は首を横に振る。


「私としては、力になりたいと思っています」


「わかった。話をしておこう」


「ありがとうございます」


 婚約者に一番綺麗な姿で会いたいという乙女の気持ちに寄り添うことが、自身の成長にも繋がる予感を抱きながら、私は頭を下げたのだった。



 二日後。アーロン子爵家との話し合いも纏まり、ミュリエルさんの都合が良い日に訪問することになったのだが。


 日程を知らせる手紙の中には、もう一枚、同封されているものがあった。


「お茶会、ですか……?」


「…………ああ」


 入っていたのは、お茶会の招待状。折角なので、中庭の花でも見ながら話をしたい、と手紙にも書いてある。


 貴族の令嬢が人を呼ぶには、お茶会の名目が必要なのだろうが、少々困ったことになった。


「アーロン子爵家でのお茶会、ですよね?」


「そうなる」


「服、このままで大丈夫、ですかね……?」


 貴族の家に入れるような服を、私は一切持っていないのだ。王宮には何度か言ったが、動きやすい普段着のまま行っていた。


 日程はいつでもいい、と返してしまったばっかりに、書かれているのは翌日の日付。

 今から買いに行っても間に合わないし、そもそも売っているような店もわからない。


「服は、そう、だな……」


 オリバー様の反応から、普段着で行くのは不味いということも察せて、いよいよ焦りが募る。


「少し、待っていてくれ」


 そう言って、オリバー様が自室へ戻る。暫く待っていると、オリバー様は深緑色のワンピースを手に戻ってきた。


「昔、母が着ていたものだ。少々形は古いが、生地は良い。失礼にはならないだろう」


 金の刺繍がされてワンピースは、品が良く上品なデザインだ。


「良いのですか?」


 確かに、これなら問題はないだろうが、お母様のものを借りても良いのだろうか。

 オリバー様が持っているということは、これは恐らく、お母様の形見なのでは。


 そう思ったが、オリバー様はあっさりと私にワンピースを手渡した。


「誰かに着られた方が良いだろう」


 ユイになら似合うだろう、と答える声は柔らかい。


「ありがとうございます」


 これで明日は問題ない。ほっとしつつ、ワンピースを改めて見る。


 お母様のものなら当然かもしれないが、オリバー様の髪と同じ、深緑色だ。そう思うと、何だが心強く感じるのだった。

次回は来週末に更新予定です。

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