表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/67

貴族令嬢

 扉越しとは言え、誠実さの伝わってくるその声に。思わず、自分から話を切り出してしまった。


「あの、どのようなことでお悩みで……?」


 女神の加護によって引き寄せられた出来事ならば、私が解決することが重要なのだろう。


 助けて、としか言われていない。しかし、私に話を持ってきたということは睡眠に関することだろう。


 そう思って続きを促したのだが、飛び出してきたのは意外な単語だった。


「貴女、2ヶ月後に王家主催の夜会があることはご存知?」


 王家主催の、夜会。そのような単語を聞いたことすら無かったのだ。開催予定など知っているわけもなかった。


「存じ上げません」


「そう。つまり、貴族子女の大半が集まる、重大な機会があるのです」


「はい」


 丁寧な説明が始まった。夜会に呼ばれているのは騎士爵以上を持つ貴族とその子女。


 当然、役職持ちである、オリバー様達宮廷魔術師も含まれるという。


「貴族同士の交流の場ですから、マナーは勿論、服装なども大切なのです」


「はい」


 夜会に相応しい礼儀作法や話題を身につけておくことは最低条件。


 そのうえ、服装人しては、流行を押さえつつ自身の領地の特産や役職を活かした要素を取り入れることが必要になる。


 相手の服装を褒める時の為に、領地の特徴や功績について知っておく必要もある、情報の戦場なのである。


「その日に向けて、わたくし達は自身の体を磨き上げるのです」


 美しく着飾ることが宣伝効果を発揮することもあり、貴族女性達は日々社交のために美しさを保つのだという。


 美容は趣味ではなく、義務なのである。


「ですが、今、大変な問題が発生しているのです」


「もしかして……」


 夜会に対するストレスで、眠れなくなっているのだろうか。


 顔合わせの場となれば、見合いの意味もあるだろう。当然、周囲からの期待は膨らみ、求められる水準も高くなりやすい。


 声の主は、ええ、と肯定した。


「久しぶりに婚約者に会えると思うと、全く眠れないの」


「なる、ほど……?」


 予想と違う答えだった。既に婚約者はいたらしい。久々に会えるとなれば緊張もするだろうが、この場合は楽しみで眠れない方だろう。


「でも、眠れないと肌の調子が悪くなるでしょう?」


 眠れていないことには違いないので、取り敢えず、話の続きを聞くことにする。


「そうですね。睡眠不足では肌荒れもしますし、太りやすくなることもあります」


 寝不足だと交感神経が優位に働き、男性ホルモンが活性化して皮脂分泌が増加して肌荒れを引き起こす。免疫力も低下するのでニキビも増えやすくなる。


 逆に長時間寝すぎると、自律神経が乱れてホルモンバランスが変調し、肌のターンオーバーが乱れることで肌荒れを引き起こす可能性がある。


 肌のためにも、適度な睡眠を規則正しく続けることが重要なのだ。


「ふ、太るのですか?」


「はい。睡眠不足の日には、いつも以上にお腹が空くことはありませんか?」


「そう言えば、甘いものを食べたくなることが多いわ」


 睡眠不足によって、食欲を抑制するホルモン『レプチン』の分泌が減少する。その上、食欲増進ホルモン『グレリン』の分泌が増加するのだ。


 そのため、ついつい炭水化物や甘いものを食べたくなってしまうのである。


 また、睡眠不足によって日中の代謝が悪くなり、消費エネルギーが低下するので更に太りやすくなる。


「そのような事態を防ぐためにも、睡眠は重要なのです」


「そうなのね……」


 そういった事実を専門用語を省きつつ説明すれば、相槌を打ちながら、しっかり聞いてくれた。


「では、どうすればいいの?」


 規則正しい生活に関しては、使用人に起こしてもらうなど、工夫できるだろう。


 食生活に関しても、避ける食材と摂取する食材を伝えれば取り入れることも可能だ。


 しかし。それで解決できるとは限らない。


「原因は人によって違いますので、詳しくお話を伺わないと答えられません……」


 人によって睡眠不足の原因は違う。その人に合った対処をしなければ、逆に寝不足を加速してしまうかもしれない。


「このような状況では、難しいでしょうね」


 すんなりと納得してもらえてよかった。突然押し掛けてきたが、扉を開けなくてもいいと言ったり、思ったよりも常識的な人だった。


「突然押し掛けてしまって、ごめんなさい。ローレル様にお話を通せば大丈夫かしら?」


 私に話を聞くためにオリバー様の屋敷に来ており、魔術宮や訓練場に行ってことを知っていたのだ。


 オリバー様に依頼するための伝手は持っているのだろう。


「はい。お名前を教えていただけたら、私からもオリバー様に伝えておきます」


 いきなり私に依頼したい、と言っても不審に思ってはいけないので、今日帰ってきてから伝えておいたほうがいいだろう。


「そう。お願いするわ。わたくしは、アーロン子爵家のミュリエル。貴女のお名前は?」


「ユイと申します」


「ユイさん、今日はお話を聞いてくれてありがとう。お父様から正式に依頼させてもらうわ」


 お時間取らせてごんなさいね、と言い残し、ミュリエルさんは去って行った。


 顔も知らない相手だが、力になりたいと、そう思えたのだった。

次回は来週末に更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ