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安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


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求める人は

 神父様への相談の後、ジャックくんたちを呼んでもらい、簡単な近況報告をした。


 みんな、随分と私の事を心配していてくれたようで、オリバー様の屋敷での生活や王宮での出張相談について根掘り葉掘り聞かれた。


 話をしているうちに時間はあっという間に過ぎていき、気付けば迎えに来た御者が教会の中に呼びに来ていた。


「今日はありがとうございました。また、近いうちに来たいと思います」


「はい。いつでも来てくださいね」


「ユイ、今度は本当にすぐ来いよ」


「約束ね」


 神父様と、ジャックくんとクロエちゃんに見送られながら馬車に乗る。クロエちゃんが手を振ってくれたので、窓から見えなくなるまで手を振り返す。


 教会が完全に見えなくなって、馬車の車輪が単調な音を立てるようになってから、一人、深々と溜息を吐いた。頭にあるのは、やはり、神父様の言葉である。


「遠征部隊への同行、くらいはありえるかしら……」


 魔王の存在。自分がこの世界に訪れた意味。『安眠』スキルの使い道。色々なことが頭に浮かんでは、泡のように消えていく。


 何か、自分から行動を起こした方が良いのか。その場合、何をすればいいのか。魔王について調べることはできるのか。


 結局、何も答えは出ないまま、屋敷に到着したのであった。



 教会に行った日の夕方、オリバー様は予定通り帰宅したものの、手には書類の束を持っていた。顔を合わせるなり申し訳なさそうに目を伏せられて、察した。


「あの、お忙しければ、簡単に食べられるものを準備しますが」


 そう提案すれば、オリバー様は少し迷うそぶりを見せたが、書類と私の顔を見比べ頷いた。


「すまない、頼む」


 雇用初日に、私的な空間で仕事をすることが睡眠に与える影響については説明している。そもそも王宮全体で時間外労働に対する規則は厳しくなっている。


 それでも持ち帰ったということは、余程重要な仕事なのだろう。残した仕事が気に掛かり過ぎても眠れないので、本人が良いと思う所まで仕事をしてもらった方が良い。


「お部屋に持って行きますので、気にせず作業されてください」


「ああ。書斎で作業するつもりだ。そこに頼む」


 それにしても、随分な量の書類である。単純に目を通すだけでも、今日中に終わりそうにない。


「よろしければ、明日の朝も片手間に食べられるものにしましょうか?」


「助かる」


「いえ」


 サンドウィッチなど手軽なものを準備しておけば、もし早めに仕事に行くことになっても対応しやすいだろう。夕食を届けてから、早速仕込みをしておこう。


「明日だが」


 夕食の準備に行こうと踵を返したところで、オリバー様に呼び止められた。


「色々と動き回ることになりそうだ。悪いが、馬車は使えない」


 つまり、教会にはいかない方が良いのだろう。今日顔を出したばかりなので、素直に頷いた。


「わかりました。屋敷の中で過ごしますので、大丈夫です」


「必要なものがあれば手配はしておく」


 食材も、アロマキャンドルなどの材料も、今は十分在庫がある。一日くらいは問題なく過ごせるだろう。

 大丈夫です、と首を横に振る。


「今のところ問題ありません」


「そうか。ならいいが」


 それだけ言って、オリバー様は書斎へと進む。その足取りは重く、疲れていることが伝わってくる。


 ここ数日、睡眠の質があまり良くない上に、仕事も忙しいのであれば疲れて当然だろう。それでも、私に何も言ってこないのは。


「今はオリバー様に、私のスキルは必要ないということかしら」


 女神の加護が、今は私の出る幕ではないと判断しているのだろうか。それとも、オリバー様以外の、もっと私のスキルを必要としている人が言うということだろうか。


「どちらにせよ、今迄の頻度を考えると、そろそろ何かありそうだけど……」


 加護に導かれるまま、今迄過ごして、少しずつだが周囲の環境は良くなっている。だから、これからも加護によって出会った人を、スキルで助けていくことが一番いいのだろう。


 いつ、何があっても対応できるように。心構えだけは、しておかないと。神父様の言葉を胸に、私は小さく頷いた。



 そして、オリバー様と殆ど会話することなく迎えた翌朝。いつもより早く出勤していったオリバー様を見送り、仕事始めの鐘をききつつ、休憩がてらお茶を飲んでいた時間。


 玄関に置かれている、来客を知らせるベルの音が鳴った。


「…………来客があるとは、聞いていないのだけど」


 物音を立てないように玄関に向かい、扉の外の様子を伺う。人の話す声はない。一人で着ているのだろうか。


「誰もいらっしゃらないのかしら」


 聞こえてきたのは、不安げな、か細い声だった。出直すべきかしら、いやでも、今日を逃せば間に合わない、と小さな声で呟いている。


 私は、小さく息を吸って、しかし扉は開けないままで、返事をした。


「あの、どのようなご用件でしょう」


 声を掛けると、相手は随分驚いたようで、上ずった声で、所々言葉を詰まらせながらも私に話しかけてきた。


「あ、えっと、突然、ごめんなさいね。でも少し、どうしても聞きたいことがあるの。扉は開けなくてもいいから、少し、時間、いいかしら」


「えっと、少しでしたら、大丈夫です」


 扉も開けなくていい、と言うような相手だ。悪い人とは思えないし、話を聞くくらいは良いだろう。


「最近、魔術宮や騎士団の訓練場に出入りしている女性というのは、貴女のこと?」


「間違いでは、ありませんが……」


「よく眠るための秘訣を教えてくれると聞いたのだけど」


「事実、ですね」


 その質問を聞いて、私は確信した。次に私が向き合うべきは、この人なのだと。


 私が口を開くより早く、扉越しに、その人は言った。


「どうか、わたくしを助けていただけないかしら」

次回は来週末に更新予定です。

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