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安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


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開発契約

 騎士団の訓練場から魔術宮に到着と、アッシュ様はいつも通り穏やかな笑顔で迎え入れてくれた。


「オリバー、今日は此方に顔を出せないのではなかったのですか?」


「予定が変わった。ユイに話があると言っていただろう」


「話……、ああ、あの件ですね」


 内容は、安眠アイテムを魔術宮で作成したい、と言う話だった。

 ホットアイマスクは魔術宮の中で人気アイテムとなっており、継続的に利用したい魔術師が多いという。


 これからもアイテムを使い続けるとなると、私一人では生産が追い付かない。そこで、アイテムを製作し、流通させる権利を魔術宮に売ってほしいという話だった。


「勿論、技術料として売り上げの一部をユイさんにお支払いします。恐らくですが、オリバーの屋敷で働かなくても暮らせる額になるでしょう」


「そんなに、ですか」


「はい。所属している魔術師だけでなく、家族や友人も興味を持つでしょうから」


 実際、奥さんにホットアイマスクを何枚か譲った魔術師もいるらしい。その話を聞いて、本格的に量産してはどうかと魔術宮の中で意見が出たという。


 正直、アイテム作成自体はスキルの力で簡単にできるので問題ない。


 が、皆が快適に眠れる環境を作る為には、この世界での技術で量産できた方が良い。開発の途中に改善案を思いついて、より良いアイテムができるかもしれない。


「私としては、是非、お願いしたいと思います」


「本当ですか? ありがとうございます」


 アッシュ様の表情がぱっと明るくなった。これで一気に悩み事が片付きました、と両手を組んで私に対して祈りを捧げそうな勢いである。


「正式な書面は、条件を詰めて明日にでも」


「わかりました」


「基本、他の権利同様の内容にします。一応、オリバーも確認してもらえます?」


「ああ」


 オリバー様が一緒に確認してくれるのなら安心である。参考に、一般的な権利契約書を見せてもらったが、日本でいう所の特許権に近いもののようだ。


 内容も私に不利益は無いので、基本このままで大丈夫そうだ。そのことをアッシュ様に伝えると、ありがとうございます、と再び礼を言われる。


「これで楽になりますね。研究は任せても?」


「ああ。総務宮、財務宮、商工宮への対応は」


「そちらは僕と筆頭がやります。根回しは得意ですから」


「騎士宮は味方に付くだろうからな」


 アッシュ様とオリバー様は次々単語を交わしていく。研究、他の宮、そして、根回しと言う単語。それが安眠アイテムの関係について、わからないほど、察しは悪くない。


「あの、アッシュ様のお悩みと言うのは……」


「若手魔術師の研究内容の決定と指導、魔術宮の成果実績確立と外資獲得、王宮内での地位向上その他、もろもろの悩みがありましてね……」


 物凄く、政治絡みの話であった。どこの世界でも管理職とは辛いものらしい。


 特に、研究資金獲得は大変なようで、成果がなければ予算が減らされるので、成果を上げつつ自力で資金を稼ぐ必要もあるらしい。


「大変ですね……」


「まあ、魔術宮の中でも責任ある立場ですからね」


 その悩みは、同じく序列上位であるオリバー様も抱えていたようで。二人は深々と溜息を吐いた。


「王宮内の小競り合いをユイが気にすることは無い。基本、勝手に金が入って来るだけだ」


 ちなみに、支払いは魔術宮から現金か同程度の価値あるもので行ってくれるらしい。

 銀行口座を作れば其方に払込もできるようだ。口座がないので、それはまた考えたい。


「ホットアイマスクは期待できる商品ですから、早めに量産したいですね」


「魔術師以外にも需要はあるからな」


 同じく書類仕事が多い文官や、裁縫や細かい作業をする女性にも需要はあるだろう。

 香りや素材を変えることで付加価値も付けやすく、持ち運びしやすい大きさなので売る場所も限られない。


 商材として優秀だろう。小さく頷くと、アッシュ様も微笑んだ。


「明日の契約金だけで、かなりの額になりますよ」


「オリバー様のお屋敷で働かなくていいくらいですか?」


 オリバー様は嫌そうに、低い声で肯定した。平民として暮らすなら、3ヶ月は暮らせる額らしい。

 嫌そうながら丁寧な説明の後、私に向き合い、ぽつりと言った。


「…………仕事は、続けてもらえると有難い」


「勿論です」


 まだ、オリバー様の眠りは完璧にはほど遠い。一人で朝までぐっすり眠れるようになるまで、仕事を投げ出すようなことはしない。


 私がにっこり微笑むと、オリバー様は、そうか、とだけ答えた。


「書類はどうしましょうか。明日、屋敷まで伺っても?」


「いえ、わざわざそんな……」


 オリバー様が出勤する時に私が一緒に馬車でくれば済む話だ。忙しいアッシュ様が、わざわざ屋敷まで来る必要はない。

 そう思ったのだが、オリバー様が待ったをかけた。


「……魔術宮が頼む側だ。屋敷まで来るのが礼儀だろう」


「そうですよね。では、明日の昼に伺います。オリバーはどうします?」


「同席する」


 結局、一度出勤したオリバー様が、アッシュ様と一緒に昼に帰ってくることになってしまった。


「では、せめて昼食は準備させてください」


 部外者が魔術宮に長時間いても邪魔だろう。だが、移動時間を使わせてしまうお詫びに、せめて出来立ての昼食を食べてほしい。


「……わかった」


「ありがとうございます、ユイさん」


 二人は困ったように、しかし嬉しそうに頷いた。


「では、今日はこの辺りで。オリバー、気を付けて帰ってくださいね」


「ああ」


 アッシュ様はこのまま別の宮に行くようで、私たちと一緒に馬車を待つため外に出る。


「風が少し強いですね」


「ユイ、私とアッシュの後ろに」


「ありがとうございます」


 私は二人を風除けにして、じっと馬車を待ったのだった。

 風はそこまで、強くなかった。

 

次回は来週末に更新予定です。

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