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安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


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原因理解

 あの後、話し合いの結果。前回同様、私は騎士団に出向くことになった。


 騎士団全体で問題になっているとなると断ることは難しく、オリバー様は不承不承といった体で首を縦に振ったのだった。


「ユイ、準備はできたのか?」


「はい。今日は持っていくものもあまりないので」


 とはいえ、私一人で王宮に行くわけにもいかず。今回もオリバー様が一緒に来て下さることになった。


 昨日の夜のうちに今日の朝食の準備も、夕食の仕込みも終わらせておいて、今は持ち物の最終確認中である。


「オリバー様は、本当に宜しかったのですか?」


「ユイのお陰で魔術宮の状況は改善している。一日くらい問題はない」


 筆頭からも着いていくよう指示が出ているからな。オリバー様は穏やかな声で言った。

 相変わらず目元は癖のある緑の髪に邪魔され見えないが、どんな感情なのか声音で判断できるようになってきた気がする。


「その手に持っているのはなんだ?」


 手の中にある、鞄の金具をぱちりと留めた。昨晩、オリバー様に貸してもらった皮の鞄は、丈夫で軽く、肩掛けの部分は柔らかい素材でできている。


「最低限の道具というか……」


 今回はストレッチと呼吸法を教えに行く予定だが、それだけ改善しない人もいるだろう。そのために幾つかの安眠アイテムと、役に立ちそうな材料も鞄に入れておいた。

 後は、筆記用具とメモ用紙である。鞄一つにまとまる量で、物凄く重たいというほどでもない。


 そう思ったのだが、オリバー様は小さく溜息を吐いて、私に手を差し出した。


「此方に」


「え、でも」


 大して重たくもない鞄を雇い主に持たせるというのは、雇われている側としてどうなのか。

 ぎゅっと鞄の紐を握り締めていると、もう一度、今度は先程よりも一段低い声で、鞄を差し出すよう促される。


「今日行くのは騎士団だ。訓練場は広い。今から疲れていては本末転倒だ」


「では、お言葉に甘えて……」


「ああ」


 扉を押さえて貰っている間に、早々に馬車に乗る。ゆっくりと動き出した馬車の窓からは、雲ひとつない空が見えていた。



 仕事始めの鐘が鳴るより前に、私たちは騎士団の訓練場に到着した。オリバー様が先に馬車から降り、私に向けて手を差し出した。


「ありがとうございます。此処が……」


 ぐるりと見渡した訓練場は、学校のグラウンドの倍くらいの広さがあった。簡易的な門にある鐘を鳴らすと、がらんがらんと大袈裟な音がする。このくらいの大きさではないと、反対側の端にある建物には聞こえないからだろう。


 少し待っていると、遠くの方にある建物の扉が開き、騎士が一人、大きく手を振りながら此方に駆け寄ってきた。


「オリバー!! ユイ嬢!! よく来てくれた!!」


 顔が視認できるようになったところで、イーサン様が大きな声を出した。流石に同じ声量は出せないので此方も手を振り返すと、建物の方を振り返り、何か言っているようだった。


「少々お待ちください!!」


「…………朝から暑苦しいな」


 訓練場の真ん中で、私たちと建物に向かって交互に叫ぶイーサン様を見て、オリバー様は呆れているようだった。魔術を使えば疲れないだろう、と言いたげな雰囲気である。

 とはいえ、小さく手を振り返している辺り、やっぱり仲は良いのだろう。


「待たせて済まない。オリバー、ユイ嬢、改めて、今日はよろしく頼む」


「おはようございます、イーサン様。今日はよろしくお願いします」


 挨拶をしていると、イーサン様の後ろにずらりと騎士たちが並び始めた。人数は50人くらいだろうか。

 全員が揃っていることを確認してから、イーサン様は私を軽く手招きし、騎士たちに向き直った。


「皆に紹介しよう。本日、お招きしたユイ嬢だ」


 そっと促されたので、一歩前に出て簡単に名乗り、頭を下げる。イーサン様は騎士たちの反応を一通り確認してから言葉を続ける。


「昨日頼み込んだ結果、睡眠を改善できそうな運動と呼吸法を教えてもらえることになった」


「本当ですか?」


「流石隊長!!」


「魔術師達の顔色がマシになるなら、俺達だってマシになるはず!!」


 どうやら、魔術宮での睡眠改善は、かなり噂になっているらしい。確かに魔術宮の人たちは顔色が悪かったので、急に変われば目立つかもしれない。

 大盛り上がりする騎士たちを、窘めるようにイーサン様が片手を上げる。


「静かに。失礼のないようにな」


 その言葉にぴたりと黙り込む騎士たち。統率は完璧らしい。


「ユイ嬢、お願いできるだろうか」


 はい、と小さく微笑んで、騎士たちの前に立つ。何でもやります、と意気込む騎士たちに、私は座るように指示を出した。


「では、最初にイビキの発生原因について説明します」


「え、柔軟運動ではなく?」


 次々に驚きの声が上がる。事前にイーサン様から柔軟運動と呼吸法を教えると聞いていたのだろう。


「はい。折角やるなら、きちんと理解した上で行った方が効果的ですので」


 ごくり、と騎士たちが息を飲む。聞く気は十分のようだ。一応、先に説明をする理由はある。ストレッチなどを行う時には、伸ばす部位を意識する必要があるからだ。

 それに、遠征帰り以外でもイビキがうるさいと言われる人は、自分で原因を探しやすくなる。そのため、最初に理解できるまで説明をする。


 こほん、と小さく咳払いをする。


「まず、イビキが起こるのは、寝ている間に喉が狭くなっているからです」


「喉?」


 何人かが自身の喉元に手を当てる。その喉で合っています、と首を縦に振る。


「はい。ですので、普段問題ない人も風邪をひいて喉が腫れた時にイビキをすることがあります」


 喉が狭くなっていると、呼吸をする際に喉が振動して音が出る。それがイビキという現象である。問題は、何が原因で喉が狭くなっているか、ということだ。


「で、ですが、遠征の後は何故起こるのですか?」


「我ら騎士は風邪は引くことは殆どありません」


「そうです。元気な奴でも遠征後はうるさくて」


 次々と声が上がる。やはり、遠征後のイビキ問題は深刻だったらしい。全員が真剣な表情である。


「それは、喉周りの筋肉が緩んでいるからです。お酒を飲んだ後は体から力が抜けませんか?」


「確かに……」


「潰れた奴は重たいからな……」


「そのため、お酒を飲んだり、疲労が溜まっているとイビキが起こりやすくなります」


 何人かは心当たりがあったらしい。禁酒するしかないのか、と暗い面持ちである。タバコを吸っている人は禁煙もした方が良いです。そう言おうかと思ったが、流石に騎士団に喫煙者はいないようだ。


「でも、遠征後の疲れはどうしようもないな」


「酒を吞まなくてもうるさい奴はうるさいからな……」


「そう言った人は、まず横向きに寝ると改善することもありますよ」


 横向きで寝れば喉は広がる。それでも改善しない場合、口呼吸を止めるためにマスクをつけるか、テープなどを貼って対応すればいい。

 とはいえ、遠征にあまりものを持って行くわけにもいかないだろう。まずはストレッチと呼吸法で改善を目指すべきだ。


「疲れていると口で呼吸してしまうことがあります。そうすると、更に喉が狭くなるので、イビキが悪化します。起きた時に口が渇いている人は要注意です」


 喉が狭いと気道を通る空気が減る。呼吸のために勢いよく呼吸することになり、さらに大きな音が発生しやすくなってしまうのだ。

 イビキをかいている音で自分の睡眠が妨げられることもあるし、そもそも呼吸が上手くいっていないので睡眠の質は落ちる。良いことが無いのである。


「さて、原因については皆様理解できたと思いますので、次は改善のための運動を行います」


 暗くなっていた騎士たちの顔が、少しだけ明るくなった。

次回は来週末に更新予定です。

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